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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第127話「境界監視者の警告」

三百年前。

魂導院から北へ離れた山中。

古い石柱を囲むように、五人の境界監視者が立っていた。

石柱には三つの円と一本の縦線が刻まれている。

その中央を、黒い亀裂が貫いていた。

「……昨日まではなかった」

一人の監視者が石柱へ手を伸ばす。

「触れるな」

背後から声が響いた。

白い外套を纏った年配の監視者が歩み寄る。

「その亀裂は、こちら側から生じたものではない」

「どういう意味ですか?」

「向こう側から干渉されている」

若い監視者の表情が変わった。

「死界から……?」

「まだ断定はできん」

年配の監視者は石柱を見つめる。

「だが、これだけは分かる」

「何でしょう?」

「何者かが境界の位置を探っている」

その言葉に、全員が沈黙した。

「魂導院へ向かう」

年配の監視者が告げる。

「黒い石の研究を、直ちに止めさせなければならん」

魂導院。

ヴァルドとアシュレイは研究室にいた。

机の上には、黒い石に関する資料が広げられている。

「昨夜、封印庫の術式が乱れた」

ヴァルドが記録を差し出す。

アシュレイは内容を確認し、眉をひそめた。

「……誰かが入ったのか?」

「分からない。扉には破壊された形跡がない」

「なら、内部から封印が解かれた可能性もある」

「黒い石自身が?」

「それも考えられる」

アシュレイは資料を閉じた。

「接触した二人を呼ぼう」

その時、研究室の扉が開いた。

「ヴァルド!」

仲間の一人が駆け込んでくる。

「境界監視者が来ている!」

「監視者が?」

「緊急の話があるそうだ!」

ヴァルドとアシュレイは顔を見合わせた。

魂導院の大広間。

境界監視者たちを前に、十三人のネクロマンサーが集められていた。

年配の監視者が口を開く。

「北方の監視石柱に異常が発生した」

ヴァルドが尋ねる。

「どんな異常だ?」

「境界の内側へ、外部から力が流れ込んでいる」

アシュレイの表情が険しくなる。

「……黒い石か」

「その可能性が高い」

監視者は全員を見渡した。

「確認したい。研究中止の決定以降、誰か石に接触したか?」

沈黙が広がる。

最初の男は俯いた。

隣に立つ二人目も、何も言わない。

ヴァルドが二人を見る。

「……お前たち」

最初の男が顔を上げた。

「俺がやった」

広間がざわつく。

「何だと?」

「昨夜、封印庫に入った」

アシュレイが立ち上がる。

「何をした!」

「声の正体を確かめようとした」

「それで?」

男は唇を噛んだ。

「……小さな亀裂が開いた」

ヴァルドの表情が変わった。

「境界にか?」

「……ああ」

「なぜ黙っていた!」

「閉じたんだ!」

男が叫ぶ。

「俺たちで閉じた! だから大丈夫だと思った!」

「大丈夫なわけがないだろ!」

アシュレイが一歩近づく。

「向こう側にいる何かが、お前たちを認識したんだぞ!」

年配の監視者が静かに口を開いた。

「……やはりな」

全員が振り返る。

「黒い石は、死界を調べるための道具ではない」

「どういうことだ?」

ヴァルドが尋ねる。

監視者は答えた。

「境界の向こうにいる何者かが、こちら側を見つけるための目印だ」

広間が静まり返った。

「我々が石を発見したのではない」

監視者は続ける。

「発見させられた可能性がある」

最初の男の顔から血の気が引いた。

「……そんな」

「お前が聞いた声は、何と言った?」

「北へ行けと……」

「ほかには?」

「門を探せと……」

年配の監視者が目を閉じる。

「やはり、門を狙っているのか」

ヴァルドが問いかけた。

「その門はどこにある?」

「北方に古い境界点が存在する」

「死界への門か?」

「正確には、かつて境界が大きく揺らいだ場所だ」

監視者は厳しい表情で続ける。

「そこへ黒い石を持ち込んではならない」

現在。

記憶を見ていたカイが腕を組む。

「これだけ警告されてたのに、結局門を開いちまったのか」

ミナが答える。

「でも、この時点ではまだ門の場所も分かっていなかったんですよね」

「そうだな」

ガイアが口を開く。

「問題は、石が場所を知っていたことだ」

レオは守護者を見る。

「お前たち境界監視者は、三百年前からあの存在を警戒していたんだな」

守護者は静かに頷いた。

死者の男が続ける。

『だが、我々は一つ大きな勘違いをしていた』

「勘違い?」

『黒い石を封印すれば、すべて終わると思っていた』

レオの表情が変わる。

『しかし、石に触れた二人には既に印が刻まれていた』

『石を閉じ込めても、向こう側との繋がりは消えなかったのだ』

三百年前。

魂導院の封印庫。

境界監視者たちが黒い石を囲んでいた。

「封印を強化する」

年配の監視者が命じる。

白い光が石を包み込む。

表面に浮かんでいた黒い模様が、ゆっくりと薄れていった。

「……成功です」

若い監視者が安堵する。

しかし年配の監視者は首を振った。

「まだだ」

「何か問題が?」

「石の反応が消えただけだ」

その頃。

魂導院の別室。

最初の男が自分の腕を押さえていた。

黒い紋章が、これまで以上に広がっている。

「……どうして」

男は震える声で呟いた。

「石は封印されたはずだろ……」

『……関係ない』

頭の奥に声が響いた。

『……もう繋がっている』

「やめろ……!」

『……門を見つけろ』

男は耳を塞ぐ。

「俺はもう研究を続けない!」

『……お前は知りたいはずだ』

「黙れ!」

『……死者の真実を』

男は膝をついた。

その時、扉が開いた。

二人目のネクロマンサーが入ってくる。

「おい、大丈夫か?」

「……来るな」

「何?」

「近づくな!」

男が顔を上げる。

右目の周囲に、黒い線が浮かんでいた。

二人目が息を呑む。

「……お前、その目」

「助けてくれ……」

最初の男の声が震える。

「俺の中に……何かがいる」

二人目は迷わず駆け寄った。

「ヴァルドを呼ぶ!」

しかし、その腕を最初の男が掴んだ。

「待ってくれ……!」

「どうした!」

「今、見えたんだ」

「何が?」

男は震えながら答えた。

「……北にある門の場所が」

二人目の表情が凍りつく。

そして、最初の男の口から――。

本人の声とは異なる、低い声が漏れた。

『……ようやく見つけた』

現在。

レオが目を細める。

「……黒い石がなくても、身体を通して干渉できるのか」

ガイアが頷いた。

「最初の接触で繋がりを作られていたんだろう」

ミナが不安そうに尋ねる。

「じゃあ、あの二人はもう……」

「まだだ」

レオは首を振る。

「まだ助けられたはずだ」

死者の男が静かに答える。

『ああ』

『だが、十三人の間に生まれた不信は、簡単には消えなかった』

『そして我々は、仲間を救うための方法を巡って再び対立することになる』

レオは記憶の奥を見つめた。

三百年前のネクロマンサーたち。

彼らの選択が、後の悲劇へと繋がっていく。

――第127話・完――

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