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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第142話「黒き守護者の正体」

三百年前。

北方、旧境界域。

雪に覆われた山々の奥。

かつて人々が境界を監視していた場所には、巨大な石の門が存在していた。

門の周囲には七つの監視地点が設けられていたが、そのほとんどは既に機能を失っている。

そして、最も奥に位置する第七監視地点。

そこでは、白い封印の光が黒い影に侵食され続けていた。

門の中央には、縦に伸びる巨大な亀裂がある。

その向こう側から、何者かがこちらを見つめていた。

『……来る』

暗闇の奥で、低い声が響く。

『……白き守護者が』

その隣には、人間の姿に似た黒い影が立っていた。

影は何も答えない。

ただ、門の向こう側を静かに見つめていた。


北方街道。

ヴァルドたちは、雪の積もった道を進んでいた。

先頭を歩くヴァルドの隣には、白い守護者がいる。

後方にはアシュレイ、三人目のネクロマンサー、そして協力を申し出た仲間たちが続いていた。

「……思ったより寒いな」

一人のネクロマンサーが呟いた。

アシュレイは周囲を見渡した。

「この先は、さらに気温が下がる」

「……まだ下がるのか?」

「ああ。境界の異変によって、周辺の魔力循環も乱れている」

ヴァルドが振り向く。

「全員、無理をするな」

仲間たちが頷いた。

その時、白い守護者が足を止めた。

「……どうした?」

ヴァルドが尋ねる。

守護者は北方の山々を見つめていた。

その白い光が、わずかに揺れている。

アシュレイが近づいた。

「……何か感じるのか?」

守護者は頷いた。

そして、胸元へ手を当てた。

ヴァルドの脳裏に、一つの光景が浮かぶ。

白い空間。

その中央に立つ、二つの人影。

白い守護者。

そして、黒い守護者。

二人は互いに向き合っていた。

しかし、次の瞬間。

黒い守護者の背後に、巨大な瞳が現れる。

白い守護者が手を伸ばす。

だが、黒い守護者は振り向かなかった。

そこで光景は途切れた。

ヴァルドは目を開けた。

「……また、あの光景か」

アシュレイが尋ねる。

「何が見えた?」

「黒い守護者だ」

三人目のネクロマンサーが顔を上げた。

「……地下封印庫の記録にあった存在か?」

「ああ」

ヴァルドは守護者を見た。

「……お前は、あいつに会いたいのか?」

守護者は、しばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと頷いた。


第六監視地点。

ヴァルドたちは、崩れかけた監視塔へ到着した。

塔の内部には、古い術式が刻まれている。

アシュレイが壁に触れた。

「……まだ使える部分がある」

ヴァルドが尋ねる。

「門の状態を調べられるか?」

「試してみる」

アシュレイは術式を展開した。

《魂導探査・境界観測》

壁に刻まれた文字が淡く光り始める。

空中に、巨大な石の門の姿が浮かび上がった。

「……これが、現在の門か」

三人目のネクロマンサーが呟く。

映し出された門には、大きな亀裂が走っていた。

白い封印は、既に半分以上が失われている。

「……まずいな」

アシュレイが眉をひそめる。

ヴァルドは門の周囲を見た。

「……何かいる」


映像の奥。

門の前に、一人の人影が立っていた。

全身を黒い光に包まれた存在。

その姿は、人間に似ていた。

しかし、顔は見えない。

三人目のネクロマンサーが息を呑んだ。

「……まさか」

アシュレイが呟く。

「……黒き守護者か」

その瞬間、映像の中の影が顔を上げた。

まるで、こちらを見ているかのように。

そして、静かに口を開いた。

『……来るな』

ヴァルドの表情が変わった。

「……何?」

『……ここへ、来てはならない』

映像が乱れ始める。

アシュレイが術式を維持しようとした。

「……待て!」

しかし、黒い影は続けた。

『……白き守護者を、連れてくるな』

その言葉を最後に、映像は消えた。


監視塔。

しばらくの沈黙が流れた。

ヴァルドは白い守護者を見た。

守護者は、映像が消えた場所を見つめていた。

「……知り合いなんだな」

守護者は頷いた。

「……あいつは、何者なんだ?」

守護者は目を閉じた。

そして、ヴァルドの額へ手を伸ばした。

白い光が広がる。

遥か昔。

境界が、まだ安定していた時代。

巨大な石の門の前には、二つの存在が立っていた。

一つは白。

もう一つは黒。

二人は、人間とは異なる存在だった。

しかし、その姿は人間に近かった。

白い守護者が、門の外側に立つ。

黒い守護者は、門の内側に立っていた。

二人の間には、巨大な石の門がある。

『……今日も異常はない』

黒い守護者が告げた。

白い守護者は頷いた。

『……そう』

『現世の様子は?』

白い守護者は、遠くの世界を見つめた。

『……穏やか』

黒い守護者は小さく笑った。

『それなら、いい』

二人は、互いに手を伸ばした。

石の門を挟んで、白い光と黒い光が重なる。

その瞬間、門に刻まれた術式が輝いた。

境界は安定していた。

しかし。

ある日。

黒い守護者は、境界のさらに奥で異変を感じた。

『……何だ?』

暗闇の向こう。

本来、何も存在しないはずの場所に、小さな瞳が浮かんでいた。

『……誰だ』

黒い守護者が問いかける。

瞳は答えなかった。

ただ、静かにこちらを見つめている。

『……ここは、通してはならない場所だ』

黒い守護者は手を伸ばした。

《境界守護・黒環》

黒い光が広がり、瞳を囲む。

しかし、瞳は消えなかった。

『……見つけた』

低い声が響いた。

黒い守護者の表情が変わる。

『……何を?』

『……門を』

瞳が大きく開いた。

『……そして、お前を』

黒い守護者は後退した。

『……近づくな』

しかし、暗闇から細い線が伸びてきた。

その線は、黒い守護者の腕へ絡みついた。

『……何だ、これは!』

黒い守護者は術式を展開した。

《境界断絶》

黒い線が断ち切られる。

だが、次の瞬間には再び伸びてきた。

『……無駄だ』

瞳が告げる。

『……お前は、境界そのものと繋がっている』

黒い守護者は目を見開いた。

『……まさか』

『……お前を通れば、門へ届く』

その瞬間。

黒い守護者の胸元に、巨大な紋様が浮かび上がった。

黒い光が、異質な影へと変わり始める。

『……やめろ!』

黒い守護者は必死に抵抗した。

しかし、向こう側の存在は、彼の力を利用しようとしていた。

その時。

石の門の向こうから、白い光が伸びてきた。

『……待って!』

白い守護者だった。

彼女は門の外側から手を伸ばした。

『……今、助ける!』

黒い守護者は首を振った。

『……来るな!』

『……どうして!』

『……俺に繋がれば、お前まで奪われる!』

白い守護者は手を止めなかった。

『……それでも!』

黒い守護者は、彼女を見つめた。

そして、静かに告げた。

『……お前は、現世を守れ』

『……嫌!』

『……俺は、こちら側を守る』

黒い守護者は両手を広げた。

《境界守護・黒環封鎖》

巨大な黒い光が、門の内側へ広がった。

黒い守護者は、自らの力で境界の奥を封じ込めた。

しかし、その代償として、白い守護者との繋がりが断たれた。

『……待って!』

白い守護者が叫ぶ。

黒い守護者は、最後に小さく笑った。

『……いつか、また』

そして、門の奥へ姿を消した。


現在の記憶。

ヴァルドは目を開けた。

「……そういうことだったのか」

白い守護者は俯いていた。

その目には、涙が浮かんでいる。

アシュレイが尋ねる。

「……何が分かった?」

ヴァルドは静かに答えた。

「黒い守護者は、敵じゃない」

三人目のネクロマンサーが顔を上げる。

「……何?」

「むしろ、ずっと境界を守っていた」

アシュレイは考え込んだ。

「……だが、今は門の向こう側にいる」

「ああ」

ヴァルドは続けた。

「そして、向こう側の存在に利用されかけている」

三人目の男が尋ねる。

「……だったら、どうする?」

ヴァルドは白い守護者を見た。

「……助けよう」

守護者の表情が変わった。

「門を閉じるだけじゃない」

ヴァルドは続けた。

「黒い守護者も、連れ戻す」

白い守護者は、しばらくヴァルドを見つめていた。

そして、静かに頷いた。


第七監視地点。

門の前。

黒い守護者は、一人で立っていた。

その右腕には、黒い紋様が広がっている。

しかし、それは本来の守護者の力ではなかった。

向こう側の存在によって刻まれた、異質な紋様だった。

『……来るなと言ったはずだ』

黒い守護者が呟く。

暗闇の奥から、巨大な瞳が現れた。

『……なぜ、拒む』

黒い守護者は答えた。

『……あいつを、巻き込みたくない』

『……白き守護者か』

『……』

『……お前たちは、互いを必要としている』

黒い守護者は拳を握った。

『……だからこそ、近づけない』

巨大な瞳が細くなる。

『……ならば』

暗闇から、複数の黒い手が伸びた。

『……お前の意思を奪えばいい』

黒い守護者の身体が、ゆっくりと持ち上がる。

『……やめろ!』

彼は必死に抵抗した。

しかし、黒い紋様は首元まで広がり始めた。

巨大な瞳が告げる。

『……お前が門を開けば』

黒い守護者は歯を食いしばった。

『……現世は、我々のものになる』


現在。

レオは、記憶の中の黒い守護者を見つめていた。

「……敵じゃなかったんだ」

ガイアが頷いた。

「境界の向こう側で、長い間戦い続けていたのだろう」

カイが腕を組んだ。

「……それなのに、利用されようとしてるのか」

ミナは白い守護者を見た。

「……ずっと、会いたかったんですね」

守護者は静かに頷いた。

レオは少し考えた。

「……お前は、今も黒い守護者のことを覚えているんだな」

守護者は頷いた。

そして、レオへ手を伸ばした。

白い光が、レオの胸元に触れる。

そこには、悲しみと後悔。

そして、長い時間を経ても消えない願いが込められていた。

レオは守護者の手を握った。

「……分かった」

守護者が顔を上げる。

「いつか、必ず探そう」

その言葉に、守護者の目が揺れた。

レオは続けた。

「三百年前に何が起きたのか、全部知ってから」

「……」

「その上で、俺たちにできることを考えよう」

守護者は静かに頷いた。


三百年前。

北方、旧境界域。

ヴァルドたちは、ついに第七監視地点へ到着した。

雪の向こうに、巨大な石の門が見える。

門の中央には、大きな亀裂が走っていた。

そして、その前には、一人の黒い人影が立っている。

「……あれが」

ヴァルドが呟く。

アシュレイが頷いた。

「……黒き守護者」

白い守護者が、一歩前へ出た。

黒い人影が、ゆっくりと顔を上げる。

二人の視線が重なった。

長い時間を経て、再び向き合う二つの守護者。

しかし、黒い守護者の口から発せられたのは、再会を喜ぶ言葉ではなかった。

『……逃げろ』

ヴァルドの表情が変わった。

「……何?」

黒い守護者は、苦しそうに顔を歪めた。

『……今すぐ……ここから……!』

その瞬間。

黒い守護者の背後に、巨大な瞳が開いた。

そして、門の亀裂から無数の黒い腕が伸び始めた。

ヴァルドは術式を展開する。

《魂導鎖》

白い鎖が、仲間たちの前に広がった。

「……全員、構えろ!」

アシュレイも両手を広げた。

《魂導結界》

白い光が、仲間たちを包み込む。

黒い守護者は、最後の力を振り絞るように叫んだ。

『……俺を……止めろ!』

ヴァルドは、黒い守護者を見つめた。

そして、静かに答えた。

「……分かった」

白い守護者が、ヴァルドの隣へ立つ。

「……でも、殺さない」

ヴァルドは続けた。

「必ず、助ける」

黒い守護者の目が、わずかに揺れた。

その直後。

門の向こう側から、巨大な黒い手が伸びてきた。

――第142話・完――

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