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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第70話「黒き境界派の残党」

「俺は、どっちも選ぶ」


静かな地下空間に、レオの声が響いた。


消えた黒い守護者の気配は、すでに感じられない。


残されたのは、崩れかけた石床と、奥へ続く暗闇だけだった。


ガイアが小さく息を吐く。


「……簡単なことじゃないよ」


「ああ」


「生者を守れば、死者が犠牲になるかもしれない。死者を救おうとすれば、生者が危険になるかもしれない」


「だからこそ、片方を捨てる答えにはしたくない」


その隣で、守護者が静かにレオを見る。


その視線には、わずかな変化があった。


まるでレオの言葉を確かめているようだった。


「……行こう」


レオが歩き出した。


カイとミナ、ローディン、エレナ、ヴァルド、アシュレイ、そしてセイルたちも続く。


だが、地下聖域を出ようとした瞬間だった。


カツン。


遠くで、石を踏む音がした。


全員が足を止める。


「……誰かいる」


ローディンが剣に手をかける。


セイルも白い仮面を付け直した。


「この地下に残っていた者か」


「境界監視者ではありません」


セイルの声が低くなる。


「なら……」


その瞬間、通路の奥から黒い光が走った。


ドンッ!


壁が吹き飛ぶ。


煙の向こうから、数人の人影が現れた。


黒い外套。


胸元には、あの黒い紋章。


「黒き境界派……」


エレナの表情が強張った。


先頭に立つ男が、ゆっくりと煙の中から姿を現す。


「久しいな、ヴァルド」


ヴァルドの目が細くなる。


「……お前たちか」


「我々を知っているようだな」


「忘れるはずがない」


ヴァルドが一歩前へ出る。


「三百年前、研究を歪めた連中の末裔か」


男は笑った。


「末裔ではない」


黒い紋章に手を触れる。


「我々こそ、三百年前から続く研究を受け継ぐ者だ」


アシュレイが吐き捨てる。


「違う。お前たちは研究を捨てた。死者の声を聞くことも、生者を守ることも忘れて、境界を破壊することしか考えていない」


「黙れ、裏切り者」


黒い魔力が一気に膨れ上がった。


アシュレイの足元にも黒い紋章が浮かぶ。


「その紋章……」


レオが目を向ける。


アシュレイは拳を握った。


「俺が選んだものじゃない。奴らが俺の研究を奪った証だ」


「ならば返してもらおう」


男が手を上げた。


背後にいた黒き境界派の戦士たちが一斉に動く。


「来るぞ!」


ローディンが剣を抜いた。


ガキィン!


最初の一撃を受け止める。


「こいつら、前より強い!」


カイが横から斬り込む。


「だったら押し返す!」


黒装束の戦士が身を沈め、カイの剣をかわす。


次の瞬間、黒い短剣がカイの脇腹へ迫った。


「カイ!」


ミナが魔力弾を放つ。


ドンッ!


戦士が吹き飛ぶ。


「助かった!」


「礼は後!」


ミナの前にも別の敵が迫った。


杖と黒刃がぶつかる。


一撃。


二撃。


三撃。


ミナは後退しながら攻撃を受け流す。


「速い……!」


「お前たちの力は、まだ未完成だ」


敵の黒刃が杖を弾き飛ばした。


「しまっ――」


黒刃が振り下ろされる。


その瞬間。


ガシッ!


死者の鎖が黒刃を絡め取った。


「ミナには触れさせない」


レオの腕に力が入る。


《死者の鎖》


鎖が敵の腕へ巻き付き、動きを止める。


ミナが杖を拾った。


「……助かった」


「今度は自分で倒せ」


「言われなくても!」


ミナの魔法が炸裂する。


ドンッ!


戦士が壁へ叩きつけられた。


その一方で、ローディンは二人を相手にしていた。


「くっ……!」


一人の剣を受け、もう一人の蹴りを避ける。


「ローディン!」


レオが援護しようとする。


「来るな!」


ローディンが叫んだ。


「俺はこいつらを抑える! お前はあの男を見ろ!」


視線の先。


黒き境界派の指揮者が、地下聖域の奥へ向かっている。


その手には、小さな黒い石が握られていた。


レオの顔色が変わる。


「……黒い石の欠片」


男が振り返る。


「そうだ」


「何をするつもりだ」


「門を開けるわけではない」


男は黒い石を掲げた。


「確認するだけだ」


「何を?」


「お前が本当に、境界の鍵なのかをな」


黒い石が脈打つ。


ドクン。


ドクン。


地下全体が揺れ始めた。


守護者がレオの前へ出る。


そして、奥の暗闇を睨みつけた。


「……またか」


ガイアの声が震える。


「レオ、あれ……」


黒い石から、黒い糸のようなものが伸びていく。


それは地面を這い、守護者の足元へ向かっていた。


「俺の守護者を狙ってるのか……!」


レオが走り出す。


だが、指揮者が笑った。


「遅い」


黒い糸が守護者へ届く。


その瞬間。


守護者の身体から強烈な光が放たれた。


バシュッ!


黒い糸が弾き飛ばされる。


「なに……?」


指揮者の表情が初めて崩れた。


守護者はゆっくりと腕を上げる。


そして黒い石へ向けて、境界を閉じる力を放った。


ギギギギ……!


黒い石に亀裂が走る。


「馬鹿な……!」


男が後退する。


レオはその隙を逃さなかった。


「今だ!」


死者の鎖が一直線に伸びる。


男の腕を捕らえる。


「ぐっ!」


レオが引き寄せる。


男の手から黒い石が落ちた。


カラン。


床を転がった石が止まる。


しかし――


その石の奥から、小さな声が響いた。


『……鍵……』


レオが振り向く。


「……!」


『……まだ……見つからない……』


ガイアが息を呑む。


「レオ、あの声……」


「門の向こうの存在……」


黒い石が砕ける。


パリンッ!


同時に、黒き境界派の男が笑い始めた。


「そうだ……それでいい」


レオが鎖を強く引く。


「何がいい!」


「お前はまだ知らない」


男は苦しそうに笑う。


「我々が門を開ける必要など……最初からなかった」


レオの表情が変わる。


「……どういう意味だ」


「門の向こうにいるものが……こちらへ来る方法を探している」


その瞬間。


地下深くから、


ドン……。


巨大な音が響いた。


全員が動きを止める。


もう一度。


ドン……。


今度は明らかに近い。


ヴァルドが青ざめる。


「……地下聖域のさらに下か」


アシュレイが低く呟いた。


「まさか……」


セイルも奥を見つめる。


「境界が動いている」


レオは守護者を見る。


守護者もまた、暗闇を見つめていた。


そして――


地下深くから、巨大な何かが這い上がってくるような音が響いた。


ズ……ズズ……。


黒き境界派の男が笑う。


「始まった」


「何がだ!」


レオが問い詰める。


男は答えなかった。


ただ、暗闇を見つめながら呟く。


「三百年前とは違う」


「……」


「今回は、死者でも生者でもないものが、自分から境界を越えてくる」


レオの手に力が入る。


守護者が一歩前へ出た。


その身体から、かつてないほど強い光が溢れ始める。


「……守護者」


レオが隣に立つ。


「俺も行く」


守護者は何も言わない。


ただ、暗闇の奥へ歩き出した。


レオたちも続く。


その先に何がいるのか。


まだ誰にも分からなかった。


ただ一つだけ。


今までとは違う何かが、確実に動き始めていた。


――第70話・完――

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