第53話「黒い紋章の襲撃」
聖王教会本部。
警報の鐘が鳴り響き、建物全体が騒然としていた。
「結界が破られた……?」
レオはエレナを見つめる。
「はい。しかも、ただの侵入ではありません」
エレナが杖を握り直した。
「黒い紋章を持つ者たちが、本部内部へ侵入しています」
「目的は……黒い石か?」
「おそらく」
ローディンが剣を抜く。
「エレナ様。ここは危険です。地下区域への封鎖を――」
「待って」
レオが口を挟んだ。
「地下?」
「……」
エレナの表情が固まる。
「地下に何がある?」
「今は答えられません」
「またそれかよ」
カイが苛立ったように吐き捨てる。
「俺たちをここまで呼んでおいて、何も教えないつもりか?」
「そういうわけではありません」
エレナが答えようとした瞬間。
ドンッ!!
遠くで大きな爆発音が響いた。
壁が揺れる。
「っ!」
ミナが身をすくめる。
「近い……!」
ローディンが扉へ走る。
「ここにいてください!」
「嫌だ」
レオも立ち上がった。
「俺たちを狙っているなら、逃げても意味がない」
「レオ!」
ガイアの声が頭の中に響く。
『気をつけろ。あの気配……前に会った連中より強いぞ』
「分かってる」
レオは拳を握った。
その瞬間。
廊下の奥から、黒い影が現れた。
黒いローブ。
そして胸元に刻まれた、黒い紋章。
「来たか……」
ローディンが剣を構える。
黒い紋章の男は、ゆっくりと顔を上げた。
「ネクロマンサー、レオ」
「……俺を知ってるのか」
「当然だ」
男の視線がレオへ向く。
「我々が求めているのは、お前自身ではない」
「じゃあ何だ?」
「お前の中にある力だ」
レオの表情が険しくなる。
「死者の力……」
「そうだ」
男が手を掲げる。
すると、廊下の床から黒い魔力が噴き出した。
「下がれ!」
ローディンがレオたちの前に出る。
剣を振り下ろす。
しかし――
ガキンッ!
「なに……!」
剣が黒い魔力に弾かれた。
男は微動だにしない。
「聖王教会の騎士程度では、止められない」
「舐めるな!」
ローディンが再び踏み込む。
その横をレオが走り抜けた。
「レオ!」
「俺がやる!」
レオの足元に黒い魔力が集まる。
「《死者の鎖》!」
地面から黒い鎖が伸び、男の腕へ絡みつく。
「……!」
男の動きが止まった。
「これが……死者を率いる力か」
男の口元がわずかに笑う。
「やはり間違いない」
「何がだ!」
「お前は、あの男と同じだ」
「……あの男?」
レオの脳裏に、地下礼拝堂で見た映像が蘇る。
古い時代のネクロマンサー。
死者たちを従わせるのではなく、その力を借りていた男。
「三百年前のネクロマンサー……」
男は答えなかった。
代わりに、鎖を握り潰す。
バキッ!
「!」
《死者の鎖》が砕け散った。
ガイアが叫ぶ。
『レオ! こいつ、普通じゃない!』
黒い魔力が膨れ上がる。
その瞬間――
「そこまでだ」
別の声が響いた。
廊下の奥。
一人の男が立っていた。
「……ゼルク」
レオの目が細くなる。
ゼルクは黒い紋章の男を見つめた。
「撤退しろ」
「ゼルク……なぜここに?」
「目的を変える必要はない。ここで戦えば、余計な連中まで動く」
「しかし――」
「命令だ」
短い言葉だった。
黒い紋章の男はしばらくゼルクを睨み、やがて魔力を消した。
「……分かった」
男たちは一斉に後退する。
「待て!」
ローディンが追おうとする。
だが、ゼルクが振り返った。
「追うな」
「貴様に命令される筋合いはない!」
「なら死ぬだけだ」
ローディンが足を止める。
ゼルクの視線がレオへ移る。
「レオ」
「何だ」
「ここにいる限り、お前は真実に近づけない」
「どういう意味だ?」
「教会が隠しているものを、自分の目で確かめろ」
「……地下か?」
ゼルクは答えなかった。
ただ、背を向ける。
「近いうちに、教会そのものが動く」
「ゼルク!」
レオが呼び止める。
「お前は何を知ってる?」
ゼルクは一瞬だけ立ち止まった。
「……全部ではない」
それだけ残して、闇の中へ消えていった。
静寂が戻る。
ローディンは剣を下ろさない。
「エレナ様」
「はい」
「説明してください」
エレナはしばらく黙っていた。
やがて、レオを見る。
「……分かりました」
「何を?」
「あなたたちに、地下聖堂よりさらに下にある場所を見せます」
レオの目が見開かれる。
「さらに下……?」
「そこには、教会が長い間封印してきたものがあります」
ガイアの声が低くなる。
『レオ……嫌な予感がする』
レオは静かに頷いた。
「行こう」
聖王教会本部の地下。
そこには、まだ誰も知らない秘密が眠っていた。
――第53話・完――




