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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第56話「三百年前の真実」

 闇の中にいた。


 音もない。


 身体の感覚もない。


「……ここは?」


 レオが辺りを見回す。


 すると、目の前に景色が浮かび上がった。


 古い聖王教会。


 今とは違い、まだ新しい建物だった。


「これは……過去?」


『そうみたいだな』


 ガイアの声が聞こえる。


『三百年前の記憶だ』


 教会の中を、一人の青年が歩いていた。


 黒いローブを身にまとい、手には杖。


 その青年の周囲には、数人の聖職者がいる。


「ヴァルド……」


 レオは呟いた。


 その頃のヴァルドは、生きていた。


「魂の流れは、やはり死界へ向かっている」


「ならば、死者を救えるのですか?」


 若い聖職者が尋ねる。


「救えるかもしれない」


 ヴァルドは石板を指差した。


「だが、死界へ直接干渉するのは危険だ」


「それでも研究を続けるのですか?」


「死者を蘇らせるためじゃない」


 ヴァルドは首を横に振る。


「死者の魂が苦しまずに眠れる方法を探している」


 レオは黙ってその光景を見つめていた。


 現在の教会とは、あまりにも違う。


 その時。


 一人の男が部屋へ入ってきた。


 胸元には、黒い紋章。


「ヴァルド」


「来たか」


「準備が整った」


「……本当にやるのか?」


「ここまで研究したんだ。確かめるべきだ」


 男は黒い石を机へ置いた。


 レオが目を見開く。


「黒い石……!」


『あれは、前に見たものと同じだ』


 黒い石から、かすかな光が漏れる。


「この石を使えば、死界との境界に干渉できる」


「しかし、失敗すれば……」


「成功すれば、死者と生者の境界を知ることができる」


 ヴァルドは迷っていた。


「やめろ」


 レオは思わず叫んだ。


 だが、過去の人間たちには声が届かない。


「始めよう」


 黒い石が祭壇へ置かれた。


 複数の魔法陣が輝く。


 教会の聖職者たちが祈りを始める。


 そして――


 空間が歪んだ。


 黒い亀裂が生まれる。


「成功した……!」


 誰かが叫んだ。


 しかし、ヴァルドの顔は険しい。


「違う……」


「何が違う?」


「これは……入口じゃない」


 亀裂の向こう。


 無数の死者の魂が見えた。


 だが、その奥には――


 巨大な何かがいた。


『……見つけた』


 低い声が響く。


 レオの身体が震える。


「何だ……あれ」


『分からない』


 ガイアも警戒している。


 ヴァルドが叫んだ。


「閉じろ!」


「もう遅い!」


 黒い魔力が部屋中に広がる。


 聖職者たちが次々と倒れていく。


 黒い紋章の男が石へ手を伸ばす。


「これほどの力……!」


「触るな!」


 ヴァルドが止める。


 だが――


 男の身体から黒い紋章が広がった。


「ぐっ……!」


 男が苦しみ始める。


 その瞬間、ヴァルドが杖を掲げた。


「死者よ!」


 大量の魂がヴァルドの周囲へ集まる。


「私に力を貸してくれ!」


 魂たちはヴァルドへ集まり、黒い魔力を押し返していく。


 レオは息を呑んだ。


「俺と……同じだ」


 ヴァルドは死者を支配していなかった。


 死者の意思を尊重し、その力を借りていた。


 レオの《死者の鎖》と同じ力の根にあるもの。


「閉じろおおお!」


 ヴァルドの力によって、亀裂が徐々に閉じていく。


 だが完全には閉じない。


 黒い石が砕けた。


 そして床へ落ちた破片の一つが――


 黒い紋章を刻んだ。


 映像が途切れる。


「……!」


 レオは現実へ戻った。


 目の前には地下聖域。


 倒れているカイとミナ。


 剣を構えるローディン。


 そして、石碑の前に立つエレナ。


「レオ!」


 ガイアの声が響く。


『戻ってきたな!』


「ああ……」


 レオは息を整える。


「三百年前に何があったのか……少し分かった」


 ヴァルドもレオを見ていた。


「見たのか……」


「全部じゃない。でも、分かった」


 レオは黒い扉を見る。


「あの扉の向こうには、ただ死者がいるんじゃない」


 ヴァルドが静かに頷く。


「そうだ」


「何かがいる」


「……ああ」


 その時。


 地下聖域の入口から足音が響いた。


 複数。


 ローディンが振り返る。


「誰だ!」


 闇の向こうから、黒いローブの集団が姿を現した。


 胸元には――


 黒い紋章。


「また来たか……」


 レオが構える。


 先頭の男が口を開いた。


「ヴァルド」


「……」


「三百年前の失敗を、もう一度繰り返すつもりか?」


 レオの表情が変わる。


「失敗……?」


 男はレオを見る。


「そうだ」


 そして――


「今度は、お前の力を使ってな」


 地下聖域に、再び戦いの気配が満ちた。


――第56話・完――

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