第63話「守護者の秘密」
地下聖域に静けさが戻っていた。
砕けた黒い石の欠片が床に散らばっている。
レオは、その一つを見つめた。
「……終わったのか?」
「いや」
ガイアが答える。
「門は閉じた。でも、完全に封印されたわけじゃない」
「やっぱり……」
レオは黒い扉へ視線を向ける。
先ほどまで激しく揺れていた扉は、今は静まり返っている。
その横で、守護者は何も言わず立っていた。
レオが近づく。
「守護者」
反応はない。
「さっきの声……知ってるんだろ?」
守護者の視線がわずかに動いた。
「教えてくれ」
沈黙。
カイが周囲を見渡す。
「こいつが何か知ってるなら、聞いたほうがいいんじゃねえか?」
ミナも頷く。
「私もそう思う」
だが、守護者は答えなかった。
その時、エレナが声を上げた。
「……あります」
「何が?」
「記録です」
エレナは地下聖域の奥へ向かって歩き出した。
「三百年前の記録には、まだ公開されていない資料があります」
ローディンが眉を寄せる。
「守護者についてか?」
「……はい」
レオはすぐに後を追った。
地下聖域の奥には、小さな石室があった。
エレナが壁に手を当てる。
「ここです」
カチッ。
石壁の一部が開く。
中には古びた箱が置かれていた。
蓋を開ける。
古い羊皮紙が何枚も収められている。
エレナは一枚を取り出した。
「三百年前の記録です」
レオが覗き込む。
そこには、見慣れない文字と図が描かれていた。
中央には、人のような姿。
その周囲には、死者を示すと思われる無数の光。
そして、その人物の隣に――
守護者とよく似た姿が描かれていた。
「……これ」
ミナが息を呑む。
「守護者?」
レオは絵を見つめる。
「そっくりだ……」
ガイアが低い声を出す。
「いや……ただ似てるだけじゃない」
「どういうこと?」
「この絵の周りに書かれている文字を見ろ」
エレナが読み上げる。
「『死者を導く者の傍らに立ち、境界を守る者』……」
レオの目が守護者へ向く。
「境界を……守る?」
エレナはさらに下へ目を移す。
「続きがあります」
『死界との境界が開かれた時、守護者は現れる』
「……!」
レオは言葉を失った。
ガイアが呟く。
「じゃあ……」
「守護者は、死界の門が開いた時に現れる存在……?」
カイが驚いた顔をする。
「待てよ。じゃあこいつは、最初からレオを守るためにいたのか?」
レオは守護者を見る。
守護者は静かに立っている。
「……お前は、俺を選んだのか?」
守護者は答えない。
だが、その手がゆっくりと動いた。
レオの肩へ触れる。
一瞬だけ、守護者の身体から淡い光が漏れた。
レオの脳裏に映像が流れ込む。
暗闇。
崩れた神殿。
そして三百年前の人々。
その中央に、一人の若いネクロマンサーが立っている。
その隣には――
今と同じ姿の守護者がいた。
「……ヴァルド?」
若き日のヴァルドだった。
ヴァルドは守護者へ向かって話しかけている。
『もし私が失敗したら……彼を守ってくれ』
守護者は黙って頷く。
『いつか、再び死界の門が開く』
ヴァルドは黒い石を見つめる。
『その時、私ではなく……別のネクロマンサーが必要になる』
映像が途切れた。
レオは息を荒くする。
「……今のは」
ヴァルドがこちらを見る。
「見たか」
いつの間にか、ヴァルドが石室の入口に立っていた。
「ヴァルド……」
「守護者は、私が作った存在ではない」
「じゃあ何なんだ?」
ヴァルドは首を横に振る。
「私にも分からない」
「……分からない?」
「あれは、死者でも生者でもない」
レオの表情が変わる。
「それって……」
三百年前の記録にあった言葉。
死者ではない。
生者でもない。
死界の住人とも断定できない存在。
ヴァルドは続ける。
「守護者は、死界との境界に存在するものだ」
守護者が静かに顔を上げる。
「そして私は、あの時……守護者に頼んだ」
「何を?」
ヴァルドはレオを見る。
「次のネクロマンサーが現れた時、その者を守ってほしいと」
レオの胸が大きく鳴った。
「……次のネクロマンサーって」
ヴァルドは答えなかった。
その代わり、古い記録の最後の一文を指差した。
『次なる門の鍵を持つ者が現れし時、守護者はその者の傍らに立つ』
レオは息を呑む。
「……俺が」
ガイアが静かに呟く。
「だから、お前のそばにいたのか」
守護者はレオの横へ歩み寄る。
そして黒い扉を見つめた。
その瞬間――
扉の奥から、かすかな音が響いた。
コン。
レオの表情が険しくなる。
コン。
もう一度。
守護者の目が鋭く光った。
そして三度目の音が響いた。
コン。
今度は――
扉ではなかった。
地下聖域のさらに奥。
どこか別の場所から聞こえてきた。
エレナの顔が青ざめる。
「……地下聖域は、ここが最深部のはずです」
ヴァルドがゆっくり振り返った。
「違う」
「え?」
「三百年前、ここにはもう一つ……封印された場所があった」
レオが立ち上がる。
「どこにある?」
ヴァルドは地下聖域の壁を見る。
「この下だ」
その瞬間。
守護者が初めて自ら前へ進んだ。
まるで、その場所を知っているかのように。
――第63話・完――




