↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第8章「修行と絆」
PR
182/184

第182話「灰峰山地の修練場」

宿場町で迎えた朝、レオたちは灰峰山地へ向かう準備を進めていた。

昨日のうちに食料や水を補充し、旅に必要な道具も揃えている。

しかし、肝心の修練場については、まだ詳しい情報を得られていなかった。

「……本当に修練場なんてあるのか?」

カイが地図を覗き込みながら尋ねた。

レオは頷いた。

「古い記録には載っているんだけど、今も使われているかは分からない」

「だったら、町の人に聞いてみようぜ」

「そうだな」

一行は宿を出ると、町の中心にある冒険者向けの案内所へ向かった。

建物の中には、依頼書を確認する冒険者や、旅の情報を交換する商人たちが集まっていた。

受付に座っていた中年の男性が顔を上げる。

「いらっしゃい。何か探しているのか?」

レオが答えた。

「灰峰山地にある修練場について、教えてほしいんです」

その言葉を聞いた男性の表情が変わった。

「……灰峰の修練場か」

「知っているんですか?」

「ああ。昔は有名だったからな」

男性は古い地図を取り出した。

「正式には『灰峰修練院』という。剣士や魔術師、武術家が集まっていた場所だ」

カイが身を乗り出した。

「今も使えるのか?」

「建物自体は残っているはずだ。ただ、昔ほど人は集まっていない」

「どうしてですか?」

ミナが尋ねた。

男性は少し考えた。

「修練院の指導者たちが各地へ散ってしまったんだ。今は一人の老人が管理していると聞く」

ガイアが口を開いた。

「……その老人の名前は?」

「確か、グレン・ヴァルディスだったかな」

カイが首を傾げる。

「強いのか?」

男性は苦笑した。

「さあな。ただ、昔は多くの剣士があの人に挑んで、一度も勝てなかったという噂がある」

「……へえ」

カイの表情が明るくなった。

レオは地図を見つめた。

「そこへ行くには、どの道を通ればいいですか?」

「西の街道から山道へ入るといい。ただし、途中から道が険しくなる」

男性は山の中腹を指差した。

「それと、修練院へ行くなら覚えておけ」

「……何をですか?」

「グレンは、誰でも弟子にするわけじゃないらしい」

レオは頷いた。

「分かりました。ありがとうございます」

情報を得た一行は、町を出発した。

灰峰山地へ続く街道は、最初こそ穏やかな草原に囲まれていたが、進むにつれて岩場が増えていった。

遠くには灰色の山々が連なり、その頂には白い雲がかかっている。

リュシアは山を見上げた。

「……あんなに高い場所まで登るの?」

カイが答えた。

「修練院は中腹らしいから、頂上までは行かねえよ」

「それでも大変そう」

ミナが微笑んだ。

「疲れたら休憩しましょう」

リュシアは頷いた。

「うん!」

山道へ入ってから一時間ほど経った頃、カイが足を止めた。

「……なあ」

レオが振り向く。

「どうした?」

「さっきから、同じような岩ばっかり見てる気がするんだが」

ガイアが周囲を見渡した。

「……確かに、道が分かりにくい」

レオは地図を確認した。

「この先に分かれ道があるはずなんだけど……」

その時、リュシアが声を上げた。

「……待って」

彼女は道の脇にある木へ近づいた。

「この木、誰かが印をつけてる」

幹には小さな矢印が刻まれていた。

ミナが覗き込む。

「……道案内でしょうか?」

「たぶん」

リュシアは周囲の木々を見渡した。

「向こうにも同じ印があるよ」

ガイアが頷いた。

「……修練院へ続く道かもしれないな」

レオは微笑んだ。

「助かったよ、リュシア」

「えへへ。森の中なら、こういうのを見つけるのは得意だから」

カイが笑った。

「頼りになるじゃねえか」

一行は木々に刻まれた印を辿り、さらに山道を進んだ。

やがて、岩壁に囲まれた広い平地へ到着した。

そこには古い石造りの建物が建っていた。

周囲には訓練用の木人形や、使い込まれた武器が並んでいる。

「……ここが」

レオが呟いた。

建物の入口には、風化した文字で『灰峰修練院』と刻まれていた。

「……着いたみたいだな」

カイが笑った。

しかし、敷地内に人の姿は見当たらなかった。

ミナが不安そうに尋ねる。

「……誰もいないんでしょうか?」

ガイアは建物を見つめた。

「……いや」

彼は静かに続けた。

「誰かいる」

その時、建物の奥から一人の老人が姿を現した。

白髪交じりの短い髪。

深い皺が刻まれた顔。

年老いているにもかかわらず、その背筋は真っ直ぐに伸びていた。

老人はレオたちを見渡した。

「……何の用だ?」

レオが一歩前へ出た。

「俺たちは、修行をするためにここへ来ました」

老人は眉を動かした。

「……修行?」

「はい」

「誰に聞いて来た?」

「町の案内所で、グレンさんという方がいると聞きました」

老人は小さく息を吐いた。

「……俺がグレン・ヴァルディスだ」

カイが目を輝かせた。

「じゃあ、あんたがここの師匠か!」

グレンはカイを見た。

「……師匠と呼ばれる筋合いはない」

「え?」

「俺は、ただこの場所を管理しているだけだ」

レオが尋ねた。

「それでも、修行させてもらうことはできますか?」

グレンは答えなかった。

代わりに、一行を順番に見つめた。

剣を持つカイ。

杖を携えたミナ。

弓を背負うリュシア。

そして、レオとガイア、白き守護者。

「……妙な組み合わせだな」

ガイアが静かに答えた。

「……よく言われる」

グレンはガイアを見つめた。

「……お前、生きた人間ではないな」

その言葉に、レオは驚いた。

「……分かるんですか?」

「長く生きていれば、多少はな」

グレンは再びレオを見た。

「……お前が術者か?」

レオは頷いた。

「はい。ネクロマンサーです」

グレンはしばらく黙っていた。

やがて、口を開いた。

「……何のために強くなりたい?」

レオは答えた。

「大切な人たちを守るためです」

「……それだけか?」

「……え?」

グレンは腕を組んだ。

「守りたいと言う者は多い。だが、何から、どう守るのかを考えている者は少ない」

レオは言葉を詰まらせた。

グレンは続けた。

「強い力を手に入れれば、誰でも守れると思っているのか?」

「……いいえ」

レオは首を振った。

「力だけでは守れないこともあると、今回の旅で知りました」

「……ほう」

「だから、力の使い方を学びたいんです」

グレンはレオを見つめた。

「……なるほどな」

カイが一歩前へ出た。

「俺も修行したい。もっと剣を強くしたいんだ」

グレンはカイの腰にある剣を見た。

「……ならば、少し試してみるか」

カイが笑った。

「望むところだ!」

グレンは近くに置かれていた木剣を一本手に取った。

「真剣は使うな。そこの木剣を持て」

カイは訓練用の木剣を手にした。

レオたちは少し離れた場所へ移動した。

グレンは木剣を片手で構えた。

「……いつでも来い」

カイは真剣な表情になった。

「……後悔するなよ」

彼は地面を蹴り、グレンへ向かって踏み込んだ。

鋭い一撃が老人の肩を狙う。

しかし、グレンはわずかに身体を傾けただけで、その攻撃を避けた。

「……なっ!」

カイが驚く。

次の瞬間、グレンの木剣がカイの胸元で止まっていた。

「……終わりだ」

カイは目を見開いた。

「……今、何をした?」

グレンは木剣を下ろした。

「お前は、攻撃することしか考えていなかった」

「……そんなこと」

「相手の動きを見ず、自分の技を当てることだけを考えていた」

カイは何も言い返せなかった。

グレンは続けた。

「速さも力も悪くない。だが、それだけでは格上の相手には通用せん」

レオは驚いた表情で見つめていた。

カイの剣を、これほど簡単に止める人物は珍しい。

ガイアが静かに呟いた。

「……相当な使い手だな」

グレンは木剣を元の場所へ戻した。

「……今日は帰れ」

レオが顔を上げた。

「……え?」

「お前たちを指導するとは言っていない」

カイが声を上げた。

「ちょっと待てよ!」

「何だ?」

「今の一回だけで終わりかよ!」

グレンは振り向いた。

「……ならば、明日の朝、もう一度来い」

カイは驚いた。

「……明日?」

「ああ。ただし、次は全員だ」

レオが尋ねた。

「……全員で戦うんですか?」

グレンは首を振った。

「戦うだけが修行ではない」

彼は一行を見渡した。

「お前たちが何を学ぶべきなのか、まずは確かめる」

ミナが頷いた。

「……分かりました」

リュシアも真剣な表情を浮かべた。

「私も頑張ります」

グレンは短く答えた。

「……好きにしろ」

そう言い残し、老人は建物の中へ戻っていった。

カイは木剣を見つめたまま立ち尽くしていた。

「……くそ」

レオが声をかける。

「……カイ」

「……分かってる」

カイは顔を上げた。

「俺、完全に負けた」

ガイアが頷いた。

「……だが、学ぶものはあっただろう」

カイは少し考えた。

そして、小さく笑った。

「……ああ」

彼は修練院の建物を見つめた。

「明日は絶対、一本取ってやる」

ミナが苦笑する。

「また同じことにならないといいですけど」

「ならねえよ!」

そのやり取りを聞いて、リュシアが笑った。

レオも微笑んだ。

しかし、胸の奥には緊張があった。

明日、自分は何を試されるのだろうか。

ネクロマンサーとしての力。

仲間との連携。

そして、自分自身の弱さ。

グレンという老人が、何を見ようとしているのかは分からない。

それでも、ここには今の自分たちに必要な何かがある。

レオは静かに拳を握った。

「……明日からが本番だな」

ガイアが頷いた。

「……ああ。まずは自分の限界を知ることだ」

六人は修練院を後にし、山道の途中にある旅人用の休憩小屋へ向かった。

翌朝、彼らを待つ試練が、これからの戦い方を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。

――第182話・完――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。