第54話「封印された地下聖域」
聖王教会本部。
エレナの案内で、レオたちは地下へ続く階段を下りていた。
石造りの階段は、地下聖堂へ続いていた道よりもさらに古い。
壁には古びた聖印が並び、その一部は長い年月によってひび割れている。
「ここ……本当に教会の地下なのか?」
カイが周囲を見回す。
「一般の教会関係者にも知らされていない場所です」
エレナが答える。
「なら、なんで俺たちを連れてきた?」
「先ほどの襲撃で、隠しているだけでは危険だと判断しました」
ローディンは納得していない様子だった。
「エレナ様。本当にこの場所を見せるのですか?」
「ええ」
「ここは教会上層部でも立ち入りを禁じているはずです」
「だからこそです」
レオは黙って階段を下りていた。
妙だった。
地下へ進むほど、死者の気配が強くなっている。
「……いる」
レオが足を止める。
「何が?」
ミナが尋ねる。
「死者だ」
ガイアの声が響く。
『かなり多いな。しかも……普通の死者じゃない』
階段の先。
巨大な鉄扉が姿を現した。
扉には聖王教会の紋章が刻まれている。
だが、その中央にはもう一つ。
黒い紋章が刻まれていた。
「また……」
レオが目を細める。
「どうして教会の地下に、黒い紋章がある?」
エレナは答えなかった。
代わりに、扉の前へ進む。
「ここから先は、私にも詳しいことは分かりません」
「エレナにも?」
「はい」
エレナが胸元から古い鍵を取り出す。
「この鍵を持つことだけを命じられていました」
鍵を差し込む。
ガチャッ。
重い音が響いた。
扉がゆっくりと開く。
その瞬間。
冷たい風が吹き抜けた。
「……っ」
レオの身体が反応する。
奥から大量の死者の気配が流れ込んできた。
『レオ』
ガイアの声が低くなる。
『気をつけろ』
「分かってる」
全員が中へ入る。
そこには巨大な空間が広がっていた。
中央に巨大な石碑。
その周囲には、何十もの棺が並んでいる。
だが、棺には聖王教会の聖印も、黒い紋章も刻まれていない。
代わりに――
一つの見知らぬ紋章が刻まれていた。
「この紋章……何だ?」
ローディンも知らないらしい。
「私も初めて見ます」
エレナが石碑へ近づく。
すると、レオの身体から黒い魔力が漏れ出した。
「レオ?」
「違う……俺が出してるんじゃない」
石碑が反応している。
黒い魔力が石碑の表面を走った。
そして――
文字が浮かび上がる。
『死者を恐れる者よ』
『死者を利用する者よ』
『死者と共に歩む者よ』
レオは息を呑んだ。
「……俺に向けて書かれてるのか?」
さらに文字が浮かぶ。
『三百年前、扉は開かれた』
レオの表情が変わる。
「三百年前……」
地下礼拝堂で見たネクロマンサーの姿が脳裏に蘇る。
その時。
棺の一つから音がした。
コン……。
「!」
全員が振り返る。
コン……コン……。
中から何かが叩いている。
「下がってください!」
ローディンが剣を構える。
レオは手を前へ伸ばした。
「待って」
「しかし!」
「敵とは限らない」
レオは棺へ近づく。
そして、そっと手を触れた。
「聞こえるか?」
返事はない。
「俺はレオ。ネクロマンサーだ」
静寂。
やがて――
棺の中から声が聞こえた。
『……ネクロマンサー……』
レオの目が見開かれる。
「喋った……」
棺の蓋がわずかに動く。
『……まだ……生きているのか……』
「誰なんだ?」
『……私は……』
そこで声が途切れた。
突然、部屋全体に警報音が鳴り響く。
「何!?」
ミナが驚く。
エレナの顔色が変わった。
「封印が……!」
石碑に亀裂が走る。
ローディンが剣を構え直した。
「エレナ様! 何が起きているんです!」
「分かりません!」
レオは石碑を見つめる。
亀裂の向こうから、黒い魔力が噴き出している。
そして、その魔力の中に――
あの黒い紋章が浮かび上がった。
「……黒い紋章」
レオの背後でガイアが叫ぶ。
『レオ! 来るぞ!』
次の瞬間。
棺の蓋が一斉に開いた。
中から無数の黒い影が立ち上がる。
「死者……!」
レオは拳を握る。
しかし、その死者たちはレオには襲いかからなかった。
全員が同じ方向を向いている。
地下聖域の最奥。
そこには、巨大な黒い扉があった。
その扉の向こうから――
何かがこちらを見ていた。
『……やっと……来たか』
レオの背筋に悪寒が走る。
「誰だ……?」
返事はなかった。
ただ、黒い扉に刻まれた紋章がゆっくりと輝き始めた。
聖王教会。
黒い紋章を持つ勢力。
三百年前のネクロマンサー。
そして、死界へ続く扉。
すべてが少しずつ、一つの場所へ繋がり始めていた。
――第54話・完――




