第57話「黒い紋章の目的」
地下聖域。
黒いローブの集団が、ゆっくりとレオたちを取り囲んでいた。
ローディンが剣を構える。
「ここは聖王教会の施設だ。貴様らを逃がすつもりはない」
「聖王教会……か」
先頭の男が周囲を見回す。
「三百年前と何も変わっていない」
「何だと?」
「自分たちが何を封じているのかすら理解していない」
エレナが一歩前へ出る。
「あなたたちは、何者ですか?」
「我々は黒き境界を守る者」
男の胸元に刻まれた黒い紋章が淡く輝く。
「そして、死界へ至る道を探す者だ」
レオの目が細くなる。
「死界へ行って何をする?」
「答えは簡単だ」
男の視線がレオへ向く。
「境界を越える」
「……」
「生者と死者を隔てる境界を」
ガイアが低い声を出す。
『やっぱりこいつら、死界そのものを狙ってる』
「でも、どうして俺の力が必要なんだ?」
男は静かに答えた。
「三百年前、ヴァルドは死者の力を借りて封印を閉じた」
ヴァルドが目を伏せる。
「その結果、死界への門は閉ざされた」
「だったら、黒い石を使えばいいだろ」
「無理だ」
男は首を横に振った。
「黒い石は、すでに壊れている」
「じゃあ……」
「必要なのは、門に反応できる者だ」
視線がレオへ向く。
「お前だ」
レオは拳を握った。
「俺を使って、死界への門を開くつもりか」
「そうだ」
カイが立ち上がる。
「ふざけんな!」
剣を抜き、黒い紋章の男へ突っ込む。
「カイ!」
男が手をかざした。
黒い魔力が壁のように広がる。
ガンッ!
カイの剣が弾かれた。
「くっ……!」
ミナが杖を構える。
「カイから離れて!」
魔力の弾丸が飛ぶ。
男の仲間が前へ出て、それを防いだ。
「ローディン!」
「分かっている!」
ローディンが一気に距離を詰める。
剣と黒い魔力がぶつかり合う。
レオも手を伸ばした。
「《死者の鎖》!」
黒い鎖が床から飛び出す。
だが――
「同じ力か」
男が鎖を見つめる。
「……違う」
レオは気づいた。
「俺の鎖を知っているのか?」
「三百年前にも、同じ力を使った者がいた」
「ヴァルド?」
「そうだ」
男は鎖を掴む。
「だが、お前の力はまだ未完成だ」
バキッ!
鎖が砕ける。
レオは後ろへ飛び退いた。
『レオ! 力で押し切るな!』
「分かってる!」
レオは目を閉じる。
周囲には、地下聖域に残された無数の死者の気配。
しかし――
以前とは違う。
無理に呼び出す必要はない。
「……力を貸してくれ」
静かに呟く。
すると、足元から淡い光が浮かび上がった。
一つ。
二つ。
三つ。
無数の魂がレオの周囲へ集まってくる。
「なに……?」
黒い紋章の男が初めて動揺した。
「死者が自ら集まっている……?」
「俺はお前たちみたいに、死者を利用しない」
レオが目を開く。
「力を貸してくれるなら、借りるだけだ」
魂たちが一斉に輝く。
「《死者の鎖・連結》!」
無数の鎖が広がり、黒い紋章の者たちを次々と拘束する。
「ぐっ!」
「動けない……!」
ローディンが一気に踏み込む。
「今だ!」
剣が黒い魔力を切り裂いた。
黒い紋章の者たちが後退する。
「撤退する!」
「待て!」
レオが追おうとした瞬間――
ヴァルドが叫んだ。
「追うな!」
レオが振り返る。
「なぜ?」
「奴らの目的は、戦うことではない」
ヴァルドは黒い扉を見る。
「レオの力を確認したんだ」
レオの表情が険しくなる。
「つまり……」
「奴らは次に来る」
黒い紋章の男が、扉の前で立ち止まった。
「ネクロマンサー」
レオを見る。
「次に会う時、お前は選ぶことになる」
「何を?」
「死者を救うか」
一瞬、男の目が赤く光る。
「それとも、生者を救うか」
男たちは黒い霧に包まれ、姿を消した。
地下聖域に静寂が戻る。
「……何だったんだ、今の」
カイが呟く。
レオは答えない。
黒い扉を見つめていた。
「エレナ」
「はい」
「この扉を封印したのは、教会なんだよな?」
「……そうです」
「だったら、教会は知ってるはずだ」
レオは振り返る。
「三百年前に何があったのか」
エレナは黙っていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「……はい」
「じゃあ、教えてくれ」
エレナの表情が曇る。
「その前に……あなたに見せなければならないものがあります」
「何?」
「教会の最深部に残された、三百年前の記録です」
レオは頷いた。
「案内してくれ」
その時、地下聖域の奥から――
再び、黒い扉を叩く音が響いた。
コン。
コン。
まるで、誰かが内側から出ようとしているかのように。
――第57話・完――




