第50話「死者を率いる者」
地下礼拝堂。
レオの背後には、黒い影となった死者たちが並んでいた。
聖騎士たちは、その光景を前に動けずにいる。
「……これが、ネクロマンサーの力」
ミナが呟く。
レオはゆっくりと死者たちを見渡した。
「俺の命令に従え、とは言わない」
一体の死者がレオを見る。
「お前たちが望むなら……力を貸してくれ」
死者たちが静かに頷いた。
その瞬間――
黒い魔力が地下礼拝堂を包み込んだ。
「来るぞ!」
聖騎士が叫ぶ。
死者たちが一斉に動き出す。
「迎え撃て!」
聖騎士たちも突撃する。
剣と死者の影がぶつかり合う。
ガキンッ!
「くっ……!」
カイが聖騎士の剣を受け止める。
「こいつら、強い!」
「カイ!」
「大丈夫だ!」
カイが剣を弾き返す。
その横では、ミナが魔法を放っていた。
「《風刃》!」
風の刃が聖騎士たちの足元を切り裂く。
「今です!」
ガイアが飛び出す。
『任せろ!』
拳が聖騎士の盾を打ち砕く。
その背後では、守護者が大剣を振るっていた。
しかし――
「そこまでだ!」
一人の聖騎士が叫ぶ。
周囲の騎士たちが一斉に距離を取った。
「何をする気だ?」
レオが構える。
聖騎士たちが剣を地面へ突き立てる。
「《聖域結界》!」
白い光が地下礼拝堂を包み込んだ。
死者たちの動きが止まる。
「……!」
レオの顔が険しくなる。
「みんな!」
死者たちが苦しそうに膝をつく。
「やめろ!」
レオが魔力を放つ。
だが、聖なる結界に阻まれる。
『レオ!』
ガイアが叫ぶ。
「分かってる!」
レオは黒い石を見る。
そこで気づいた。
死者たちは結界に苦しんでいるのではない。
黒い石そのものを守ろうとしている。
「……そういうことか」
レオは石へ手を伸ばす。
「お前たちが守ってるなら――」
黒い魔力がレオの腕へ集まる。
「俺も守る!」
ドンッ!
黒い魔力が爆発した。
白い結界に亀裂が入る。
「なっ……!」
聖騎士たちが驚く。
「《死者の鎖》!」
無数の黒い鎖が床から伸びる。
聖騎士たちの動きを封じる。
「今だ!」
死者たちが一斉に動く。
結界が完全に砕け散った。
「そんな……!」
聖騎士たちが後退する。
その時。
地下礼拝堂の入口から、別の気配が現れた。
「……遅かったか」
全員が振り返る。
黒いローブ。
胸元には黒い紋章。
黒い紋章を持つ勢力の男達が立っていた。
「お前たち……!」
レオが睨む。
男は黒い石を見る。
「その石を渡せ」
「嫌だ」
「ならば、ここで奪う」
男の周囲に黒い魔力が集まる。
だが――
「待て」
別の声が響いた。
男が振り返る。
暗闇からゼルクが現れた。
「ゼルク……」
レオが呟く。
ゼルクは黒い紋章の男を見る。
「今は戦う必要はない」
「なぜだ?」
「目的は果たした」
ゼルクがレオを見る。
「ネクロマンサーが、死者を率いることを確認できた」
レオの表情が変わる。
「……最初から、それが目的だったのか?」
ゼルクは答えない。
「いずれ分かる」
そう言い残すと、黒い紋章の者たちは撤退していく。
聖騎士たちも追おうとする。
だが、司祭が制止した。
「追うな!」
「しかし!」
「今は、この場所を守ることが先だ」
レオは黒い石を見る。
そして、背後にいる死者たちへ視線を向ける。
死者たちは、少しずつ消えていく。
「……ありがとう」
最後の一体が消える。
地下礼拝堂に静寂が戻った。
カイがレオの肩を叩く。
「終わったな」
「うん」
ミナが微笑む。
「レオさん、少し変わりましたね」
「そうかな?」
「はい」
ガイアが静かに笑う。
『お前はもう、ただ力を持つだけのネクロマンサーではない』
レオは黒い石を見つめる。
『死者の意思を受け入れ、その力を借りる者となった』
レオは頷いた。
「……もっと強くならないと」
死界。
黒い紋章。
そして聖王教会。
まだ何も終わっていない。
むしろ――
ここからが本当の始まりだった。
――第50話・完――




