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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第55話「棺の中の死者」

 地下聖域。


 開かれた棺の中から、ゆっくりと人影が起き上がった。


 白く乾いた肌。


 古びた黒いローブ。


 そして、胸元には見覚えのない紋章。


「……死者なのか?」


 カイが剣に手をかける。


「待って」


 レオが前へ出る。


 目の前の死者は、レオをじっと見つめていた。


「お前は……誰だ?」


「……名は……」


 死者は苦しそうに息を吐く。


「ヴァルド……」


 エレナが驚いた。


「ヴァルド……?」


「知ってるのか?」


「いいえ。ただ……古い教会文書で、その名前を見たことがあります」


 ヴァルドはゆっくりとレオを見る。


「お前……ネクロマンサーなのか……」


「ああ」


「ならば……教えてくれ」


 ヴァルドが一歩近づく。


「三百年後の世界は……どうなった?」


 レオは答えに困った。


「三百年前のことを知りたい」


「……そうか」


 ヴァルドは静かに笑った。


「ならば……私が知っていることを話そう」


 ローディンが警戒する。


「待て。そいつが何者なのか分からない」


「分かってる」


 レオは視線を逸らさない。


「だから聞くんだ」


 ヴァルドは石碑へ目を向けた。


「三百年前……この場所には、教会とネクロマンサーが集まっていた」


「教会と……?」


「当時の教会は、今とは違った」


 エレナが息を呑む。


「違った……?」


「死者を恐れてはいなかった」


 その言葉に、レオが反応する。


「じゃあ、ネクロマンサーと戦っていなかったのか?」


「最初はな」


 ヴァルドの表情が曇る。


「私たちは共に、死界の研究をしていた」


 レオの目が見開かれる。


「死界……」


『やっぱり繋がってる』


 ガイアの声が響いた。


「死界への扉を作ったのか?」


「違う」


 ヴァルドは首を横に振った。


「扉は……もともと存在していた」


 地下聖域の空気が凍る。


「俺が見つけた扉も?」


「お前が見たものが同じものかは分からない」


「じゃあ何を研究していた?」


「死者の魂がどこへ行くのか。そして……死者と生者が再び交わることができるのか」


 ミナが小さく呟く。


「そんなこと……できるの?」


「できなかった」


 ヴァルドは答える。


「だからこそ、研究は禁じられた」


「誰に?」


「教会だ」


 エレナが顔を強張らせる。


「……教会が?」


「研究を危険だと判断した」


 ヴァルドは続けた。


「だが、一部の教会関係者は研究を続けた」


 レオは黒い紋章を思い出す。


「それが……黒い紋章を持つ勢力?」


「……そうだ」


 初めてヴァルドがはっきりと答えた。


「彼らは元々、教会の内部にいた」


 ローディンが驚く。


「そんな馬鹿な……」


「信じられないのは分かる」


 ヴァルドは静かに目を閉じる。


「だが、黒い紋章は最初から敵の印だったわけではない」


「じゃあ、何のための紋章だった?」


「死者と生者の境界を研究する者たちの印だ」


 レオは黙り込む。


 黒い石。


 地下聖堂。


 三百年前のネクロマンサー。


 そして黒い紋章。


 すべてが繋がり始めている。


「じゃあ……どうして敵になった?」


 ヴァルドの表情が変わった。


「……ある事件が起きた」


「事件?」


「死界への接触だ」


 その瞬間。


 地下聖域の奥から、低い音が響いた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 黒い扉が震えている。


 ヴァルドが振り返った。


「まずい……」


「何が起きてる?」


「封印が弱くなっている」


 エレナが青ざめる。


「封印……?」


「この地下聖域そのものが、あるものを封じるために作られた」


「あるものって何だ?」


 ヴァルドは答えない。


 ただ、レオを見つめる。


「お前がここへ来たことで……封印が目を覚ました」


「俺が……?」


「お前の力が、あの扉に反応している」


 レオは黒い扉へ目を向ける。


 扉の中央。


 黒い紋章が、ゆっくりと輝いていた。


 その瞬間――


 扉の向こうから声が響いた。


『ネクロマンサー……』


 レオの身体が強張る。


『こちらへ来い……』


 ガイアが叫ぶ。


『レオ! 絶対に近づくな!』


 だが、レオは動かなかった。


 声の主は――


 確かに自分を呼んでいた。


「お前は……誰なんだ?」


 返事はない。


 代わりに、黒い扉に一筋の亀裂が走った。


 ヴァルドが叫ぶ。


「逃げろ!」


 ドンッ!!


 黒い魔力が地下聖域を覆った。


 そしてレオの視界が――


 闇に染まった。


――第55話・完――

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