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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第129話「魂導院封鎖」

三百年前。

魂導院の正門前。

聖王教会の紋章を掲げた馬車が、次々と到着していた。

馬車から降りたのは、白銀の鎧を纏った騎士たち。

その数は二十人を超えていた。

先頭に立つ騎士の指揮官が、魂導院を見上げる。

「……ここが、死者を扱う者たちの研究施設か」

隣にいた老司祭が答える。

「彼らは死者を支配しているわけではありません。魂を導くための研究を続けていると聞いております」

「死者の力を使っていることに変わりはない」

「指揮官殿」

「分かっている。最初から敵と決めつけるつもりはない」

指揮官は正門へ歩き出した。

「だが、報告が事実ならば、放置するわけにもいかん」

その後ろを、騎士たちが続いた。

魂導院、大広間。

「教会が来た?」

ヴァルドが立ち上がった。

報告に来た若いネクロマンサーが頷く。

「正門に騎士が二十人以上います。責任者との面会を求めています」

アシュレイが三人目のネクロマンサーを見る。

「……お前が呼んだ連中か」

「こんな人数が来るなんて聞いていない」

「では、何人だと思っていた?」

「研究者と、治療に詳しい司祭が数人……」

三人目は言葉を失った。

最初の男が冷たく笑う。

「見ろよ。これがお前の求めた協力だ」

「……すまない」

「謝れば済むと思うか?」

「今は責め合っている場合じゃない」

ヴァルドが二人の間に入った。

「まず話を聞こう」

「武装した騎士を二十人も連れてきた連中と?」

アシュレイが答える。

「話し合わなければ、何をするつもりなのかも分からない」

最初の男は黙り込んだ。

その右腕では、黒い紋様がゆっくりと広がっていた。

正門が開かれた。

ヴァルドとアシュレイが、教会の調査団を迎える。

「魂導院を代表して話を聞く。ヴァルドだ」

「アシュレイだ」

騎士の指揮官が一歩前へ出た。

「聖王教会北方支部より派遣された調査団だ。黒い石に関する報告を受け、調査に来た」

ヴァルドが尋ねる。

「調査に騎士二十人が必要なのか?」

「危険性が確認されている以上、護衛は必要だ」

「我々を危険視しているように聞こえるが」

「危険視しているのは、黒い石だ」

指揮官は淡々と答えた。

「ただし、それを扱った者についても確認する」

アシュレイが眉をひそめる。

「確認とは?」

「接触した者の状態、研究内容、封印方法。そして、今後も危険な研究を続ける意思があるかどうかだ」

「研究は既に中止している」

「報告では、中止後にも接触があったそうだな」

ヴァルドの表情が変わった。

「……どこでそれを?」

「境界監視者から追加報告を受けた」

指揮官は懐から一枚の書状を取り出した。

「こちらが調査の条件だ」

ヴァルドが受け取り、目を通す。

そこには三つの項目が記されていた。

第一、黒い石および関連資料の教会への提出。

第二、石に接触した者の隔離と検査。

第三、調査が終了するまでの魂導院の活動停止。

「……活動停止?」

ヴァルドが顔を上げる。

「死者の導きも含めてか?」

「例外は認められない」

「我々を待っている魂がいる」

「それでもだ」

アシュレイが口を開いた。

「黒い石の研究を止めることには同意する。だが、死者の救済まで禁じる理由はない」

「研究施設の安全が確認されていない」

「魂導術と黒い石は別のものだ」

「それを判断するための調査だ」

指揮官は譲らなかった。

「条件を受け入れてもらおう」

大広間。

教会の要求を聞いた十三人は、再び意見を分けた。

「ふざけるな!」

最初の男が机に手をついた。

「俺たちを閉じ込めるつもりじゃないか!」

「落ち着け」

ヴァルドが制する。

「落ち着いていられるか!」

二人目のネクロマンサーも立ち上がった。

「隔離して検査だと? 俺たちは病人でも罪人でもない!」

「紋様の進行を調べるためだろう」

別の仲間が答える。

「教会に何が分かる!」

「境界監視者も協力すると言っている」

「だったら監視者に任せればいい!」

議論は収まらなかった。

三人目のネクロマンサーが口を開く。

「……俺が教会に話をしてくる」

最初の男が振り向いた。

「今さら何を話す?」

「調査と治療だけを頼んだんだ。活動停止なんて求めていない」

「お前の言葉を聞いてくれると思うか?」

「分からない」

三人目は俯いた。

「でも、何もしないわけにはいかない」

ヴァルドが立ち上がる。

「俺も行く」

アシュレイも続いた。

「三人で話そう。少なくとも、魂導院の全員を拘束させるわけにはいかない」

魂導院の中庭。

教会の指揮官は、三人の話を聞いていた。

「活動停止の条件を緩和してほしい?」

ヴァルドが頷く。

「黒い石の研究は中止する。関連資料も調査に協力しよう」

「それだけでは足りない」

「死者を導く活動は続けさせてほしい」

「認められない」

アシュレイが一歩前へ出た。

「理由を聞かせてくれ」

「黒い石が死界に干渉する以上、魂導術そのものにも影響が出ている可能性がある」

「可能性だけで全てを止めるのか?」

「可能性を軽視した結果、境界に亀裂が生じたのではないか?」

アシュレイは言葉を止めた。

その指摘を否定することはできなかった。

三人目が口を開く。

「……接触した二人については、我々も治療法を探しています」

「ならば教会が保護する」

「保護?」

「教会の施設へ移送し、隔離する」

三人目の表情が変わった。

「待ってください。二人はまだ何も――」

「境界に亀裂を開いた」

指揮官が遮る。

「本人たちに悪意がなかったとしても、危険な状態であることは変わらない」

「しかし!」

「我々は世界を守る義務がある」

ヴァルドが静かに問いかけた。

「……そのためなら、仲間を連れていくのか?」

「必要ならば」

指揮官は迷わず答えた。

「抵抗するなら、拘束する」

現在。

記憶を見ていたカイが、険しい表情を浮かべた。

「……教会の言い分も分からなくはないけどよ」

ミナが頷く。

「でも、あの二人は助けを必要としているんですよね」

「そうだ」

ガイアが答える。

「危険を止めることと、苦しんでいる者を救うこと。その両方が必要だった」

レオは記憶の中のヴァルドを見つめていた。

「……三百年前も、同じだったんだな」

死者の男が尋ねる。

『何がだ?』

「ネクロマンサーというだけで、危険な存在として見られることだ」

レオは続ける。

「教会は世界を守ろうとしている。でも、魂導院の人たちも、世界を壊そうとしていたわけじゃない」

『ああ』

死者の男は静かに頷いた。

『だからこそ、我々は最後まで話し合うべきだった』

守護者が白い光を灯す。

すると、記憶の景色が変わった。

三百年前。

夕暮れの魂導院。

正門には教会の騎士が配置されていた。

裏門にも、複数の騎士が立っている。

外へ続く道は全て封鎖されていた。

大広間に戻ったヴァルドは、仲間たちに告げた。

「……教会が魂導院を封鎖した」

誰も言葉を発しなかった。

「調査が終わるまで、外部との出入りは禁止だ」

二人目のネクロマンサーが立ち上がる。

「俺たちを閉じ込めたのか!」

「まだ拘束命令は出ていない」

「同じことだろ!」

最初の男は窓の外を見つめていた。

その目には、正門を守る騎士たちが映っている。

「……やっぱりな」

小さく呟いた。

「最初から、こうするつもりだったんだ」

三人目が近づく。

「……すまない」

「もういい」

「俺は……」

「謝るな」

最初の男は振り向かなかった。

「お前の顔を見ていると、何をするか分からなくなる」

三人目は立ち尽くした。

その時、アシュレイが部屋に入ってきた。

「ヴァルド」

「どうした?」

「封印庫を確認してきた」

「石に異常が?」

「ああ」

アシュレイは一枚の記録紙を差し出した。

「石の亀裂が、また広がっている」

ヴァルドが眉をひそめる。

「誰かが触れたのか?」

「誰も入っていない」

「……なら、なぜ?」

アシュレイは静かに答えた。

「石が、何かに反応している」

「何に?」

「北だ」

ヴァルドが顔を上げた。

「北?」

「亀裂が一定の方向を示している」

アシュレイは記録紙に描かれた図を指差す。

「まるで、どこかへ向かおうとしているように」

その会話を、最初の男が聞いていた。

男の右腕に刻まれた黒い紋様が、ゆっくりと広がる。

そして、頭の奥に声が響いた。

『……見つけた』

男は目を見開いた。

『……門は、北にある』

「……門?」

誰にも聞こえない声で呟く。

その瞬間、男の脳裏に一つの光景が浮かんだ。

雪に覆われた山々。

深い谷。

そして、巨大な石の門。

門の中央には、三つの円と一本の縦線が刻まれていた。

男は震えながら窓の外を見た。

「……あそこにあるのか」

教会に封鎖された魂導院。

仲間たちとの信頼は崩れ始めていた。

そして、黒い石が示した北の地では、三百年前の悲劇へと繋がる何かが、静かに動き始めていた。

――第129話・完――

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