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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
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第173話「迫り来る黒き群れ」

エルフェリア大森林。

第三監視地点。

弱まった結界の前で、フェルンは監視隊の報告を聞いていた。

「……南側の巡回路で、複数の魔物を確認しました」

兵士の言葉に、フェルンの表情が険しくなる。

「数は?」

「少なくとも六頭です。牙狼だけでなく、森猪も混じっています」

「……森猪まで侵食されたのか」

レオは顔を上げた。

「森猪って、どんな魔物なんですか?」

リュシアが答えた。

「森の奥に住む大きな猪だよ。普段は人を避けるけど、興奮すると木を倒すほどの力があるの」

カイが腕を組んだ。

「……そいつまで黒くなってるってことか」

兵士は頷いた。

「はい。身体の一部が黒く変色していました」

ガイアが静かに口を開いた。

「……侵食は、牙狼の群れだけに留まらなくなっている」

フェルンは通信石を握った。

「各監視地点へ通達。南側の防衛線を強化しろ。住民の避難準備も進めるんだ」

『了解しました』

通信石から返答が届いた。

レオは森の奥を見つめた。

「……もう、時間がないな」


昼過ぎ。

第三監視地点の周囲には、監視隊の兵士たちが集まっていた。

地面には新たな結界石が配置され、木々の間には弓兵が待機している。

ミナが周囲を見渡した。

「……かなり大勢いますね」

フェルンが頷いた。

「集落に近い防衛線だからな。ここを突破されるわけにはいかない」

カイが剣を抜いた。

「……俺たちは、どこを守ればいい?」

「中央の巡回路だ」

フェルンは地図を指差した。

「ここは道幅が広い。大型の魔物が通りやすい」

ガイアが尋ねた。

「……両側の森は?」

「弓兵が監視する。異常があればすぐに知らせる」

レオは頷いた。

「……分かりました」

リュシアは弓を握り直した。

「……絶対に、ここで止めよう」

フェルンは彼女を見た。

「無理はするな」

「……分かってる」

やがて、森の奥から重い足音が聞こえ始めた。

カイが顔を上げる。

「……来たな」

木々の間に、赤黒い光が浮かび上がる。

一頭。

二頭。

そして、三頭目。

黒く変色した牙狼たちが姿を現した。

その後方には、巨大な森猪が二頭続いている。

「……五頭」

フェルンが呟いた。

しかし、リュシアが首を振った。

「……まだいる」

さらに奥から、もう一頭の牙狼が現れた。

額には、古い傷跡が残っている。

レオは息を呑んだ。

「……群れの長だ」

カイが剣を握り直した。

「……また会ったな」

牙狼の長は、こちらを見つめた。

その身体からは、以前よりも濃い黒い魔力が溢れている。

ガイアが目を細めた。

「……侵食が進んでいる」

レオは拳を握った。

「……早く助けないと」

「……全員、構え!」

フェルンの指示で、弓兵たちが弓を引いた。

しかし、彼は続けた。

「こちらから攻撃するな! まずは結界で進路を止める!」

結界石が淡い緑色の光を放つ。

木々の間に、薄い壁が広がった。

牙狼たちは足を止めた。

だが、二頭の森猪はそのまま突進してきた。

「……まずい!」

カイが叫んだ。

巨大な身体が結界へ衝突する。

緑色の光が大きく揺れた。

「……持ちこたえろ!」

フェルンが兵士たちへ指示を出す。

しかし、森猪は何度も結界へ身体を押しつけた。

そのたびに、黒い魔力が結界の表面へ広がっていく。

ミナが杖を構えた。

「……このままだと、壊れます!」

ガイアが頷いた。

「……魔力を供給し続ければ、侵食を引き込む危険がある」

レオは結界を見つめた。

「……じゃあ、どうすれば」

カイが前へ出た。

「……俺が止める!」

「カイ、待て!」

レオが叫ぶ。

しかし、カイはすでに剣を構えていた。

「……大丈夫だ。殺すつもりはねえ!」

結界の一部が開かれた。

カイは前へ飛び出した。

森猪の一頭が、彼へ向かって突進する。

「……来い!」

カイは身体を横へずらした。

森猪の巨体が通り過ぎる。

その直後、カイは剣を地面へ突き立てた。

「《裂空斬・弐》!」

鋭い斬撃が地面を走り、森猪の前方を深く削った。

森猪は足を取られ、体勢を崩した。

「……よし!」

しかし、もう一頭が横から迫っていた。

「カイさん!」

ミナが叫ぶ。

「《フレイム・ランス》!」

炎の槍が森猪の進路へ放たれる。

森猪は炎を避けようと方向を変えた。

その隙にカイが後退する。

「……助かった!」

ミナは頷いた。

「無茶しないでください!」

「分かってるって!」


一方、牙狼たちは結界の周囲を移動していた。

フェルンが眉をひそめる。

「……何をしている?」

リュシアが目を凝らした。

「……結界の弱い場所を探してる?」

ガイアが頷いた。

「……可能性はある」

レオは牙狼の長を見つめた。

他の牙狼たちは、長の動きに合わせて進路を変えている。

「……あいつが指示してるのか?」

ガイアは首を振った。

「……群れとしての習性かもしれない。だが、黒い魔力が同じ方向へ流れている」

レオは息を呑んだ。

「……じゃあ、侵食そのものが」

「……魔物たちを誘導している可能性もある」

その時、牙狼の長が足を止めた。

そして、結界の端へ向かって走り始める。

「……まずい!」

フェルンが叫んだ。

「右側の結界を守れ!」

弓兵たちが移動する。

しかし、牙狼の長はすでに結界の弱い部分へ到達していた。

巨大な前脚が振り下ろされる。

緑色の光に亀裂が走った。

「……破られる!」

レオが叫んだ。

白き守護者が前へ出た。

彼女は両手を広げ、淡い白い光を放った。

結界の亀裂を覆うように、白い膜が広がる。

牙狼の長はその光に触れた瞬間、動きを止めた。

しかし、身体から溢れる黒い魔力が白い光を押し返していく。

「……守護者!」

レオが駆け寄った。

彼女は小さく首を振った。

まるで、近づくなと伝えるように。

ガイアがレオの肩を掴んだ。

「……無理に力を流すな。逆流する危険がある」

レオは歯を食いしばった。

「……分かってる」

リュシアが弓を構えた。

「……私が、長の注意を引く」

フェルンが振り向く。

「危険だ!」

「ここから動かない!」

リュシアは答えた。

そして、牙狼の長へ向かって声を上げた。

「……お願い! こっちを見て!」

牙狼の長の耳がわずかに動いた。

「……あなたの仲間を、傷つけたくないの!」

その言葉に、牙狼の長が一瞬だけ顔を上げた。

しかし、黒い魔力は弱まらなかった。

「……フェルン隊長!」

兵士の声が響いた。

「左側の結界にも異常が!」

フェルンが振り向く。

二頭の森猪が再び動き出し、結界の別の場所へ向かっていた。

「……くそっ」

カイが剣を握り直す。

「……こっちも止めないと」

ミナが頷いた。

「……私が援護します!」

フェルンは状況を確認した。

中央には森猪。

右側には牙狼の長。

そして、残る牙狼たちも結界の周囲を移動している。

「……全員、持ち場を守れ!」

兵士たちが返事をした。

しかし、その直後。

右側の結界に、新たな亀裂が走った。

白き守護者の光が弱まる。

レオは息を呑んだ。

「……まずい」

ガイアが静かに呟いた。

「……このままでは、突破される」

フェルンは剣を抜いた。

「……ならば、ここで迎え撃つしかない」

牙狼の長が再び前脚を振り上げた。

結界の光が大きく揺れる。

そして、次の瞬間。

緑色の結界の一部が崩れ落ちた。

「……突破された!」

兵士の叫びが森に響いた。

牙狼の長は、開いた隙間へ足を踏み入れた。

その背後では、残る牙狼たちも動き始めている。

集落へ続く巡回路。

その防衛線が、ついに破られた。

――第173話・完――

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