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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
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155/183

第155話「古代の石碑」

エルフェリア大森林、深部。

巨大な樹木が立ち並ぶ森の奥で、レオたちはようやく目的地へ到着した。

「……ここが、境界の石碑か」

レオが呟いた。

目の前には、巨大な樹木の根に囲まれた石碑が立っていた。

高さは人の背丈ほど。

表面には古代文字が刻まれ、三つの紋様が並んでいる。

白き守護者。

黒き守護者。

そして、魂導師。

レオは『魂導秘録』を取り出した。

「……同じだ」

ガイアが隣から覗き込む。

「何が?」

「本に描かれていた紋様と、この石碑の紋様が一致してる」

ガイアは石碑を見つめた。

「……確かにな」

しかし、その紋様の一部は黒く染まっていた。

石碑の中央から広がる黒い線が、周囲の樹木の根へ伸びている。

リュシアは息を呑んだ。

「……こんなに広がってるなんて」

フェルンが周囲を確認した。

「昨日よりも侵食が進んでいる」

カイは剣の柄へ手を添えた。

「……何か出てきそうな雰囲気だな」

ミナが静かに答えた。

「冗談でも、そういうことは言わないでください」

「……悪い」

白き守護者は、石碑を見つめたまま動かなかった。

その表情には、深い悲しみが浮かんでいた。

「まずは周囲を調べる」

フェルンが告げた。

「ただし、石碑には勝手に触れるな。黒い侵食の正体が分からない以上、危険だ」

レオたちは頷いた。

リュシアは周囲の樹木を調べ始めた。

ミナは地面に流れる魔力を確認する。

カイは周辺の警戒を担当した。

レオとガイアは、石碑の前に立っていた。

「……ガイア」

「何だ?」

「この黒い魔力、どう思う?」

ガイアは少し考えた。

「死の魔力に似ている。だが、普通の死霊術とは異なる」

「……やっぱり?」

「ああ。魂を現世へ繋ぎ止めるものではない」

ガイアは黒い線を見つめた。

「むしろ、周囲の魔力を奪い取っているように感じる」

レオは眉をひそめた。

「……精霊が苦しんでいたのも、そのせいか」

「可能性は高い」

その時、リュシアが声を上げた。

「……レオ!」

レオが振り向く。

「どうした?」

「こっちに来て!」

レオたちは彼女のもとへ向かった。

リュシアが指差したのは、巨大な樹木の根元だった。

そこには、小さな花が咲いていた。

しかし、花弁の半分が黒く染まっている。

「……これも侵食されてるのか?」

レオが尋ねた。

リュシアは頷いた。

「うん。でも、見て」

彼女は花の近くにある土を指差した。

黒い線が、地面の奥へ伸びている。

「……石碑から流れてきたんじゃないのか?」

カイが尋ねた。

リュシアは首を振った。

「違う。根の奥から、石碑へ向かって流れてる」

ガイアの表情が変わった。

「……何?」

レオは地面を見つめた。

「……つまり」

ガイアが静かに続けた。

「石碑が侵食を生み出しているのではなく、別の場所から侵食が流れ込んでいる可能性がある」

フェルンが眉をひそめた。

「……そんなことが」

リュシアは森の奥を見た。

「……この先に、何かあるの?」

フェルンは首を振った。

「分からない。この区域より奥は、古い結界によって立ち入りが制限されている」

レオは石碑を見つめた。

「……石碑は、何かを防いでいるのかもしれない」

調査を続けるうちに、白き守護者が石碑へ近づいた。

彼女は三つの紋様を見つめていた。

そして、白い紋様へそっと手を伸ばした。

「……守護者?」

レオが声をかけた。

彼女は振り向いた。

その瞳には、迷いが浮かんでいる。

レオは静かに尋ねた。

「……触れたいのか?」

守護者は頷いた。

フェルンが一歩前へ出た。

「待て。許可なく触れることは認められない」

守護者は手を止めた。

レオがフェルンを見た。

「……彼女なら、何か分かるかもしれない」

「危険なのは変わらない」

「……そうだよな」

その時、ガイアが口を開いた。

「フェルン。石碑に直接触れず、魔力だけを調べる方法はないか?」

フェルンは少し考えた。

「……精霊術師なら、遠くから魔力の流れを調べられる」

「それなら、まず試してみよう」

フェルンは頷いた。

「……分かった」

彼はリュシアを見た。

「お前、簡単な探知術は使えるな?」

「うん」

「石碑の周囲を調べろ。ただし、深く干渉するな」

「分かった」

リュシアは石碑の前へ進んだ。

両手を胸元へ重ね、目を閉じる。

淡い緑色の光が広がった。

その光は石碑の周囲を巡り、黒い線へ近づいていく。

しかし、次の瞬間。

リュシアの表情が変わった。

「……え?」

レオが尋ねる。

「どうした?」

「……何か、いる」

フェルンが眉をひそめた。

「何?」

リュシアは目を閉じたまま答えた。

「石碑の中に……誰かの気配がある」

広場に緊張が走った。

「……誰かって、人間か?」

カイが尋ねた。

リュシアは首を振った。

「分からない。でも、魔力じゃなくて……もっと違うもの」

ガイアが顔を上げた。

「……魂の気配か?」

リュシアは驚いた。

「……そう。それに近いかもしれない」

レオは石碑を見つめた。

三百年前、ヴァルドは境界を封じるため、自らの存在を術式へ捧げた。

彼の魂は完全に消滅したわけではない。

境界を支える一部として、今も留まっている。

「……まさか」

レオが呟いた。

白き守護者は、石碑へ一歩近づいた。

彼女の胸元から、淡い白い光が溢れ始める。

ガイアが静かに告げた。

「……レオ。何かが反応している」

石碑の白い紋様が、守護者の光に呼応するように輝いた。

フェルンが声を上げる。

「全員、離れろ!」

レオたちは後退した。

しかし、守護者だけは動かなかった。

彼女は石碑を見つめ、静かに手を伸ばした。

今度は、誰も止めなかった。

白い光が石碑へ届く。

その瞬間。

石碑の表面に刻まれた古代文字が、一つずつ輝き始めた。

レオは目を見開いた。

「……これは」

『魂導秘録』の文字も、淡く光っていた。

ガイアが驚く。

「……本まで反応しているのか」

石碑の中央に、一つの文章が浮かび上がった。

レオは古代文字を読み取ろうとした。

「……『境界を守る者よ』」

彼は続けた。

「……『三つの意思が再び交わる時』」

そして、最後の一節。

「……『閉ざされた記憶は目覚める』」

レオは息を呑んだ。

「……三つの意思?」

石碑には、三つの紋様が刻まれている。

白き守護者。

黒き守護者。

そして、魂導師。

レオは守護者を見た。

彼女は静かに石碑を見つめていた。

その瞳には、涙が浮かんでいた。

やがて、石碑の光が弱まり始めた。

古代文字は消え、再び静けさが戻る。

しかし、黒い侵食は残されたままだった。

フェルンが口を開いた。

「……今のは何だったんだ?」

レオは『魂導秘録』を閉じた。

「……分からない。でも、石碑にはまだ何かが残されてる」

ガイアが頷いた。

「三つの意思が交わる時、か」

リュシアは首を傾げた。

「……それって、三人必要ってこと?」

「かもしれない」

レオは石碑を見つめた。

「でも、黒き守護者は北方の境界に残っているはずだ」

ガイアが静かに答えた。

「……ならば、今すぐ三つを揃えることは難しいだろう」

白き守護者は、石碑へ手を添えたまま俯いていた。

レオは彼女へ近づいた。

「……守護者」

彼女は顔を上げた。

「大丈夫か?」

守護者は小さく頷いた。

しかし、その表情は悲しげだった。

レオは静かに告げた。

「……まだ終わってないんだな」

彼女は頷いた。

レオは石碑を見つめた。

三百年前に封じられた境界。

そこに残された魂。

そして、森の奥から流れ込む黒い侵食。

すべてが、少しずつ繋がり始めていた。

だが、その全貌はまだ見えていなかった。

――第155話・完――

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