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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第60話「教会の禁忌」

 地下聖域。


 黒い扉に残った亀裂を見つめながら、レオは立っていた。


「完全には封じられていない……」


 エレナが静かに頷く。


「はい」


「だったら、どうすればいい?」


「その答えを知るために、あなたをここへ連れてきました」


 ローディンが振り返る。


「エレナ様。まだ何か隠しているのですか?」


「……あります」


 エレナは少し迷った後、レオへ向き直った。


「教会には、ネクロマンサーに関する禁忌の記録があります」


「禁忌?」


「はい」


 エレナは古い書物を取り出した。


 表紙には、封印を意味する聖印が刻まれている。


「これは教会の最高機密です」


 レオが本を受け取る。


 ページを開くと、最初に一つの文章が目に入った。


『死者を操る者を、すべて敵と定めるべからず』


「……」


 レオの目が止まる。


「今の教会の教えと違うな」


「はい」


 エレナは頷いた。


「現在の教会では、ネクロマンサーは危険な存在とされています。しかし、古い教義では違いました」


「死者と話すこと自体が悪じゃなかった?」


「そうです」


 ガイアが呟く。


『つまり、今の教会の考え方は途中で変わったんだな』


「何が原因だった?」


 レオが尋ねる。


 エレナは次のページを開いた。


「三百年前の事件です」


 そこには、黒い石と死界への接触実験について記されていた。


「実験によって、死界との境界が開いた。そして、その向こうから何かがこちら側へ干渉した」


「それで教会はネクロマンサーを恐れるようになったのか?」


「それだけではありません」


 エレナがさらにページをめくる。


 そこには一枚の古い絵が描かれていた。


 黒い扉。


 その前に立つ一人のネクロマンサー。


 そして周囲には、無数の死者たち。


「この人物……」


 レオが絵を見る。


「ヴァルドです」


 ヴァルドは何も言わず、絵を見つめていた。


「三百年前、ヴァルドは死界への門を閉じるために、死者たちの力を借りました」


「俺と同じ……」


「はい」


 レオの表情が険しくなる。


「じゃあ、教会はヴァルドをどうした?」


 エレナは黙った。


「答えてくれ」


「……記録では、ヴァルドは死亡したことになっています」


「でも、実際には違う」


「はい」


 ヴァルドがゆっくり口を開いた。


「私は死んだ」


 レオが振り返る。


「……何?」


「門を閉じた時、私の身体は限界を迎えた」


 ヴァルドは自分の胸元へ手を当てる。


「その後、私は長い眠りについた」


「じゃあ、どうやって今まで……」


「分からない」


 ヴァルドは首を横に振った。


「気がついた時には、棺の中だった」


 レオは黙り込む。


 その時、エレナが一枚の紙を取り出した。


「ですが、記録にはもう一つ重要なことが書かれています」


「何?」


「ヴァルドが封印したものについてです」


 紙には赤い文字で記されていた。


『門の向こうに存在するものを、決して呼び戻してはならない』


 レオの背筋に寒気が走る。


「何者なんだ?」


「記録には名前がありません」


「じゃあ、どうして封印した?」


「その理由だけは書かれています」


 エレナが最後の一文を読む。


「死者を生者へ戻す存在ではない」


 一拍置いて続ける。


「生者そのものを、死者へ変える存在」


 ミナが息を呑む。


「それって……」


「人を殺すってこと?」


 エレナは首を横に振った。


「違います」


 レオを見る。


「生きている人間の魂そのものを、死界へ引きずり込む存在です」


 地下聖域が静まり返る。


 その瞬間――


 ゴゴゴゴゴ……。


 黒い扉が揺れた。


「またか!」


 ローディンが剣を抜く。


 レオも扉を見る。


 小さな亀裂が、わずかに広がっている。


「封印が弱くなってる」


『レオ』


 ガイアの声が響く。


『あいつが起きようとしてる』


「……あいつ?」


『扉の向こうにいる存在だ』


 レオは拳を握る。


「だったら、もう一度封印する」


 エレナが首を横に振る。


「それだけでは足りません」


「どういうこと?」


「三百年前と違います」


 エレナはレオを見つめた。


「今は、黒い紋章を持つ者たちが動いています」


「……」


「彼らは、門を開こうとしている」


 レオの目に決意が宿る。


「だったら止める」


 その時。


 地下聖域の入口から、鐘の音が鳴り響いた。


 教会本部全体に響き渡る警報。


 ローディンが顔を上げる。


「また侵入者か?」


 エレナが耳を澄ます。


「……違います」


「何?」


「教会本部の外です」


 レオたちが振り返る。


 地上から、巨大な黒い魔力が立ち上っていた。


 そしてその中心には――


 黒い紋章が浮かび上がっていた。


「奴ら……本部そのものを狙っている」


 レオは剣を握った。


「行こう」


 教会と黒い紋章を持つ勢力。


 二つの勢力の衝突が、いよいよ本格的に始まろうとしていた。


――第60話・完――

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