第67話「境界を守る者」
地下深く。
白い仮面の男たちと、レオたちは向かい合っていた。
誰も動かない。
先ほどまで聞こえていた振動も、今は止まっている。
レオは杖を下ろさない。
「……お前たちは、死界の門を監視していると言ったな」
「ああ」
「だったら、どうして今まで何もしなかった?」
白い仮面の男は静かに答えた。
「門は長い間、安定していた」
「三百年前までは?」
「三百年前も監視していた」
その言葉に、ヴァルドが反応する。
「待て」
白い仮面の男へ近づく。
「お前たちは……三百年前からここにいたのか?」
「いた」
「なら、なぜ私たちの前に姿を現さなかった?」
「姿を現す必要がなかったからだ」
ヴァルドの表情が険しくなる。
「……黒き境界派が門を開こうとした時も?」
「あの時も監視していた」
「なら、なぜ止めなかった!」
声が地下に響く。
白い仮面の男は動じない。
「我々の役目は、門を閉じることではない」
「じゃあ何だ」
「門を開けてはいけない者を見極めることだ」
レオが眉を寄せる。
「見極める?」
「誰が門を開くのか」
男はレオを見る。
「そして、誰が門を閉じるのか」
守護者が一歩前へ出た。
白い仮面の男たちが、一斉に守護者へ視線を向ける。
「……境界守護者」
男が静かに呟く。
「本当に目覚めていたか」
レオは守護者の隣に立つ。
「守護者について知っていることを全部話せ」
「……いいだろう」
男は白い仮面を外した。
現れたのは、年齢の分からない男の顔だった。
「私はセイル」
「セイル……」
「境界監視者の一人だ」
エレナが尋ねる。
「境界監視者というのは、あなたたちの組織ですか?」
「そうだ」
「では、なぜ聖王教会の記録には存在しないのです?」
セイルは少しだけ目を細める。
「教会より古いからだ」
「……!」
「我々は、教会が生まれるより前から存在している」
ヴァルドが驚いたように呟く。
「そんな……」
セイルは石碑を指差す。
「死界の門は三百年前に生まれたものではない」
レオが反応する。
「じゃあ、いつから?」
「分からない」
「分からない?」
「我々が知る限り、門は最初から存在していた」
地下に沈黙が落ちる。
ガイアが呟いた。
「……じゃあ、三百年前の事件は最初の事件じゃなかったのか」
セイルは頷く。
「違う」
レオの顔が険しくなる。
「過去にも、門は開いたのか?」
「何度も」
ミナが息を呑む。
「何度も……?」
「だが、そのたびに閉じられてきた」
レオは守護者を見る。
「そのたびに……守護者が?」
「そうだ」
セイルは頷く。
「境界守護者は、一人ではない」
レオが目を見開く。
「……え?」
セイルの言葉が続く。
「時代ごとに、鍵を持つ者が現れる」
「そして、その者のそばに守護者が現れる」
レオは守護者を見る。
「じゃあ……俺の前にもいた?」
「いた」
「その人たちはどうなった?」
セイルの表情が変わる。
「全員が、最後まで生き残ったわけではない」
レオは黙り込む。
「……死んだのか」
「何人かは」
ミナが不安そうにレオを見る。
カイが拳を握る。
「じゃあレオも……」
「違う」
セイルが遮った。
「過去の鍵を持つ者と、お前は違う」
「何が違う?」
「お前は死者の声を聞く」
レオの目が鋭くなる。
「それなら過去のネクロマンサーも――」
「違う」
セイルは守護者を見る。
「お前は死者を従わせているのではない」
レオの胸がざわつく。
「……死者に力を貸してもらっている」
「そうだ」
ガイアが小さく笑う。
「やっぱりな」
セイルは続ける。
「だから、守護者もお前を選んだ」
その時。
守護者の身体から光が漏れた。
セイルが目を細める。
「……もう一つ、変化している」
「何が?」
「守護者の力だ」
守護者の胸元に、小さな紋章が浮かび上がる。
レオが驚く。
「今まで、こんなの……」
紋章はゆっくりと回転し、レオの手の甲へ移った。
「っ!」
レオの身体に死者の力が流れ込む。
だが、苦しくない。
むしろ――
死者たちの声が、いつもより鮮明に聞こえる。
『……レオ』
『……ここだ』
『……門の奥に……』
レオが息を呑む。
「声が……」
ガイアが驚く。
「何が聞こえる?」
レオは目を閉じる。
無数の声の中に、一つだけ異質な声が混じっている。
『……近づいている』
「何が?」
『……門を開く者が』
レオが目を開く。
「セイル!」
「分かっている」
セイルも異変を感じ取っていた。
「誰かが地上から、この場所へ向かっている」
ローディンが剣を抜く。
「黒い紋章の連中か?」
「違う」
セイルが首を横に振る。
「今度は……教会だ」
エレナが顔を強張らせる。
「教会?」
その瞬間。
上から複数の足音が響いた。
ドン!
地下への入口が破壊される。
「いたぞ!」
聖騎士たちの声。
ローディンが振り返る。
「……なぜここまで来た?」
先頭の聖騎士が叫ぶ。
「エレナ! その者たちから離れろ!」
エレナが驚く。
「待ってください!」
「その地下には禁じられた存在がいる!」
レオはセイルを見る。
セイルは静かに呟いた。
「始まったな」
「何が?」
「三百年前と同じだ」
セイルが仮面を被り直す。
「教会と境界を巡る戦いが、再び始まる」
その瞬間。
地下のさらに奥から――
ゴォォォン!
巨大な音が響いた。
レオは黒い扉へ振り返る。
扉の隙間から、黒い光が漏れ始めていた。
――第67話・完――




