第36話「死者の軍勢」
北へ進んだレオたちは、森を抜けようとしていた。
「この辺り、妙に静かだな」
カイが周囲を見回す。
『確かに。魔物の気配すらない』
ガイアが足を止めた。
ミナも不安そうに辺りを見る。
「……静かすぎます」
レオが立ち止まった。
「みんな、止まって」
「どうした?」
「聞こえる」
遠くから、地面を踏み鳴らす音。
一つ。
二つ。
やがて――
無数の魔物が木々の間から姿を現した。
「多すぎる……!」
カイが剣を抜く。
魔物の群れが、こちらへ向かってくる。
その額には、すべて黒い紋章が刻まれていた。
「また操られてる!」
ミナが杖を構える。
「どうする、レオ?」
レオは群れを見る。
「……逃げても追ってくる」
ガイアが拳を握る。
『ならば戦うしかない』
「うん」
レオが前へ出る。
「カイ、ミナ。左右を頼む!」
「任せろ!」
「はい!」
ガイアと守護者が正面へ。
魔物の群れが一斉に襲いかかる。
「《風刃》!」
ミナの風が魔物を吹き飛ばす。
「はあっ!」
カイが剣を振る。
ガイアも次々と魔物を殴り倒す。
だが、数が多すぎる。
「くそっ……!」
カイが息を切らす。
「倒しても、まだ来る!」
倒れた魔物が立ち上がる。
レオは魔物の額を見た。
「やっぱり……黒い紋章がある限り、何度でも動く」
『ならば、紋章を破壊するしかない』
「でも、この数じゃ間に合わない!」
その時。
レオの脳裏に、昨日の力が浮かんだ。
――死者を率いる。
「……そうか」
レオは周囲を見回す。
戦いの中で倒れた魔物たち。
「俺にも……できるかもしれない」
「レオ?」
レオは両手を地面へ向ける。
「来い……」
黒い魔力が地面へ広がる。
「俺の声に応えろ!」
倒れていた魔物の身体が動き始める。
カイが目を見開く。
「また……!」
一体。
二体。
三体。
次々と立ち上がっていく。
だが、今度は黒い紋章を持つ魔物ではない。
レオの魔力によって動く、死者たち。
「……これが」
レオは息を切らしながら呟く。
「俺の力……」
蘇った魔物たちがレオの前に並ぶ。
レオは敵の群れを見る。
「みんな……俺と一緒に戦ってくれ」
死者たちが一斉に動き出す。
「行け!」
二つの魔物の群れがぶつかる。
ガアアアッ!
レオの死者たちが敵の動きを止める。
「今だ!」
カイが走る。
「はあああっ!」
ミナも魔法を放つ。
「《風刃・連》!」
無数の風の刃が飛ぶ。
ガイアと守護者も敵陣へ突っ込んだ。
次々と黒い紋章が砕かれていく。
やがて――
最後の魔物が倒れた。
静寂。
レオは膝をついた。
「……はぁ……」
カイが駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うん……でも、かなり疲れた」
ガイアがレオを見る。
『これほどの数を一度に操ったのだ。無理もない』
レオは自分の手を見る。
「死者を率いる……」
さっきまで戦っていた死者たちは、すでに動かなくなっている。
「この力を使えば、もっと多くの人を守れるかもしれない」
ミナが静かに言う。
「でも……使い方を間違えたら、怖い力にもなります」
レオは頷いた。
「分かってる」
その時。
森の奥から、拍手が聞こえた。
パチ……パチ……パチ……。
「……誰だ!」
カイが剣を構える。
木々の間から、一人の男が姿を現した。
黒いローブの男。
「素晴らしい」
男は笑っている。
「まさか、これほど早く力を使いこなすとはな」
レオが睨む。
「お前……!」
男は立ち止まる。
「今度は、直接話してやろう」
そして胸元の紋章を見せた。
「俺の名は――」
男は不敵に笑った。
「ゼルク」
レオたちは、初めて敵の名を知った。
――第36話・完――




