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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第69話「もう一人の守護者」

地下聖域の奥。


レオは守護者の後を追って走っていた。


「待て、守護者!」


守護者は振り返らない。


そのまま黒い扉へ向かって進んでいく。


後ろからカイ、ミナ、ローディン、エレナ、ヴァルド、そしてセイルたちも続いてくる。


グレンだけが、その場に立ち止まっていた。


「……来るぞ」


「何が?」


ローディンが振り返る。


グレンは黒い扉を睨んだ。


「もう一体の守護者だ」


その瞬間。


ゴォン……。


地下深くから、低い音が響いた。


守護者が足を止める。


レオも立ち止まった。


「……」


黒い扉には、新たな亀裂が走っている。


パキッ。


その隙間から黒い光が漏れ出す。


「離れろ!」


ヴァルドが叫んだ。


レオたちが後退する。


しかし、守護者だけは動かない。


黒い光が守護者の身体を包み込む。


「守護者!」


レオが駆け出そうとする。


「待て!」


セイルが腕を掴んだ。


「今近づけば、お前まで巻き込まれる」


「でも!」


「信じろ」


レオは拳を握る。


黒い光はさらに強くなる。


そして――


ドンッ!


扉が開いた。


中から、一体の人影が現れた。


黒い外套。


長い髪。


その身体は半透明で、周囲には黒い霧が漂っている。


胸には、黒い紋章。


レオは息を呑んだ。


「……守護者?」


その存在は、ゆっくりと顔を上げた。


現在の守護者とは違う。


こちらは、明らかに敵意を持っている。


「……」


守護者同士が向かい合う。


しばらく、二体は動かなかった。


やがて黒い紋章を持つ守護者が口を開く。


『……久しいな』


レオの守護者が一歩前へ出る。


『まだ、生者の側にいるのか』


「……何を言ってる?」


レオが割って入る。


黒い守護者がレオを見る。


『鍵を持つ者か』


「俺のことを知ってるのか?」


『知っている』


黒い守護者の視線が、レオの手へ移る。


そこには、先ほど守護者から受け取った紋章が浮かんでいた。


『その印……』


黒い守護者の表情が変わる。


『ヴァルドが選んだのか』


ヴァルドが前へ出る。


「違う」


黒い守護者がヴァルドを見る。


『……お前』


「アシュレイと同じだ。私も、お前の存在を知らなかった」


『嘘だ』


「本当だ」


ヴァルドは苦しそうに続ける。


「三百年前、私はお前が封印されたことすら知らなかった」


黒い守護者は黙り込む。


その後ろからグレンが歩いてくる。


「教会は知っていた」


エレナが振り返る。


「グレン……」


「教会の一部は、この守護者の存在を把握していた」


ローディンが睨む。


「なぜ黙っていた?」


「危険だったからだ」


「だから封印したのか?」


「違う」


グレンが首を横に振る。


「封印したのは三百年前の研究者たちだ」


セイルが口を開く。


「我々の記録では、黒い守護者は門を閉じる役目を拒んだとされている」


レオが黒い守護者を見る。


「どうして?」


『拒んだのではない』


黒い守護者が答える。


『私は、門を閉じる必要がないと思った』


「……何?」


『死界の門は、生者が恐れるほど単純なものではない』


ガイアが低い声を出す。


「また、ややこしい話が始まったな」


黒い守護者がガイアを見る。


『お前も……死界の力を持っているな』


「それがどうした」


『いや』


黒い守護者はレオへ視線を戻す。


『お前の中にある力の方が重要だ』


レオは身構える。


「俺の力?」


『死者を従わせる力ではない』


「……」


『死者と意思を通わせる力だ』


レオの表情が変わる。


それは、今まで何度もヴァルドから聞いてきたことと同じだった。


黒い守護者が続ける。


『その力があれば、門を閉じることもできる』


「だったら……」


レオが一歩進む。


「お前も協力してくれ」


黒い守護者は黙っている。


「俺は死界の門を開きたいわけじゃない」


『……』


「門の向こうにいる奴が何なのかは分からない。でも、生きている人間を死界へ引きずり込むなら、止める」


黒い守護者の目が細くなる。


『お前は……まだ知らない』


「何を?」


『門を閉じるということが、何を犠牲にするのかを』


レオは言葉を失った。


ヴァルドが目を伏せる。


「……」


レオが振り返る。


「ヴァルド?」


ヴァルドはしばらく黙っていた。


やがて口を開く。


「三百年前、門を閉じるために……大量の死者の魂を使った」


「……」


「彼らは、自分から力を貸してくれた」


レオが黒い守護者を見る。


「それなら問題ないんじゃないか?」


『全員がそうだったわけではない』


黒い守護者の声が響く。


『門を閉じるために、死者だけでは足りなかった』


「じゃあ……」


『生者の魂も使われた』


地下が静まり返る。


エレナが青ざめる。


「そんな記録……」


「残っていない」


ヴァルドが答えた。


「教会が隠した」


グレンも否定しなかった。


「事実だ」


ローディンがグレンを睨む。


「教会が、生者を犠牲にしたのか?」


「当時の教会全体ではない。一部の研究者が行った」


セイルが黒い守護者を見る。


「だから、お前は門を閉じることを拒んだのか」


『そうだ』


黒い守護者が答える。


『門を閉じるために、新たな犠牲を生み出すくらいなら……私は門を開いたままにする』


レオは考え込む。


「……じゃあ、どうすればいい」


黒い守護者はレオを見る。


『お前なら、別の方法を見つけられるかもしれない』


「別の方法?」


『死者と生者、その両方の意思を尊重する方法だ』


レオの胸に、これまで自分が使ってきた力が蘇る。


死者に命令するのではなく、力を借りる。


「……俺は、その方法を探す」


黒い守護者が黙ってレオを見る。


『ならば……』


黒い霧が少しずつ薄れていく。


『私はお前を殺さない』


カイが剣を構える。


「殺さないって……味方になるのか?」


『まだ違う』


黒い守護者は答える。


『だが、敵にもならない』


そして、レオの守護者へ視線を向ける。


『お前も……この者を選んだのだな』


守護者は静かに頷く。


二体の守護者が互いに近づく。


そして、胸に刻まれた紋章が同時に光った。


パァァッ。


地下聖域全体に光が広がる。


黒い扉に刻まれていた亀裂が、一つずつ閉じていく。


「封印が……」


エレナが呟く。


だが、完全には閉じない。


中央に細い亀裂だけが残った。


黒い守護者がレオを見る。


『まだ、門は閉じていない』


「分かってる」


『ならば覚えておけ』


黒い守護者の姿が薄れていく。


『次に会う時、お前は選ばなければならない』


「何を?」


最後に、その声だけが響いた。


『生者か、死者か』


黒い守護者が消える。


地下には、静寂が戻った。


レオは残された黒い扉を見つめる。


「……俺は、どっちも選ぶ」


ガイアが静かに笑った。


「それでこそ、お前だ」


守護者がレオの隣に立つ。


レオはその姿を見て、強く頷いた。


まだ、終わっていない。


むしろ――


ここからが、本当の始まりだった。


――第69話・完――

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