第35話「死者を率いる力」
北へ向かう街道を、レオたちは歩いていた。
「さっきの黒い石……」
レオが手の中を見る。
「まだ気になる?」
ミナが尋ねる。
「ああ。あの石に触れた時、誰かの声が聞こえたんだ」
カイが振り返る。
「『死者を率いる者』ってやつか?」
「うん」
ガイアが考え込む。
『お前のネクロマンサーとしての力と関係している可能性は高い』
「でも、俺にはまだ何ができるのか分からない」
レオが手を握る。
「死者を率いるって……どういうことなんだろう」
その時だった。
道の先から、複数の人影が現れた。
「止まれ」
男たちが道を塞ぐ。
全員が武器を持っている。
カイが剣に手をかけた。
「何者だ?」
「それはこちらの台詞だ」
中央にいる男がレオを見る。
「ネクロマンサーだな?」
レオの表情が変わる。
「……俺に何の用?」
「お前たちを探していた」
男が剣を抜く。
「黒い紋章の連中じゃないのか?」
カイが尋ねる。
「俺たちはあんな奴らとは関係ない」
男は冷たく答えた。
「だが、お前のような危険な魔法使いを放っておくわけにはいかない」
「危険って……」
「死者を操る力は、いずれ多くの人間を脅かす」
レオは拳を握る。
「俺は誰も傷つけてない!」
「それでもだ」
男たちが一斉に武器を構える。
カイが前に出る。
「だったら、俺たちを通してからにしろ」
「カイ……」
「仲間だからな」
ミナも杖を構える。
「私も戦います」
ガイアが拳を握る。
『私もいる』
守護者も大剣を構えた。
「……みんな」
レオは仲間を見る。
そして――
自分の背後にある森へ目を向けた。
そこには、先ほど倒した魔物の死体がいくつか残っている。
「……待って」
レオはゆっくり手を伸ばした。
「もしかして……」
黒い魔力が指先から溢れ出す。
「レオ?」
「分からない。でも……呼べる気がする」
地面に倒れていた魔物の身体が、微かに動いた。
「なっ……!」
男たちが後退する。
魔物がゆっくり立ち上がる。
レオ自身も驚いていた。
「俺が……?」
黒い魔力が魔物を包む。
レオが手を下ろす。
「……来い」
魔物がレオの前へ歩いてくる。
カイが目を見開く。
「死体を……動かした?」
ガイアも驚いていた。
『これが……ネクロマンサーの力』
レオは自分の手を見る。
「俺は……死者を操れるのか」
魔物はレオの命令を待つように立っている。
レオは男たちを見る。
「俺は戦いたくない」
それでも男たちは武器を下ろさない。
「ならば、力を証明しろ!」
男が突っ込んでくる。
「レオ!」
カイが動こうとする。
しかしレオが手を上げた。
「大丈夫」
蘇った魔物が前へ出る。
男の剣を受け止めた。
「くっ……!」
魔物は男を押し返す。
しかし、レオは攻撃を命じなかった。
「止まれ」
魔物が動きを止める。
「俺は……この力を、人を傷つけるためには使わない」
男はしばらくレオを見つめた。
やがて剣を下ろす。
「……分かった」
「え?」
「少なくとも、今のお前は敵ではないようだ」
男たちは道を開けた。
「だが、その力を悪用する者もいる」
男はレオを見つめる。
「気をつけろ。ネクロマンサー」
男たちが去っていく。
静寂が戻る。
レオは蘇らせた魔物を見る。
「……ありがとう」
魔物は静かに立っている。
やがて黒い魔力が消え、再び地面へ倒れた。
レオは拳を握る。
「この力……もっと知らないといけない」
ガイアが頷く。
『力を恐れるだけではなく、理解することだ』
「うん」
レオは北を見た。
「俺は、この力の意味を知りたい」
仲間たちとともに、再び歩き始める。
その先には――
レオ自身もまだ知らない、ネクロマンサーの真実が待っていた。
――第35話・完――




