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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第7章「エルフの森」
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第150話「エルフ評議会」

エルフェリア大森林の深部。

樹齢数千年を超える巨大な樹木の内部には、エルフ族の重要な決定を下すための評議会場が存在していた。

円形の広間には、七つの席が並んでいる。

その中央に立つのは、長老エルディンだった。

「……以上が、外縁部で確認された異変だ」

報告を終えると、広間に沈黙が流れた。

最初に口を開いたのは、白髪の老エルフだった。

「境界の石碑に黒い侵食が現れたというのか」

「ああ。すでに周囲の精霊にも影響が出始めている」

「原因は?」

「現時点では不明だ」

その答えに、評議員たちの表情が険しくなった。

若い男性の評議員が口を開く。

「長老。石碑は三百年間、森の結界を支えてきた重要な遺物です。異変を放置するわけにはいきません」

「分かっておる」

「ならば、精霊術師を派遣するべきです」

エルディンは頷いた。

「すでに調査を命じている。だが、通常の精霊術では黒い侵食に干渉できなかった」

「……そんな」

「さらに、石碑から何者かの声が聞こえたという報告もある」

広間がざわめいた。

白髪の評議員が尋ねる。

「何と言っていた?」

「『まだ届かない』と」

エルディンは静かに答えた。

「それが何を意味するのかは分からぬ」

その時、別の評議員が口を開いた。

「長老。外縁部にネクロマンサーが現れたという報告も受けています」

エルディンは頷いた。

「レオという少年だ」

「まさか、その者を森へ入れるおつもりですか?」

「可能性として検討している」

「反対です!」

男性の評議員が立ち上がった。

「我々は過去に、死者の魂を利用する者によって森を傷つけられたのです!」

「その歴史を忘れたわけではない」

「ならば、なぜ!」

エルディンは杖を床についた。

「その少年が、ヴァルドの残した『魂導秘録』を持っていたからだ」

評議員たちが言葉を失った。

「……ヴァルド?」

白髪の評議員が身を乗り出す。

「三百年前、あなたと境界術を研究したという、あの人間ですか?」

「ああ」

エルディンは続けた。

「しかも、少年には白き守護者が同行している」

広間の空気が変わった。

「……白き守護者が?」

「間違いないのですか?」

「この目で確認した」

エルディンは静かに答えた。

「彼女は今も、境界を守ろうとしている」

白髪の評議員は深く考え込んだ。

「……ならば、話だけでも聞く価値はあるかもしれませんな」

しかし、反対していた評議員は首を振った。

「危険すぎます。森の掟を曲げることになります」

「掟を曲げるのではない」

エルディンは答えた。

「掟に従って、その者たちの意思を確かめるのだ」


同じ頃。

精霊の試練場では、レオたちが評議会の決定を待っていた。

「……まだ戻ってこないのか?」

カイが退屈そうに呟いた。

ミナは石柱を見つめながら答えた。

「大切な話し合いなんですから、時間がかかるのは仕方ありませんよ」

「それは分かるけどな」

レオは『魂導秘録』を開いていた。

そこには、三百年前に記された境界術の説明が残されている。

ガイアが隣から覗き込んだ。

「何か見つかったか?」

「いや。ただ……」

レオはある一節を指差した。

「ここに、精霊と死者の魂を結びつける術について書かれてる」

ガイアは文章を読んだ。

『異なる魂を無理に繋ぐことは、双方の意思を傷つける。境界を保つには、互いの同意が不可欠である』

「……ヴァルドらしい考え方だな」

「ああ」

レオは本を閉じた。

「森の掟も、きっと同じ理由で作られたんだと思う」

その会話を聞いていたリュシアが近づいてきた。

「……何の話?」

レオは本を見せた。

「ヴァルドが残した記録だよ」

リュシアは古い文字を見つめた。

「……これ、おじいちゃんが昔教えてくれた文字に似てる」

「読めるのか?」

「少しだけ」

彼女は一節を指差した。

「……ここに書いてあるのは、『意思なき契約は束縛に等しい』かな」

ガイアが頷いた。

「その解釈で間違いないだろう」

リュシアはレオを見た。

「あなたたちの契約も、そういう考え方なの?」

「ああ。ガイアが望まなければ、俺は契約を続けない」

ガイアも静かに頷いた。

「私自身が選んでいることだ」

リュシアは少し考えた。

「……だったら、森の掟に反していないのかもしれないね」

その時、背後から声がした。

「それを判断するのは、お前ではない」

振り向くと、フェルンが立っていた。

「……フェルン」

リュシアの表情が曇る。

フェルンはレオたちを見渡した。

「評議会から連絡があった。お前たちに確認したいことがあるそうだ」

レオが立ち上がった。

「……審査の続きですか?」

「そうだ。ただし、通常の審査とは異なる」

フェルンはガイアへ視線を向けた。

「特に、お前の契約について詳しく調べる必要がある」

ガイアは頷いた。

「構わない」

「本当に?」

「ああ。私の意思を確かめたいのだろう」

フェルンは少し驚いた様子だった。

「……そうだ」

「ならば、拒む理由はない」

ガイアは静かに答えた。

「ただし、私の意思を確かめるために、レオへ契約の解除を強制するようなことはしないでもらいたい」

フェルンの表情が変わった。

「……なぜだ?」

「契約を続けるかどうかも、私が決めることだからだ」

その言葉に、フェルンは黙り込んだ。

しばらくして、エルディンが試練場へ戻ってきた。

老人の表情は厳しかった。

「待たせたな」

レオたちは立ち上がった。

「……どうなりましたか?」

エルディンは全員を見渡した。

「評議会は、お前たちの森への立ち入りを認めるかどうか、意見が分かれておる」

カイが眉をひそめる。

「……やっぱりか」

「だが、境界の石碑に起きている異変を考えれば、お前たちの知識を無視することもできぬ」

エルディンはレオを見た。

「そこで、条件付きで調査への同行を認める案が出ている」

レオの表情が明るくなった。

「本当ですか?」

「まだ決定ではない」

老人は続けた。

「まず、残りの審査を受けてもらう。特にレオとガイアの契約については、精霊の前で意思を確認する必要がある」

ガイアが頷いた。

「承知した」

「そして、もう一つ」

エルディンは白き守護者を見た。

「彼女にも、確認したいことがある」

守護者は静かに顔を上げた。

「三百年前、ヴァルドはこの森に一つの約束を残した」

レオが尋ねた。

「……約束?」

エルディンは頷いた。

「境界に異変が起きた時、白き守護者が再び森を訪れるならば、古い石碑へ導くように、と」

レオは驚いた。

「……ヴァルドが?」

「ああ」

エルディンは守護者を見つめた。

「私は長い間、その意味を理解できずにいた」

白き守護者は胸元へ手を当てた。

淡い光が、指の隙間から漏れ出す。

エルディンは静かに続けた。

「だが、今なら分かる。彼は、いつかこの森にも異変が訪れることを恐れていたのだろう」

レオは森の奥を見た。

「……それじゃあ、石碑には」

「おそらく、お前たちが探している答えの一部が眠っている」

エルディンは頷いた。

「しかし、そこへ向かうには、まず森に受け入れられなければならぬ」

老人は杖を持ち上げた。

「明朝、第二審査を行う」

レオは真剣な表情で頷いた。

「……分かりました」

白き守護者は、森の奥を見つめていた。

その瞳には、三百年前の記憶を思い出すような悲しみが浮かんでいる。

レオは彼女の隣へ立った。

「……必ず、石碑まで行こう」

守護者は静かに頷いた。

そして、レオの手をそっと握った。

――第150話・完――

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