第29話「少女の名前」
街道を歩きながら、レオは隣を歩く少女を見た。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかった」
少女が振り向く。
「私ですか?」
「うん」
「……ミナです」
「ミナか。俺はレオ」
「知ってます」
「え?」
ミナは少し慌てて口を閉じる。
「……さっき、名前を呼ばれていたので」
「そうだったっけ?」
カイが笑う。
「レオ、お前自分の名前を何回も言ってたぞ」
「そうだった?」
『確かに言っていた』
「ガイアまで……」
ミナが小さく笑う。
「仲がいいんですね」
「まあな」
カイが答える。
その後ろでは、守護者が無言で歩いている。
ミナは守護者を見つめた。
「……あの人は?」
「守護者。古い遺跡で出会ったんだ」
「守護者……?」
ミナの表情が一瞬変わった。
レオはその変化を見逃さなかった。
「どうかした?」
「いえ……何でもありません」
ミナは前を向く。
レオは気になったが、無理に聞かなかった。
しばらく歩くと、街が見えてきた。
「もうすぐだな」
カイが言う。
その時、ミナの腰にある袋が落ちた。
「あっ」
レオが拾う。
「これ、落としたよ」
「ありがとうございます!」
ミナが受け取ろうとする。
しかし――
袋から、小さな黒い金属片が落ちた。
カラン。
レオが拾う。
「……これ」
そこには、あの紋章が刻まれていた。
ミナの顔から笑顔が消える。
「それ……返してください」
「ミナ、この紋章を知ってるの?」
「……」
答えない。
カイも気づく。
「この前の魔物についてたやつと同じだ」
ミナが金属片を握りしめる。
「私は……この紋章について、少しだけ知っています」
「どこで知ったの?」
ミナは俯いた。
「私の村に……同じものがありました」
レオの表情が変わる。
「村?」
「はい。でも……」
ミナの声が震える。
「村は、なくなりました」
「……」
「何人もの人が突然いなくなって……最後には、村そのものが襲われました」
レオは金属片を見る。
「誰に?」
ミナは首を横に振る。
「分かりません」
そして、小さく続ける。
「ただ……あの紋章をつけた人たちがいました」
レオは息を呑んだ。
やはり、あの組織は各地で動いている。
森。
遺跡。
魔物。
そしてミナの村。
すべてが繋がっている。
「ミナ」
レオが静かに尋ねる。
「君は、その人たちを探してるの?」
ミナはしばらく黙っていた。
そして――
「……はい」
初めて、はっきりと答えた。
「私の村を襲った人たちを見つけたい」
レオはミナを見る。
「だったら……一緒に探そう」
「え?」
「俺たちも、あの紋章を追ってる」
カイも頷く。
「目的が同じなら、協力できる」
ガイアも笑った。
『仲間が増えるのも悪くない』
ミナは驚いた顔をした。
「私も……一緒に?」
レオは笑う。
「もちろん」
ミナは少しだけ目を潤ませながら頷いた。
「……ありがとうございます」
こうして――
レオたちの旅に、新たな仲間が加わった。
――第29話・完――




