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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
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第162話「声の向こう側」

エルフェリア大森林。

監視隊の連絡所では、レオたちが百年前の調査記録を調べ続けていた。

机の上には、精霊術師セリア・ルーフェンが残した日誌が広げられている

「……ここまで読んでも、声の正体は分からないな」

カイが椅子の背にもたれた。

「でも、何も分からなかったわけじゃありませんよ」

ミナが答える。

「声が記憶を利用している可能性は高くなりました」

「それはそうだけどよ……」

カイは日誌を見つめた。

「結局、どうやって石板まで行くんだ?」

レオは黙ってページをめくっていた。

昨日、セリアの日誌から判明したこと。

謎の声は、相手が聞きたい声を利用する。

しかし、相手の記憶を完全に知っているわけではない。

「……待って」

レオが手を止めた。

ガイアが顔を上げる。

「どうした?」

「このページ、何かおかしい」

レオは日誌の最後の部分を指差した。

そこには、短い文章が残されていた。

『声は、私の記憶を映している』

『だが、私が思い出せないことには答えられない』

その下に、わずかな空白がある。

そして、次のページには何も書かれていなかった。

「……これがどうしたんだ?」

カイが尋ねた。

「文字が途中で終わってるんだ」

レオは答えた。

「セリアは、何かに気づいていたはずなんだ。それなのに、最後の記録がこれだけなのは変だと思って」

ガイアは日誌を手に取った。

「……確かに、文章が急に途切れているな」

ミナが首を傾げる。

「続きを書く前に、意識を失ってしまったんでしょうか?」

「その可能性もある」

レオは頷いた。

「でも……」

その時、白き守護者が静かに近づいてきた。

彼女は日誌を見つめた。

そして、空白のページへ手を伸ばした。

「……守護者?」

レオが声をかける。

彼女は顔を上げると、小さく頷いた。

指先から、淡い白い光が広がる。

光は日誌の表面を優しく照らした。

すると、何も書かれていなかったページに、薄い文字が浮かび上がった。

「……え?」

リュシアが目を見開いた。

「文字が出てきた!」

ガイアが身を乗り出す。

「……古い魔力で隠されていたのか」

レオは文字を読み取ろうとした。

しかし、その文章は通常のエルフ文字ではなかった。

「……これ、何て書いてあるんだ?」

エルディンが近づいた。

老人は文字を見つめ、驚いた表情を浮かべた。

「……これは、古代の精霊文字だ」

フェルンが尋ねる。

「長老、読めるのですか?」

「ああ。ただし、今ではほとんど使われておらぬ形式だ」

エルディンはゆっくりと文字を読み上げた。

「……『声の主は、こちらを見ていない』」

レオが顔を上げた。

「……見ていない?」

老人は続けた。

「『声は、境界に触れた者の記憶を辿っている』」

ガイアの表情が変わった。

「……なるほど」

「『声に応じれば、記憶の道が開かれる』」

エルディンは一度、言葉を止めた。

そして、最後の一文を読み上げた。

『決して、その道を完成させてはならない』

部屋が静まり返った。

「……記憶の道?」

リュシアが呟いた。

レオは考え込んだ。

「声に応じることで、何かが繋がるってことなのかな」

ガイアが頷いた。

「……可能性はある」

カイが腕を組む。

「でも、繋がるって何と何が?」

「それは、まだ分からない」

ガイアは静かに答えた。

「ただ、声の主が相手の記憶を利用しているなら、その繋がりを広げようとしているのかもしれない」

ミナが不安そうに尋ねる。

「……もし、道が完成したら?」

エルディンは首を振った。

「セリアは、そこまでは記しておらぬ」

フェルンが口を開いた。

「ならば、これ以上声に関わるべきではありません」

「……そうですね」

レオは頷いた。

「少なくとも、声に返事をするのは危険だと思います」

フェルンは少し驚いたようにレオを見た。

「……意外だな」

「何が?」

「お前なら、危険を承知で確かめようとすると思っていた」

レオは苦笑した。

「俺だって、何でも試すわけじゃないよ」

カイが横から口を挟む。

「たまに無茶するけどな」

「カイ!」

ミナが笑った。

しかし、ガイアだけは日誌を見つめたままだった。

「……レオ」

「どうした?」

「一つ、気になることがある」

ガイアは隠された文章を指差した。

「セリアは、なぜこれを普通の文字で残さなかったのだろう」

レオは首を傾げた。

「……誰かに読まれたくなかった?」

「それも考えられる」

ガイアは続けた。

「だが、もし声の主が記憶を辿る存在なら、調査記録を読んだ者の知識まで利用する可能性を恐れたのかもしれない」

エルディンが静かに頷いた。

「……セリアは、記録そのものを守ろうとしたのか」

レオは日誌を見つめた。

百年前の精霊術師。

彼女は恐怖を感じながらも、後の時代へ警告を残した。

その意思が、今になってレオたちへ届いたのだった。

午後。

エルディンは、古い結界の術式図を机に広げていた。

「……声については、これ以上直接調べぬ方がよい」

フェルンが頷く。

「では、四つ目の石板の調査を優先しますか?」

「ああ」

老人は図面を指差した。

「声の正体が分からずとも、結界の構造を調べることはできる」

レオが顔を上げた。

「……何か方法があるんですか?」

「封鎖術式には、外側から状態を確認するための仕組みが残されている」

リュシアが驚いた。

「そんなものがあるの?」

「百年前、調査隊が安全に結界を監視できるよう設けたものだ」

エルディンは図面の一角を示した。

そこには、小さな円形の紋様が描かれていた。

「これを使えば、結界を開かずに内部の魔力の流れを調べられる」

ガイアが頷いた。

「……それなら、声に接触する危険を減らせるな」

「ただし、完全に安全とは言い切れぬ」

エルディンは続けた。

「術式が正常に機能しているか、まず確認する必要がある」

フェルンが立ち上がった。

「……準備を進めます」

「頼む」

レオは図面を見つめた。

「……これで、石板の状態が分かるかもしれない」

夕暮れ。

連絡所の外では、リュシアが弓の手入れをしていた。

そこへ、レオが近づいた。

「……リュシア」

「何?」

「セリアのこと、知ってた?」

彼女は首を振った。

「ううん。今日、初めて詳しく聞いた」

リュシアは弓を膝に置いた。

「百年前にも、森を守ろうとした人がいたんだね」

「……ああ」

「でも、その人たちでも解決できなかった」

彼女は森の奥を見つめた。

「……私たちに、できるのかな」

レオは少し考えた。

「……分からない」

リュシアが振り向く。

レオは続けた。

「でも、セリアが記録を残してくれたから、俺たちは危険を知ることができた」

「……うん」

「ヴァルドも、エルディン長老も、森を守るために色々なものを残してくれた」

レオは微笑んだ。

「だから、今度は俺たちができることを探したい」

リュシアは少しだけ笑った。

「……そうだね」

その時、白き守護者が二人のもとへ歩いてきた。

彼女は森の奥を見つめていた。

その胸元には、淡い白い光が浮かんでいる。

レオが尋ねる。

「……また、何か感じるのか?」

守護者は頷いた。

そして、静かに結界の方角を指差した。

レオは、その先を見つめた。

封鎖された領域。

黒い侵食。

そして、四つ目の補助石板。

声の正体は依然として不明だった。

しかし、百年前の警告によって、避けるべき危険が一つ明らかになった。

声に応じてはならない。

レオたちは、その警告を胸に、次の調査へ進もうとしていた。

――第162話・完――

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