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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第65話「封じられたネクロマンサー」

地下深く。


石扉の奥から響いた音が、静かな空間を震わせていた。


ゴゴゴゴ……。


レオは杖を構える。


「……何かいる」


「気を抜くな」


ローディンが剣を抜いた。


カイとミナもレオの左右に並ぶ。


守護者は何も言わず、石扉を見つめていた。


「守護者、大丈夫か?」


守護者は小さく頷く。


ガイアが周囲を警戒する。


「この気配……死者だ」


「さっきの声の奴か?」


「違う」


ガイアの声が低くなる。


「もっと近い。しかも……人間の死者に近い気配だ」


ヴァルドが石扉へ近づいた。


「……まさか」


「何か知ってるのか?」


「いや……あり得ない」


ヴァルドの顔から余裕が消えていた。


「この封印を作った時、ここには一人のネクロマンサーがいた」


エレナが驚く。


「ネクロマンサーが?」


「彼は死界の研究を続けることを拒んだ」


「それなら、なぜ封印を?」


「研究を止めようとしたからだ」


ヴァルドは拳を握る。


「黒き境界派が門を開こうとした時、彼はそれを止めようとした」


レオは石扉を見る。


「じゃあ、その人は……」


「最後まで戦った」


ヴァルドが答える。


「そして、消息を絶った」


その瞬間。


石扉の奥から声が響いた。


『……ヴァルド』


ヴァルドの表情が固まる。


「……その声」


『久しいな』


「……嘘だろ」


石扉に亀裂が走る。


バキッ。


黒い霧が漏れ出す。


レオは死者の気配を感じ取った。


「いる……」


『ヴァルド』


「……お前なのか」


『ようやく……外の世界に戻れる』


石扉が大きく揺れる。


ローディンが前へ出る。


「危険だ。開けさせるな!」


「待ってくれ」


ヴァルドが止める。


「この声の主は敵ではない」


「なぜ分かる?」


「私は知っている」


ヴァルドは石扉を見つめる。


「彼の名は――アシュレイ」


レオが尋ねる。


「アシュレイ?」


「三百年前、私と共に死界を研究していたネクロマンサーだ」


石扉の向こうから、低い笑い声が聞こえた。


『覚えていてくれたか』


レオは眉を寄せる。


「じゃあ、どうしてここに?」


ヴァルドは答えなかった。


代わりに、石扉に刻まれた文字を見る。


『裏切りし者を封じる』


レオが目を見開く。


「……裏切り者?」


ヴァルドの顔が険しくなる。


「違う」


「何が?」


「アシュレイは裏切っていない」


その瞬間、扉の奥から声が響く。


『そうだ』


黒い霧がさらに広がった。


『私は裏切っていない』


「なら、なぜ封じられた?」


レオが問いかける。


しばらく沈黙が続いた。


そして――


『私が……門を閉じるために、死者を使ったからだ』


レオの目が変わる。


「……死者を?」


『ヴァルド、お前も同じことをした』


ヴァルドが黙る。


『だが、教会は私だけを罪人にした』


エレナが息を呑む。


「そんな……」


『私は死者を操ったのではない』


声に怒りが混じる。


『死者に力を貸してもらった』


レオの胸がざわつく。


それは、自分が使っている力と同じだった。


「……俺と同じ」


『そうだ』


声が答える。


『お前も、死者の声を聞いているな』


「……ああ」


『ならば分かるはずだ』


黒い霧の中に、人影が浮かび上がる。


長い髪。


古びた黒いローブ。


そして、胸元には――


黒い紋章。


レオが身構える。


「……黒い紋章」


アシュレイはゆっくり顔を上げた。


『この紋章は、私が望んだものではない』


ヴァルドが呟く。


「アシュレイ……」


『教会は私を封じた』


『そして私の研究を奪った』


『その研究を引き継いだ者たちが、黒き境界派になった』


レオは驚きを隠せなかった。


「じゃあ……黒い紋章を持つ奴らは、お前の研究を?」


『違う』


アシュレイの声が冷たくなる。


『奴らは、私の研究を歪めた』


その瞬間。


石扉が大きく開いた。


ドォン!


黒い霧が地下空間を覆い尽くす。


「全員、構えろ!」


ローディンが叫ぶ。


霧の中から、アシュレイが姿を現す。


しかし――


彼の身体は完全な人間ではなかった。


半透明の身体。


その足元には、死者の光が無数に漂っている。


レオは息を呑んだ。


「……死者」


アシュレイはレオを見る。


『お前が……新たなネクロマンサーか』


「ああ」


『なら、覚えておけ』


アシュレイが手を上げる。


周囲の死者たちが一斉に集まる。


『死者は武器ではない』


レオの胸に、その言葉が突き刺さる。


『そして、生者もまた……死界から逃げ続けることはできない』


アシュレイの視線が守護者へ向く。


『……まだ、お前が守っているのか』


守護者が前へ出る。


アシュレイの表情が変わった。


『そうか』


『ならば、もう時間がない』


レオが問いかける。


「何が起きる?」


アシュレイは黒い扉の方を見る。


『門が開く』


「……!」


『そして次に門を開くのは、黒き境界派ではない』


地下全体が揺れ始める。


『死界そのものだ』


その瞬間、アシュレイの身体が黒い霧へ変わり始めた。


「待て!」


レオが手を伸ばす。


『レオ』


初めて、アシュレイがレオの名を呼んだ。


『お前が鍵なら……』


黒い霧が消えていく。


『私は、お前が門を閉じるまで死なない』


「……何?」


最後に残った声だけが地下へ響く。


『また会おう』


静寂。


レオはしばらく動かなかった。


ガイアが呟く。


「……厄介な奴が出てきたな」


ヴァルドは苦い顔をしていた。


「アシュレイが目覚めたということは……」


エレナが振り返る。


「何ですか?」


ヴァルドは黒い扉を見る。


「三百年前に終わったと思っていたものが、再び動き始めたということだ」


その時。


守護者がレオの肩に手を置いた。


レオが振り返る。


「……どうした?」


守護者は地下のさらに奥を指差した。


そこには、今まで存在しなかった小さな扉があった。


その扉には――


黒い紋章でも、教会の紋章でもない。


見たことのない紋章が刻まれていた。


ガイアが息を呑む。


「……あれは何だ?」


レオは杖を握り直す。


「行ってみよう」


守護者が先頭に立つ。


一行は、まだ誰も知らない地下の奥へ進み始めた。


――第65話・完――

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