↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
PR
175/183

第175話「守るための選択」

エルフェリア大森林。

第三監視地点、第二防衛線。

緑色の結界を挟み、レオたちは黒い侵食を受けた魔物たちと向き合っていた。

牙狼の長を含む三頭の牙狼。

そして、二頭の森猪。

五頭の魔物は結界の外側を歩き回り、時折、苦しそうに身体を震わせている。

「……状況は?」

フェルンが兵士へ尋ねた。

「結界は維持できています。しかし、魔力の消費が予想以上に早く……」

「どのくらい持つ?」

「このままでは、一時間も持ちません」

フェルンは険しい表情になった。

「……そうか」

レオは結界を見つめた。

淡い緑色の光には、すでに黒い筋が浮かび始めている。

「……また侵食されてる」

ガイアが頷いた。

「結界に魔力を供給するほど、黒い力が集まっているようだ」

カイが剣を握り直した。

「……だったら、結界を張り続けるのも危ないんじゃねえか?」

「そうだな」

ガイアは答えた。

「だが、解除すれば魔物たちが集落へ進む可能性がある」

ミナは唇を噛んだ。

「……どちらを選んでも危険ですね」

レオは拳を握った。

「……何か方法があるはずだ」

その時、リュシアが静かに口を開いた。

「……一つ、試したいことがあるの」

フェルンが振り向く。

「何だ?」

「魔物たちを、森の奥へ誘導できないかな」

カイが眉をひそめた。

「……誘導?」

リュシアは頷いた。

「この子たちは、もともと森の奥に住んでいたの。だから、集落とは反対の方向へ進む道を作れば……」

ガイアが考え込む。

「……確かに、結界で閉じ込めるよりは負担が少ないかもしれない」

フェルンは首を振った。

「しかし、誘導するには誰かが近づく必要がある」

「……私がやる」

リュシアが答えた。

「駄目だ」

フェルンは即座に言った。

「危険すぎる」

リュシアは俯いた。

「……でも」

レオが口を開いた。

「リュシア一人でやる必要はない」

全員が彼を見た。

「俺たちで、道を作ろう」

レオは地図を広げた。

「……ここを見て」

彼が指差したのは、第二防衛線の東側にある古い巡回路だった。

「この道は、森の奥へ続いてるんだよな?」

リュシアが頷いた。

「うん。今はほとんど使われてないけど、牙狼たちの縄張りに近い場所へ繋がってる」

「だったら、この道へ誘導する」

カイが尋ねた。

「……どうやって?」

レオは答えた。

「結界を全部解除するんじゃなくて、東側だけ通れるようにするんだ」

ガイアが頷いた。

「……魔物たちに逃げ道を作るわけか」

「そう」

レオは続けた。

「カイとミナには、直接攻撃せずに進路を制限してほしい」

カイが笑った。

「……なるほどな」

ミナも頷いた。

「……分かりました」

フェルンは地図を見つめた。

「……確かに、集落から遠ざけることはできるかもしれない」

しかし、彼は続けた。

「だが、森の奥へ戻せば、侵食をさらに広げる可能性がある」

レオは頷いた。

「……分かっています」

「ならば、どうする?」

レオは少し考えた。

「……誘導先の巡回路に、監視隊の結界を設置する」

フェルンが目を細めた。

「……魔力の流れを抑える結界か」

「はい。完全には止められなくても、広がる速度を落とせるはずです」

ガイアが頷いた。

「……時間を稼ぐ方法としては悪くない」

フェルンは深く息を吐いた。

「……分かった。試してみよう」

しばらくして。

監視隊の兵士たちは、東側の巡回路に結界石を配置した。

魔物たちが通る道を限定するため、左右には薄い結界が張られている。

フェルンが全員を見渡した。

「……準備はいいか?」

カイが剣を構えた。

「いつでも」

ミナも杖を握った。

「大丈夫です」

リュシアは弓を持ち直した。

「……私も」

レオは白き守護者を見た。

「……無理はしなくていい」

彼女は小さく頷いた。

ガイアが静かに口を開く。

「……では、始めよう」

フェルンは通信石を握った。

「第二防衛線、東側の結界を解除せよ」

緑色の光がゆっくりと薄くなっていく。

その先には、森の奥へ続く道が開かれていた。

最初に動いたのは、一頭の森猪だった。

黒く変色した巨体が、開かれた道へ向かって進み始める。

「……よし」

カイが呟いた。

しかし、もう一頭の森猪は集落側へ顔を向けた。

「……そっちは駄目だ!」

カイが前へ出た。

「《裂空斬》!」

斬撃が地面を削り、森猪の進路を塞いだ。

森猪は足を止め、反対方向へ向き直った。

ミナが杖を振る。

「《フレイム・サークル》!」

炎が円を描き、集落側への道を遮った。

森猪は炎を避けながら、東側の巡回路へ進み始めた。

「……いい感じです!」

ミナが声を上げた。

フェルンは頷いた。

「……このまま続けろ」

しかし、牙狼たちは動かなかった。

三頭とも、結界の前で立ち止まっている。

リュシアが静かに声をかけた。

「……ねえ」

牙狼の長が顔を上げた。

「……そっちへ行こう」

リュシアは東側の巡回路を指差した。

「あなたたちの森へ戻れる道だよ」

牙狼の長は彼女を見つめた。

その赤黒い瞳が、わずかに揺れる。

「……お願い」

リュシアは続けた。

「私たちは、あなたたちを傷つけたくない」

レオは黙って見守った。

しばらくして、牙狼の長がゆっくりと歩き始めた。

「……動いた」

ミナが呟いた。

しかし、その直後。

牙狼の長が突然、集落側へ向き直った。

「……まずい!」

フェルンが叫んだ。

巨大な牙狼が地面を蹴る。

レオは咄嗟に右手を伸ばした。

「《死者の鎖》!」

紫色の鎖が近くの木へ巻きつく。

レオはその鎖を引き、倒れかけた幹を牙狼の進路へ移動させた。

牙狼は足を止めた。

その隙にガイアが前へ出る。

「……こちらだ」

ガイアは牙狼の長の視線を引きつけながら、東側へ移動した。

牙狼の長は彼を追い始めた。

「……ガイア!」

レオが叫ぶ。

「大丈夫だ。距離は保っている」

ガイアは答えた。


東側の巡回路。

二頭の森猪は、すでに森の奥へ進んでいた。

残る牙狼たちも、少しずつ移動を始めている。

しかし、牙狼の長だけは何度も足を止め、集落側を振り返っていた。

「……何かに引っ張られてるみたい」

リュシアが呟いた。

ガイアが頷いた。

「……黒い魔力の流れが、集落側へ向かっている」

レオは息を呑んだ。

「……だから、戻ろうとしてるのか」

フェルンが険しい表情になる。

「……結界の魔力に引き寄せられている可能性があるな」

レオは考え込んだ。

「……だったら」

彼はフェルンを見た。

「集落側の結界への魔力供給を、一時的に弱められませんか?」

フェルンは驚いた。

「……何?」

「黒い力が魔力に引き寄せられてるなら、供給を弱めれば」

ガイアが頷いた。

「……誘導しやすくなるかもしれない」

フェルンは少し考えた。

「……分かった。ただし、短時間だけだ」

彼は通信石を握った。

「集落側の結界、魔力供給を半分に落とせ」

『了解しました』

緑色の光が弱まった。

すると、牙狼の長の動きが変わった。

集落側を見つめていた顔が、ゆっくりと東側へ向く。

「……今だ」

リュシアが静かに声をかけた。

「……帰ろう」

牙狼の長は彼女を見つめた。

そして、ゆっくりと森の奥へ歩き始めた。


夕方。

五頭の魔物は、すべて東側の巡回路へ移動した。

監視隊は一定の距離を保ちながら、その動きを追っている。

フェルンは深く息を吐いた。

「……何とか、集落への侵入は防げたな」

カイが剣を収めた。

「……疲れた」

ミナが小さく笑った。

「でも、誰も大きな怪我をしなくてよかったです」

リュシアは森の奥を見つめていた。

「……あの子たち、助かるかな」

レオは隣へ立った。

「……まだ分からない」

彼は正直に答えた。

「でも、助ける方法を探す時間は作れた」

リュシアは頷いた。

「……うん」

ガイアが静かに口を開いた。

「……ただし、これで終わりではない」

フェルンも頷いた。

「……ああ。侵食の原因は、まだ残っている」

レオは森の奥へ視線を向けた。

封鎖領域。

四つ目の補助石板。

そこでは今も、黒い魔力が逆流し続けている。

「……次は、石板を調べよう」

レオが呟いた。

白き守護者は、その言葉に静かに頷いた。

森を守るための戦いは、まだ終わっていなかった。

――第175話・完――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。