第66話「謎の紋章」
地下深く。
レオたちは、守護者が見つけた小さな扉の前に立っていた。
誰も口を開かない。
扉に刻まれた紋章。
黒い紋章でもない。
聖王教会の紋章でもない。
三つの円が重なり、その中心に一本の縦線が伸びている。
「……こんな紋章、見たことない」
エレナがじっと見つめる。
ヴァルドも眉を寄せた。
「私も知らない」
「三百年前の人間でも知らないのか?」
「少なくとも、私が知る限りではな」
カイが扉を調べる。
「鍵穴はないな」
ミナが首を傾げる。
「じゃあ、どうやって開けるの?」
その時。
守護者が扉の前に立った。
ゆっくりと手を伸ばす。
紋章に触れた瞬間――
パァァッ。
淡い光が広がった。
「また守護者が……」
レオが近づく。
すると紋章の中央に文字が浮かび上がった。
『境界を守る者』
レオの表情が変わる。
「守護者のことか?」
守護者は答えない。
さらに文字が浮かぶ。
『鍵を持つ者』
今度は、紋章の光がレオへ向いた。
「……俺?」
ガイアが唸る。
「二人が揃わないと開かない仕組みか」
レオと守護者が同時に扉へ手を伸ばす。
ズズズ……。
石の扉がゆっくり開いていく。
中は小さな部屋だった。
壁一面に古い文字が刻まれている。
そして中央には、一つの石碑。
エレナが駆け寄る。
「記録……?」
石碑には文章が刻まれていた。
『死界との境界を越える者』
『その力を恐れる者』
『その力を利用する者』
『そして、その力と共に歩む者』
レオが眉を寄せる。
「……三つ?」
ヴァルドが石碑を見つめる。
「三百年前、私たちは二つの考えしかないと思っていた」
「二つ?」
「死界の力を封じるか、利用するかだ」
ヴァルドは苦々しく続ける。
「だが、第三の道を選んだ者がいた」
レオが石碑を見る。
「共に歩む者……」
その瞬間。
石碑の下部が光った。
新しい文字が現れる。
『死者と生者の境界を越える者には、二つの力が必要となる』
レオの視線が守護者へ向く。
「……俺と守護者?」
ガイアが答える。
「たぶんな」
しかし、ヴァルドが首を横に振る。
「違う」
「え?」
「この記録に書かれている二つの力は、ネクロマンサーの力と守護者の力じゃない」
ヴァルドが石碑を指差す。
その下に、小さな文字があった。
『魂を導く力』
『境界を閉じる力』
レオは息を呑む。
「俺が……魂を導く」
守護者を見る。
「そして守護者が、境界を閉じる?」
守護者が静かに頷いた。
その瞬間だった。
部屋の奥から、カチッという音が響く。
壁が開く。
中から一冊の古い本が落ちてきた。
ドサッ。
エレナが拾い上げる。
表紙には、先ほどの謎の紋章。
「この紋章……本にもあります」
ページを開く。
最初のページには、一人の人物について書かれていた。
『境界守護者』
エレナが読み進める。
「境界守護者は、生者でも死者でもない……」
レオが黙って聞く。
「死界との境界に生まれ、門が開かれた時のみ現れる存在……」
カイが守護者を見る。
「じゃあ、こいつは……ずっと門が開くのを待ってたってことか?」
エレナはページをめくる。
「いえ……」
「どうした?」
「違います」
エレナの顔が青ざめる。
「この記録によると、境界守護者は門が開いた時に現れるのではありません」
レオが聞き返す。
「じゃあ?」
「門が開く前に、鍵を持つ者を探し出す」
レオの目が見開かれる。
守護者がこちらを見る。
「……俺を?」
守護者は静かに頷いた。
ガイアが低く呟く。
「だから、ずっとレオのそばにいたのか……」
レオは守護者の顔を見る。
今まで何度も助けられた。
何も語らず、ただ自分の前に立っていた。
「……ありがとう」
守護者は少しだけ目を細めた。
その時――
ドンッ!
部屋全体が揺れた。
「何だ!」
ローディンが剣を抜く。
石碑に新しい亀裂が走る。
ヴァルドが叫んだ。
「ここを出ろ!」
「どうした?」
「この部屋そのものが封印なんだ!」
「封印?」
「アシュレイが目覚めたことで、別の封印まで連鎖している!」
ドンッ!
さらに大きな揺れ。
天井から石が落ちる。
ミナが叫ぶ。
「危ない!」
守護者がミナの前へ移動し、落下した石を受け止める。
「守護者!」
守護者は石を押し退ける。
その直後。
地下の奥から、複数の足音が聞こえてきた。
カツ……。
カツ……。
カツ……。
レオが振り返る。
「誰かいる」
ローディンが剣を構える。
「黒い紋章の連中か?」
「……違う」
ガイアが答える。
「これは……人間じゃない」
暗闇の向こう。
白い仮面をつけた者たちが姿を現した。
全員が同じ白い衣を身につけている。
その胸には――
あの謎の紋章。
先頭の男が口を開く。
「その本を返してもらおう」
レオが杖を構える。
「お前たちは何者だ?」
男は答える。
「我々は、境界を守る者」
その言葉に、守護者が反応した。
男は守護者を見る。
「……やはり、目覚めていたか」
レオの表情が険しくなる。
「守護者を知ってるのか?」
男は静かに頷いた。
「知っている」
そして――
「我々は、お前たちより遥か昔から、死界の門を監視している」
レオは杖を握り直した。
「だったら教えろ」
「何を?」
「死界の門の向こうにいる奴は、何者なんだ!」
白い仮面の男はしばらく沈黙した。
やがて、低い声で答えた。
「……我々にも、正体までは分からない」
「……!」
「だが、一つだけ分かっている」
男がレオを指差す。
「奴は、お前を待っている」
地下に、再び大きな振動が走った。
――第66話・完――




