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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
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第171話「三百年前の約束」

エルフェリア大森林。

エルフ族の集落。

評議会が開かれた翌朝、レオたちは長老エルディンの屋敷へ呼ばれていた。

部屋の中央には、古びた記録書が置かれている。

「……全員、揃ったな」

エルディンが口を開いた。

レオは頷いた。

「はい。それで、話というのは?」

「昨夜、三百年前の記録を読み返していた」

エルディンは記録書を開いた。

「ヴァルドと交わした約束について、改めて話しておきたい」

その名前を聞いた瞬間、白き守護者が顔を上げた。

レオは彼女の様子に気づいた。

「……守護者?」

彼女は何も答えず、記録書を見つめている。

エルディンは静かに続けた。

「三百年前、ヴァルドはこの森を訪れ、四つの補助石板の設置に協力した」

ガイアが頷いた。

「……それは以前、聞いたな」

「ああ。だが、当時の会話には、まだ伝えていない部分がある」

カイが腕を組んだ。

「……何か重要なことか?」

エルディンは頷いた。

「今となっては、そうかもしれぬ」

エルディンは記録書の一節を指差した。

「石板の設置を終えた夜、ヴァルドは私にこう言った」

老人はゆっくりと言葉を読み上げた。

「『境界を守るのは、石でも術式でもない。そこに残された意思だ』」

レオは眉をひそめた。

「……意思?」

「私も同じことを尋ねた」

エルディンは頷いた。

「すると、ヴァルドは三つの意思について語った」

ミナが尋ねた。

「……三つというのは、石板に刻まれていた紋様のことですか?」

「おそらくな」

エルディンは記録書をめくった。

「白き守護者。黒き守護者。そして、魂を導く者」

白き守護者が静かに目を伏せた。

ガイアが口を開く。

「……三つの役割が、境界の維持に必要だったということか」

「そう考えられる」

レオは尋ねた。

「でも、黒き守護者は今、どうなっているんですか?」

エルディンは首を振った。

「分からぬ。私が最後にその存在について聞いたのは、三百年前だ」

レオは白き守護者を見た。

彼女は胸元へ手を当て、何かを思い出そうとしているようだった。

「……無理しなくていい」

レオが声をかける。

彼女は小さく頷いた。

「……ただ、一つ気になることがある」

エルディンが続けた。

「ヴァルドは、三つの意思が揃わなくなった時のことも話していた」

フェルンが尋ねた。

「……何と?」

エルディンは記録書を見つめた。

「『一つが失われれば、残る二つが支える。二つが失われれば、最後の一つが境界を繋ぎ止める』」

部屋に沈黙が広がった。

ガイアが静かに呟いた。

「……最後の一つ」

レオは白き守護者を見た。

「……まさか」

エルディンは首を振った。

「誰が最後まで残ったのか、私には分からぬ」

白き守護者はゆっくりと顔を上げた。

そして、レオへ手を伸ばした。

「……どうした?」

彼女はレオの胸元にある『魂導秘録』を指差した。

レオは本を取り出した。

その瞬間、表紙に刻まれた紋様が淡く輝き始めた。

「……反応してる」

ミナが呟いた。

レオは慎重に本を開いた。

すると、何も書かれていなかったページに文字が浮かび上がった。

『三つの意思は、三つの命にあらず』

レオは息を呑んだ。

「……三つの命じゃない?」

続いて、別の文字が現れた。

『守る者、抗う者、導く者』

『その役割は、意思によって受け継がれる』

ガイアが目を細めた。

「……役割を受け継ぐ?」

エルディンも驚いた表情を浮かべた。

「……この文章は、初めて見る」

レオは本を見つめた。

「……じゃあ、三百年前と同じ三人が揃わなくても」

ガイアが頷いた。

「……境界を守る意思を持つ者が、その役割を担える可能性がある」

しかし、エルディンは慎重に答えた。

「そう読める。だが、誰に何ができるのかまでは分からぬ」

その時、白き守護者が突然、両手で頭を押さえた。

「……守護者!?」

レオが駆け寄った。

彼女の身体を淡い白い光が包む。

そして、その光がレオの手に触れた瞬間。

彼の意識に、断片的な光景が流れ込んできた。

古い石板。

白い光に包まれた森。

そして、黒い外套を纏った人物。

その人物の前には、一人の男が立っていた。

「……ヴァルド?」

レオは思わず呟いた。

男は石板へ手を伸ばしている。

その背後には、白き守護者の姿があった。

『……覚えておけ』

ヴァルドの声が聞こえた。

『境界を守るとは、すべてを閉ざすことではない』

黒い外套の人物が、何かを答えた。

しかし、その声は聞き取れなかった。

ヴァルドは続けた。

『いつか、私たちの知らぬ者がここへ辿り着くだろう』

その言葉と共に、光景が途切れた。

「……レオ!」

カイの声が聞こえた。

レオは我に返った。

目の前には、心配そうな仲間たちがいる。

「……大丈夫か?」

ガイアが尋ねた。

レオはゆっくりと頷いた。

「……ああ」

白き守護者は床に膝をついていた。

ミナが彼女を支えている。

「……今、何が見えた?」

エルディンが尋ねた。

レオは見たものを説明した。

石板の前に立つヴァルド。

黒い外套の人物。

そして、境界について語られた言葉。

エルディンは静かに目を閉じた。

「……やはり、あの時の記憶か」

レオが顔を上げる。

「……知っているんですか?」

「以前、守護者が見せた断片と同じ場面なのだろう」

エルディンは答えた。

「だが、黒い外套の人物が誰なのか、私にも分からぬ」

ガイアが口を開く。

「……敵だったとは限らないな」

「ああ」

エルディンは頷いた。

「ヴァルドがその人物と何を話していたのか。それが重要なのかもしれぬ」

レオは白き守護者を見た。

「……ありがとう」

彼女は小さく首を振った。

まるで、まだ何も伝えられていないと言いたげだった。


しばらくして。

エルディンは記録書を閉じた。

「……今日の話は、ここまでにしよう」

フェルンが尋ねた。

「封鎖領域への調査は?」

「予定通り準備を進める。ただし、守護者には休息が必要だ」

レオも頷いた。

「……そうですね」

エルディンは続けた。

「それと、もう一つ」

全員が老人を見た。

「ヴァルドは、別れ際に私へ一つだけ頼み事をした」

リュシアが尋ねる。

「……何を?」

エルディンは静かに答えた。

「『もし白き守護者が戻ってきたら、彼女が選んだ者を信じてほしい』と」

レオは息を呑んだ。

「……俺のことですか?」

「それは分からぬ」

エルディンは首を振った。

「だが、守護者がお前と共にここへ来たことには、意味があるのかもしれぬ」

白き守護者はレオの隣で静かに頷いた。

レオは彼女を見つめた。

「……分かった」

そして、ゆっくりと口を開いた。

「俺は、ヴァルドと同じことができるか分からない」

ガイアが静かに彼を見た。

「でも、誰かの意思を奪ってまで境界を守るつもりはない」

レオは続けた。

「守護者も、ガイアも、リュシアたちも。みんなが自分で選べるようにしたい」

エルディンは穏やかに頷いた。

「……それでよい」

窓の外には、深い森が広がっていた。

三百年前に交わされた約束。

白き守護者が守り続けてきた記憶。

そして、まだ正体の分からない黒い外套の人物。

そのすべてが、四つ目の補助石板へ繋がっているのかもしれなかった。

だが、答えを知るためには、封鎖領域の奥へ進まなければならない。

レオは『魂導秘録』を閉じた。

「……必ず、確かめよう」

白き守護者は、その言葉に静かに頷いた。

――第171話・完――

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