↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
PR
166/183

第166話「森に現れた異形」

エルフェリア大森林。

早朝。

監視隊の連絡所に、一人のエルフ兵が駆け込んできた。

「フェルン隊長! 報告があります!」

フェルンは机から顔を上げた。

「どうした?」

「封鎖領域の南側で、魔物を確認しました!」

「魔物だと?」

「はい。しかし、通常の魔物とは様子が違います」

エルディンが立ち上がった。

「詳しく話してくれ」

兵士は息を整えた。

「森に生息する牙狼と思われます。ですが、全身が黒く変色し、周囲の木々を傷つけながら移動しています」

リュシアの表情が変わった。

「……牙狼が?」

牙狼は、エルフェリア大森林に生息する狼型の魔物だった。

普段は群れで行動するものの、エルフ族を積極的に襲うことは少ない。

「負傷者は?」

フェルンが尋ねた。

「現在のところ、確認されていません。ただ、巡回中の兵士が一人、行方不明になっています」

「何だと……」

フェルンは剣を手に取った。

「直ちに捜索隊を編成する」

レオも立ち上がった。

「俺たちも行きます」

フェルンは振り向いた。

「危険だぞ」

「分かっています。でも、黒い侵食が関係しているなら、俺たちにも調べられることがあるかもしれません」

エルディンは少し考えた。

「……フェルン。彼らを同行させてくれ」

「長老……」

「ただし、指揮はお前が執れ。封鎖領域への立ち入りは引き続き禁止だ」

フェルンは頷いた。

「承知しました」


森の南側。

レオたちは監視隊の兵士四人と共に、異変が報告された場所へ向かっていた。

先頭を歩くフェルンが足を止める。

「……ここから先は警戒しろ」

地面には、深い爪痕が残されていた。

カイがしゃがみ込む。

「……でかいな」

「普通の牙狼なら、ここまで深い傷は残さないよ」

リュシアが答えた。

ミナは周囲の木々を見つめた。

「……この黒い筋」

樹皮には、細い黒い線が広がっていた。

レオが近づく。

「封鎖領域で見たものと似てる」

ガイアも頷いた。

「……同じ侵食の影響を受けている可能性が高い」

その時、白き守護者が立ち止まった。

彼女は右手を伸ばし、森の奥を指差した。

レオが尋ねる。

「……何かいるのか?」

守護者は頷いた。

フェルンが兵士たちへ合図を送る。

「全員、戦闘準備」

カイが剣を抜いた。

「……来るか」

木々の間から、低く唸る声が聞こえた。

やがて、一頭の巨大な狼が姿を現した。

灰色だったはずの毛並みは黒く変色し、身体の一部には硬い突起が生えている。

そして、その両目には赤黒い光が宿っていた。

「……あれが牙狼?」

リュシアが呟いた。

フェルンは険しい表情で答えた。

「……以前の姿とは、まるで違う」

牙狼は一行を見つめたまま、ゆっくりと歩き始めた。

カイが剣を構える。

「……どうする?」

フェルンが答えた。

「まずは距離を取れ。こちらから刺激するな」

しかし、牙狼は突然、近くの木へ身体をぶつけた。

太い幹が大きく揺れる。

その身体から黒い魔力が溢れ、地面へ染み込んでいった。

ミナが息を呑んだ。

「……苦しんでいるんでしょうか?」

レオは牙狼を見つめた。

その動きは不自然だった。

何かに抵抗するように頭を振り、時折、自分の身体を傷つけている。

「……ガイア」

「……ああ」

ガイアは静かに頷いた。

「自分の意思で動いているようには見えない」

リュシアが弓を構えた。

「……助けられないの?」

レオは答えられなかった。

以前、侵食を受けた精霊へ魔力を与えたことで、黒い力が強まったことがある。

安易に治療すれば、かえって危険かもしれない。

「……まずは動きを止めよう」

レオが言った。

フェルンは頷いた。

「殺さずに済むなら、それが望ましい」

だが、その直後。

牙狼が地面を蹴った。

「散開!」

フェルンの指示で、一行は左右へ分かれた。

牙狼の巨体が、先ほどまでレオたちの立っていた場所を通り抜ける。

カイが剣を振り上げた。

「……速い!」

牙狼は方向を変え、再び襲いかかってきた。

カイは剣の腹でその前脚を受け流した。

しかし、想像以上の力に押され、数歩後退する。

「……普通の牙狼じゃねえな」

ミナが杖を構えた。

「カイさん、下がってください!」

「分かってる!」

ミナの周囲に炎が浮かび上がる。

「《フレイム・サークル》!」

炎が円を描き、牙狼の進路を塞いだ。

しかし、牙狼は炎を避けるどころか、その中へ踏み込もうとした。

「……待って!」

リュシアが叫んだ。

「その子、炎が見えてない!」

ミナは慌てて術を解除した。

牙狼は勢いを失い、地面へ倒れ込んだ。

だが、すぐに立ち上がる。

その身体から、さらに濃い黒い魔力が溢れ始めた。

「……まずいな」

ガイアが呟いた。

レオは牙狼を見つめた。

「……あの黒い魔力、増えてないか?」

「ああ。攻撃を受けるたびに、侵食が強まっているようにも見える」

フェルンが声を上げた。

「全員、攻撃を控えろ! 距離を保て!」

兵士たちは弓を構えたまま後退した。

しかし、牙狼は再び動き出した。

今度はレオではなく、後方にいた一人の兵士へ向かって走り始める。

「危ない!」

リュシアが弓を引いた。

放たれた矢は牙狼の足元へ突き刺さり、進路を逸らした。

その隙にフェルンが兵士を引き寄せる。

「下がれ!」

牙狼は地面を削りながら方向を変えた。

そして、レオへ向かって突進した。

「レオ!」

カイが叫ぶ。

レオは右手を伸ばした。

「《死者の鎖》!」

紫色の鎖が地面から伸び、牙狼の前脚へ絡みつく。

しかし、次の瞬間。

鎖の表面に黒い筋が走った。

「……何だ!?」

レオは目を見開いた。

黒い魔力が、鎖を伝って彼の方へ流れ込もうとしていた。

「レオ、切れ!」

ガイアが叫ぶ。

レオはすぐに術を解除した。

鎖が消えると同時に、黒い魔力は地面へ落ちた。

「……危なかった」

ガイアがレオの前へ立つ。

「……あの侵食は、魂導術にも反応するようだ」

レオは頷いた。

「……分かった。もう直接繋がない」

白き守護者が二人の前へ進み出た。

彼女は両手を広げ、淡い白い光を放った。

光が薄い壁となり、牙狼の進路を遮る。

牙狼はその壁に触れた瞬間、動きを止めた。

黒い魔力が身体の表面で揺れている。

しかし、侵食が消える様子はなかった。

「……抑えられてる」

ミナが呟いた。

レオは守護者を見つめた。

「……でも、長くは持たない」

彼女の表情には、苦しさが浮かんでいた。

「……フェルン!」

その時、後方から兵士の声が聞こえた。

「行方不明だった兵士を発見しました!」

フェルンが振り向く。

「無事なのか?」

「意識はあります! ですが、負傷しています!」

フェルンは一瞬だけ安堵した。

しかし、兵士は続けた。

「それと……」

「どうした?」

「負傷した兵士が、妙なことを言っています」

「……妙なこと?」

兵士は息を整えた。

「この牙狼は、一頭だけではなかったと」

その言葉に、全員の表情が変わった。

カイが森の奥を見つめる。

「……まさか」

リュシアも弓を握り直した。

「……群れがいる?」

フェルンは兵士へ尋ねた。

「何頭だ?」

「正確な数は分かりません。ただ、少なくとも三頭以上を見たそうです」

レオは息を呑んだ。

目の前の牙狼一頭でさえ、簡単には止められない。

もし、同じ状態の魔物が複数存在するなら。

「……フェルン」

レオが声をかけた。

「このままじゃ、森の外側まで危険が広がる」

フェルンは頷いた。

「……分かっている」

彼は兵士たちへ指示を出した。

「負傷者を連絡所へ運べ。残りの者は周囲を警戒しろ」

そして、レオたちを見た。

「まずは、この一頭をどうにかする」

白き守護者の結界の向こうで、牙狼は苦しそうに身体を震わせていた。

黒い侵食は、今もその身体を蝕んでいる。

レオは拳を握った。

「……絶対に、助ける方法を見つける」

しかし、森の奥からは、別の獣の唸り声が聞こえ始めていた。

黒い侵食は、すでに一頭の魔物だけに留まっていなかった。

――第166話・完――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。