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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第62話「黒い石の欠片」

地下聖域。


黒い扉が、低い音を響かせながら震えていた。


ズズズ……。


「……始まった」


エレナが顔を上げる。


その前に立っていた黒い紋章の男は、掌に小さな黒い欠片を握っていた。


それは、三百年前に砕けた黒い石の一部だった。


「これがあれば、門は再び開く」


「やめろ!」


レオが駆け出す。


しかし、その瞬間。


ガンッ!


守護者がレオの前に立ちはだかった。


「……守護者?」


守護者は黒い扉を睨みつけている。


いつもの静かな姿とは違った。


その身体から、わずかに力が漏れ出している。


ガイアが低く唸った。


「……嫌な感じがする」


「何が?」


「黒い石だ。あれはただの石じゃない。死者の力だけじゃなく、生者の魂にも反応してる」


レオは男の手を見つめた。


「だったら……止める!」


「来るか、ネクロマンサー」


男が黒い欠片を掲げる。


次の瞬間。


欠片が赤黒く光った。


ドクン。


ドクン。


黒い扉の奥から、心臓のような音が響き始める。


「……門が」


ローディンが剣を構える。


「全員、警戒しろ!」


黒い紋章の戦士たちが一斉に動いた。


カイが剣を抜く。


「また戦うってことかよ!」


ミナも杖を構えた。


「今度は逃がさない!」


戦士が一人、ミナへ迫る。


「ミナ!」


カイが割り込み、剣を弾いた。


「助かった!」


「礼は後だ!」


その横を、ローディンが駆け抜ける。


「道を開けろ!」


聖剣が振り抜かれ、二人の戦士が吹き飛んだ。


その間にレオは黒い扉へ近づく。


だが――。


「レオ、止まれ!」


ガイアの声が響く。


「え?」


「扉を見るな!」


遅かった。


扉の隙間から、黒い何かが伸びてきた。


それは腕のようにも見えた。


しかし、指は異様に長い。


レオの魂を掴もうとするように、空中を這う。


「くっ……!」


守護者が動いた。


ドンッ!


守護者の一撃が黒い腕を弾き飛ばす。


黒い腕は霧のように消えた。


「……!」


レオは息を呑む。


「守護者……今の、俺を守ったのか?」


守護者は答えない。


ただ黒い扉を見つめている。


その目に、初めて明確な警戒が浮かんでいた。


「……何か知ってるのか?」


沈黙。


だが、守護者は一歩だけ前へ出た。


まるで、


「これ以上近づくな」


そう伝えているようだった。


その時。


黒い石の欠片がさらに輝いた。


「ふふ……!」


黒い紋章の男が笑う。


「やはりそうだ。守護者まで反応するとは……」


レオが振り返る。


「どういう意味だ?」


「お前はまだ何も知らない」


男は欠片を扉へ近づける。


「その守護者も、な」


「……何?」


レオの表情が変わる。


だが男は、それ以上語らなかった。


「門よ。再び開け」


黒い欠片が扉に触れる。


その瞬間――


バァンッ!


地下聖域全体が揺れた。


「きゃっ!」


ミナが壁に手をつく。


「何だ、この揺れ……!」


天井から石が落ちてくる。


エレナが叫ぶ。


「封印が崩れています!」


「レオ!」


ガイアの声が響く。


「今までとは違う! 今回は門を閉じるだけじゃ足りない!」


レオは拳を握った。


「なら……死者の力を借りる!」


両手を広げる。


「聞こえるか!」


静まり返った地下聖域に、レオの声が響いた。


「俺に力を貸してくれ!」


すると――


床から無数の光が浮かび上がった。


死者たちだった。


彼らはレオの周囲へ集まり、静かにその身体へ力を託していく。


「……来てくれた」


レオの腕に、黒い光が絡みつく。


「《死者の鎖》!」


無数の鎖が飛び出し、黒い扉を縛り上げた。


ギギギギ……!


扉が閉じようとする。


「馬鹿な……!」


黒い紋章の男が後退する。


「三百年前とは違う……!」


レオは歯を食いしばる。


「絶対に開けさせない!」


鎖をさらに強くする。


だが――


扉の向こうから、声が響いた。


『……また……邪魔をするのか』


レオの目が見開かれる。


「……!」


その声を聞いた瞬間、守護者が初めて大きく反応した。


「……!」


守護者が黒い扉へ向かって一歩踏み出す。


ガイアが呟いた。


「……守護者、お前……」


扉の向こうから、再び声が響く。


『……守護の力……まだ残っていたか』


守護者の身体が僅かに震えた。


レオは守護者を見る。


「……知ってるのか」


守護者は答えない。


ただ、黒い扉を睨み続けていた。


そして――


黒い石の欠片に、一本の亀裂が走った。


パキッ。


男の顔から笑みが消える。


「……まずい」


「何?」


「欠片が……耐えられない」


次の瞬間。


黒い石の欠片が砕け散った。


バァァンッ!


黒い霧が地下聖域を包み込む。


「全員、伏せろ!」


ローディンの叫びが響いた。


レオは守護者とともに霧の中へ飲み込まれていく。


そして最後に――


黒い扉の向こうから、確かな声が聞こえた。


『……次は、お前を迎えに行く』


レオの背筋が凍る。


死者の声ではない。


生者の声でもない。


その存在は、確実にレオを認識していた。


霧が晴れた時。


黒い紋章の戦士たちは消えていた。


そして床には――


砕けた黒い石の欠片が一つ。


守護者はそれを見つめていた。


レオは静かに問いかける。


「……守護者」


守護者は振り返らない。


「お前は……あの声を知ってるのか?」


守護者の拳が、わずかに握られた。


答えはなかった。


だが、その反応だけで十分だった。


この地下聖域には、


三百年前には語られなかった秘密が、まだ残されている。


――第62話・完――

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