第59話「崩れ始める封印」
地下聖域へ戻ったレオたちは、目の前の光景に息を呑んだ。
黒い扉。
その表面に刻まれていた無数の封印が、次々と砕けている。
「これは……」
エレナの顔から血の気が引く。
「封印が、もう持ちません」
ローディンが剣を抜く。
「ならば、俺たちも封印を手伝います!」
「無理です」
「なぜ!」
「この封印は聖なる力だけでは維持できません」
エレナが扉を見る。
「死者の力と、生者の力。その両方が必要なんです」
レオが目を細めた。
「……だからネクロマンサーが必要だったのか」
ヴァルドが頷く。
「三百年前もそうだった」
扉が大きく揺れる。
ドンッ!!
黒い亀裂が広がった。
「レオ!」
ガイアの声が響く。
『死者たちが集まってきてる!』
レオの周囲に、地下聖域に眠っていた魂たちが集まり始める。
敵意はない。
ただ、扉を見つめている。
「力を貸してくれるか?」
レオが問いかける。
無数の魂が淡く光った。
「……ありがとう」
レオが両手を広げる。
「《死者の鎖》!」
無数の鎖が扉へ伸びていく。
黒い亀裂を絡め取り、開こうとする扉を押し戻す。
「すごい……」
ミナが呟く。
「これなら……」
しかし。
パキッ。
一本の鎖が砕けた。
続いて二本。
三本。
「くっ……!」
レオの額に汗が浮かぶ。
「力が足りない……!」
その時。
地下聖域の入口から拍手が聞こえた。
「素晴らしい」
全員が振り返る。
そこには黒いローブの男たちが立っていた。
「また来たか!」
ローディンが前へ出る。
先頭に立っていたのは、第57話で現れた男だった。
「その力だ」
男はレオを見る。
「やはり、お前なら門を抑えられる」
「だったら何で邪魔する?」
「邪魔をしているわけではない」
男がゆっくり手を広げる。
「確認しているのだ」
「何を?」
「お前が、本当に三百年前のヴァルドと同じ力を持っているのかを」
ヴァルドが前へ出る。
「やめろ」
男が目を見開いた。
「……ヴァルド」
「まだ終わっていない」
「三百年も眠っていた者が、何を語る?」
「三百年眠っていたからこそ分かる」
ヴァルドが黒い扉を睨む。
「この門を開けば、誰も望んだ未来には辿り着けない」
「それは、お前が決めることではない」
男が魔力を放つ。
黒い魔力が一直線にレオへ向かう。
「させるか!」
ローディンが割り込む。
剣で魔力を受け止める。
「ぐっ……!」
カイも駆け出す。
「ローディンを援護する!」
ミナが魔法を放つ。
「《光弾》!」
光が黒いローブの男たちを押し返す。
「今だ、レオ!」
レオは扉へ向き直る。
「分かった!」
死者たちへ意識を集中する。
「みんな……もう一度だけ、力を貸してくれ!」
魂たちが一斉に輝く。
《死者の鎖》がさらに増え、黒い扉を覆っていく。
ギギギギ……。
扉が閉まり始める。
「なぜだ……!」
黒い紋章の男が叫ぶ。
「なぜ死者がお前に従う!」
レオは答える。
「従ってるんじゃない」
鎖を握り締める。
「俺たちは……一緒に戦ってるんだ!」
その瞬間。
扉の亀裂が急速に閉じていく。
黒い紋章の男たちが後退する。
「撤退する!」
「逃がすか!」
カイが追おうとする。
「待て!」
レオが止める。
「今は扉を優先する!」
最後の亀裂が閉じた。
地下聖域に静寂が戻る。
レオはその場に膝をついた。
「……終わった」
だが、ヴァルドは険しい表情をしていた。
「いや」
「え?」
ヴァルドが黒い扉を指差す。
「完全には封じられていない」
扉を見る。
確かに、中央に小さな黒い亀裂が残っている。
「これくらいなら……」
「違う」
ヴァルドが首を横に振る。
「三百年前には、こんな亀裂は残らなかった」
レオの表情が変わる。
「じゃあ……今の俺の力でも足りないってことか」
「ああ」
その時。
黒い亀裂の向こうから、かすかな声が聞こえた。
『……あと少し……』
レオが顔を上げる。
「今の声……」
ガイアが低く呟く。
『まだ終わってないぞ、レオ』
レオは黒い扉を睨みつける。
その亀裂は――
ほんの少しずつ、再び広がり始めていた。
――第59話・完――




