第3話「死者との契約」
夜。
村の家々に明かりが灯る中、レオは一人で窓の外を見ていた。
昼間、森から運ばれてきた男は、今も村の診療所で眠っている。
そして何より気になるのは、母親の態度だった。
「母さん……絶対何か知ってるよな」
聞いても答えてくれない。
レオは右手を見る。
黒い紋章は、まだ薄く残っていた。
「死者の声……スケルトン……」
気になって仕方がない。
レオは上着を羽織ると、静かに家を出た。
「少しだけなら……」
向かった先は、昼間の墓地だった。
森の中を進んでいくと、やがて古びた墓地が見えてくる。
「……ここだ」
昼間と同じ場所。
だが、夜になると雰囲気がまるで違う。
レオが墓地へ入った瞬間――
「……来たのか」
「!」
声がした。
振り返る。
そこには、昼間のスケルトンが立っていた。
「お前……」
スケルトンは何も言わない。
ただ、じっとレオを見ている。
「昼間も俺を襲わなかったよな」
一歩近づく。
「もしかして……俺の言葉が分かるのか?」
スケルトンがゆっくり頷いた。
「……本当に?」
レオは驚きながらも、少しだけ安心した。
「だったら教えてくれ。お前は何者なんだ?」
スケルトンは胸に手を当てる。
その瞬間、レオの頭に声が響いた。
『……ガイア』
「ガイア?」
『……それが、私の名だ』
「名前……」
ガイアはかつて人間だった。
レオには、なぜかその記憶の一部が伝わってくる。
戦場。
仲間。
そして、守れなかった人々。
「お前……ずっとここにいたのか?」
『長い間……』
「一人で?」
『そうだ』
レオはガイアを見つめた。
自分が怖がっていた存在。
だが今は、不思議と恐怖よりも寂しさを感じていた。
「……俺と一緒に来るか?」
ガイアが顔を上げる。
「俺もまだ何も分からない。でも……お前をここに一人で残したくない」
しばらく沈黙が続く。
やがてガイアは、レオの前に跪いた。
右手の紋章が強く輝く。
「うわっ……!」
地面に黒い魔法陣が広がった。
レオの頭の中に、言葉が響く。
『我、汝との契約を受け入れる』
「契約……?」
『魂を繋ぎ、命ある限り共に歩む』
レオの胸が熱くなる。
「俺は……お前を道具にはしない」
レオは右手を差し出した。
「一緒に行こう、ガイア」
黒い光が二人を包む。
そして――
レオとガイアの間に、一本の黒い光が繋がった。
契約が成立した。
レオは自分の力を初めて理解する。
死者を操るのではない。
死者と契約し、その魂を繋ぐ力。
「……これが、俺の力」
ガイアは静かに立ち上がった。
『行こう、我が主』
「……その呼び方、やめてくれ」
『では、何と呼べばいい?』
「レオでいいよ」
『分かった、レオ』
レオは少し笑った。
「じゃあ帰ろう。母さんが心配してる」
二人は並んで森を歩き始めた。
まだレオは知らない。
この日、最初の仲間となったガイアとの契約が、後に世界中から恐れられる組織の始まりになることを。
――第3話・完――




