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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
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第156話「三つの紋様」

エルフェリア大森林、深部。

巨大な樹木の根元に立つ古代の石碑。

その表面には、三つの紋様が刻まれていた。

白き守護者。

黒き守護者。

そして、魂導師。

レオは石碑の前に膝をつき、『魂導秘録』を開いていた。

「……やっぱり、同じだ」

隣にいたガイアが覗き込む。

「何が分かった?」

「この三つの紋様、北方の境界で使われた術式にも描かれている」

レオは古い挿絵を指差した。

「ヴァルドが境界を封じた時、白と黒の守護者が力を貸したんだ」

「……ああ」

ガイアは石碑を見つめた。

「だが、黒き守護者は今も北方の境界に残っているはずだ」

「そうなんだよな」

レオは考え込んだ。

石碑に現れた言葉。

『三つの意思が再び交わる時、閉ざされた記憶は目覚める』

それが何を意味するのか、まだ分からなかった。

「……レオ」

ガイアが声をかけた。

「三つの意思とは、必ずしも三人が同じ場所に集まることを意味するとは限らない」

レオが顔を上げる。

「……どういうこと?」

「境界術は、離れた場所にある魔力を繋ぐこともできる」

ガイアは石碑を指差した。

「この紋様自体が、北方の境界と繋がっている可能性もある」

レオは目を見開いた。

「……なるほど」

その時、背後から声がした。

「勝手な推測で術式を動かすなよ」

振り向くと、フェルンが立っていた。

「この石碑は森の結界を支えている。下手に触れれば、侵食がさらに広がるかもしれない」

レオは頷いた。

「分かってる。今は調べてるだけだよ」

フェルンは石碑を見つめた。

「……ならいい」

少し離れた場所では、リュシアとミナが樹木の根を調べていた。

「……ここも黒くなってる」

リュシアが呟く。

根の表面には、細い黒い線が広がっていた。

ミナは地面へ手を近づけた。

「魔力が、奥から流れてきていますね」

「うん。でも、変なの」

「何がですか?」

リュシアは黒い線を指差した。

「普通、森の魔力は根から枝へ流れていくの。精霊たちが、その流れを整えてくれるから」

「……そうなんですね」

「でも、この黒い魔力は逆なんだよ」

ミナが首を傾げる。

「逆?」

「枝や葉から魔力を奪って、根の奥へ引き込んでる」

ミナは表情を曇らせた。

「……だから、周囲の花が枯れていたんですね」

リュシアは頷いた。

「たぶんね」

その時、彼女は根の隙間に小さなものを見つけた。

「……あれ?」

ミナが覗き込む。

「どうしました?」

リュシアは落ち葉を払いのけた。

そこには、石碑と同じ古代文字が刻まれた小さな石板が埋まっていた。

「……こんなもの、前からあったかな」

「レオたちを呼びましょう」

「……これは?」

レオが石板を見つめた。

リュシアは首を振った。

「分からない。でも、石碑と同じ文字が刻まれてる」

ガイアがしゃがみ込んだ。

「……確かに、古代の境界文字だ」

フェルンは石板を確認した。

「この周辺は何度も調査されている。以前から埋まっていたのなら、記録があるはずだが……」

レオは『魂導秘録』を開いた。

「……少し待って」

ページをめくり、境界術の項目を探す。

やがて、ある図に目が留まった。

「……あった」

カイが覗き込む。

「何が?」

「これ、石碑を補助する術式の一部みたいだ」

本には、巨大な石碑を中心として、複数の小さな石板が配置された図が描かれていた。

ガイアが頷く。

「……補助術式か」

レオは説明を読み進めた。

「石碑だけで結界を維持するんじゃなくて、周囲に配置された石板で魔力の流れを調整する仕組みらしい」

フェルンの表情が変わった。

「……つまり、この石板も結界の一部なのか?」

「おそらく」

レオは頷いた。

「でも、ここに書いてある配置と少し違う」

リュシアが尋ねた。

「……どう違うの?」

「本では、補助石板は石碑を囲むように置かれている」

レオは周囲を見渡した。

「なのに、これは根の下に埋まってる」

ガイアが静かに答えた。

「……長い年月で地形が変わった可能性もある」

「そうだな」

レオは石板へ視線を戻した。

「でも、確かめる価値はあると思う」

フェルンは少し考えた。

「……石板には触れるな。位置を記録してから調査する」

「分かった」

フェルンの指示で、一行は周辺の補助石板を探し始めた。

しばらくして、三つの石板が見つかった。

一つは樹木の根元。

もう一つは苔に覆われた岩の下。

最後の一つは、枯れた花々の間に埋まっていた。

「……全部で三つか」

カイが呟いた。

レオは地面に簡単な図を描いた。

中央に石碑。

その周囲に、三つの補助石板。

「……おかしいな」

ガイアが尋ねる。

「どうした?」

「本に描かれている補助石板は、四つなんだ」

リュシアが目を見開く。

「……一つ足りない?」

「ああ」

レオは図を見つめた。

「しかも、三つとも黒い侵食を受けてる」

フェルンは険しい表情になった。

「残る一つが、侵食の原因に関係している可能性があるな」

「そうかもしれない」

ガイアは石板の配置を確認した。

「……レオ。この三つの位置を線で結んでみろ」

レオは地面に線を引いた。

三つの石板を結ぶと、中央の石碑を囲む三角形ができた。

「……なるほど」

ガイアは図の一角を指差した。

「本来なら、ここにもう一つあるはずだ」

レオは顔を上げた。

その方角には、巨大な樹木が立ち並んでいた。

そして、その先は黒い侵食が特に強くなっている区域だった。

「……あっちか」

リュシアが呟く。

フェルンは首を振った。

「そこから先は、古い結界の内側だ」

カイが尋ねた。

「入れないのか?」

「許可されている調査区域の外だ。俺の判断では進めない」

レオは頷いた。

「……じゃあ、長老に相談しよう」

その時、白き守護者が静かに石碑へ近づいた。

彼女は三つの紋様を見つめていた。

そして、魂導師の紋様へ手を伸ばす。

レオが声をかけた。

「……守護者?」

彼女は振り向いた。

その瞳には、何かを伝えようとする強い意思が宿っていた。

守護者はレオを指差した。

次に、魂導師の紋様を指差す。

レオは首を傾げた。

「……俺?」

守護者は頷いた。

ガイアが静かに呟いた。

「……魂導師の役割を、レオに担ってほしいということか?」

守護者は再び頷いた。

レオは石碑を見つめた。

「……でも、俺はヴァルドじゃない」

守護者は静かに首を振った。

そして、レオの胸元に手を当てた。

淡い白い光が広がる。

その光の中に、一瞬だけヴァルドの姿が浮かび上がった。

彼は穏やかに微笑んでいた。

しかし、すぐに姿は消えた。

レオは息を呑んだ。

「……ヴァルド」

守護者はレオの手を握った。

彼女が伝えたいことを、レオは少しだけ理解した気がした。

同じ人間になる必要はない。

自分自身の意思で、道を選べばいい。

レオは静かに頷いた。

「……分かった」

その時だった。

石碑の魂導師の紋様が、淡く輝き始めた。

フェルンが振り向く。

「……また反応したのか?」

ガイアも目を細めた。

「……レオの魔力に反応している」

しかし、光はすぐに消えた。

レオは石碑を見つめた。

「……まだ、何か足りないんだな」

白き守護者は頷いた。

そして、森の奥を指差した。

そこには、見つかっていない四つ目の補助石板があるはずだった。

レオは静かに呟いた。

「……まずは、あれを探さないと」

黒い侵食は、今も森の奥から流れ続けている。

三つの紋様。

四つの補助石板。

そして、閉ざされた記憶。

レオたちは、古代の境界術に隠された仕組みへ少しずつ近づいていた。

――第156話・完――

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