↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
PR
126/181

第126話「黒石実験」

三百年前。

深夜の魂導院。

地下封印庫の前に、二人のネクロマンサーが立っていた。

「……まだ引き返せるぞ」

二人目の男が呟く。

「分かってる」

「だったら、明日ヴァルドたちと話そう」

「明日じゃ遅いんだ」

最初の男は右腕を見せた。

黒い紋章が肘の近くまで広がっている。

「今夜になってから、急に広がり始めた」

「……何だよ、それ」

「俺にも分からない」

男は拳を握る。

「だから調べるんだ」

「調べるって……」

「この石が何をしたいのか。それが分かれば、俺の腕も元に戻せるかもしれない」

二人目は唇を噛んだ。

「……一度だけだぞ」

「ああ」

「危険だと思ったら、すぐに止める」

「約束する」

二人は封印庫の扉へ向き直った。

最初の男が腕を伸ばす。

すると――。

ドクン。

黒い紋章が脈打った。

封印庫の術式が、一つずつ暗くなっていく。

「……おい」

二人目が目を見開く。

「まだ何もしてないぞ」

「俺だって……」

ガコン。

重い扉が開いた。

二人は顔を見合わせる。

「……まるで、向こうから開けたみたいだ」

その言葉に、最初の男は答えなかった。

封印庫の中央。

黒い石は、幾重もの鎖に囲まれていた。

「封印は壊すなよ」

「ああ」

最初の男は石の前に膝をつく。

「聞こえるか?」

返事はない。

「お前は何者だ?」

静寂。

二人目が首を振る。

「やっぱり何も――」

『……待っていた』

声が響いた。

二人の身体が固まる。

黒い石の表面に、ゆっくりと目が開く。

『……ようやく来た』

最初の男が問いかける。

「お前は死者なのか?」

『……違う』

「なら、何だ?」

『……境界の向こうにいるもの』

二人目が一歩後退した。

「……答えた」

『……知りたいのだろう』

黒い目が最初の男を見つめる。

『……死者がどこへ行くのか』

「……ああ」

『……ならば見せよう』

黒い石から細い光が伸びた。

床に、円形の術式が浮かび上がる。

二人目が叫ぶ。

「待て! 俺たちは術式を組んでない!」

「……俺もだ」

術式は勝手に広がっていく。

『……力を貸せ』

最初の男の腕が持ち上がる。

「ぐっ……!」

「離れろ!」

二人目が男を引っ張る。

だが黒い紋章から鎖のような影が伸び、床へ突き刺さった。

ドクン!

空気が震える。

壁の一部に、小さな亀裂が生まれた。

「……境界が」

亀裂の向こうには暗闇。

そして無数の声。

『帰りたい……』

『助けて……』

『寒い……』

最初の男が目を見開いた。

「聞こえる……!」

「聞くな!」

「本当に死者がいるんだ!」

男が亀裂へ近づこうとする。

その瞬間。

『……こちらへ』

別の声が響いた。

死者たちの声とは明らかに違う。

低く、冷たい声。

二人目が叫ぶ。

「そいつは死者じゃない!」

だが黒い目が大きく開いた。

『……見つけた』

亀裂の奥から、黒い指が一本伸びる。

「……っ!」

二人目が死者の鎖を放った。

「《魂縛鎖》!」

鎖が黒い指に絡みつく。

しかし――。

ジュッ!

鎖が黒く染まった。

「何だ!?」

力が吸い取られていく。

最初の男も異変に気づいた。

「……違う」

「何が!」

「この声……!」

男の顔が青ざめる。

「助けを求めてたんじゃない!」

黒い目が細くなる。

『……気づいたか』

「俺たちを……呼んでたのか」

『……そうだ』

亀裂がさらに広がる。

バキッ!

「閉じろ!」

二人目が叫ぶ。

「もう無理だ!」

「無理でもやれ!」

最初の男は震える腕を押さえた。

「……分かった!」

二人が同時に鎖を放つ。

亀裂の両端へ絡ませ、力を込めた。

「閉じろぉぉ!」

ゴゴゴ……!

亀裂が少しずつ縮んでいく。

しかし黒い指が抵抗する。

『……まだだ』

「黙れ!」

二人目が叫ぶ。

「俺たちはお前を呼んでない!」

『……呼んだ』

黒い目が二人を見つめる。

『……お前たちが、こちらを見た』

『……だから、こちらも見つけた』

最初の男が歯を食いしばる。

「ふざけるな……!」

二人の鎖が強く輝いた。

バキン!

黒い指が弾かれる。

亀裂が閉じた。

封印庫に静寂が戻る。

二人は床へ倒れ込んだ。

「はぁ……はぁ……」

「……閉じたのか?」

「多分……」

二人目は自分の腕を見た。

消えていたはずの黒い線が、はっきりと浮かんでいる。

「……くそ」

最初の男は黒い石を見つめた。

目は閉じている。

だが、石の表面には――。

北を指すような細い亀裂が刻まれていた。

現在。

魂導院の地下。

記憶を見ていたレオが口を開いた。

「……あの時点では、まだ本当の門は開いてなかったんだな」

死者の男が頷く。

『ああ。あれは小さな裂け目にすぎない』

ミナが眉をひそめる。

「でも、黒い目は二人を見つけた……」

「それだけじゃない」

ガイアが腕を組む。

「石の力で、こちら側の境界に触れる方法を覚えた可能性がある」

カイが顔をしかめる。

「だったら、あいつらが閉じても意味なかったんじゃないか?」

レオは首を振る。

「意味はあったはずだ」

「少なくとも、あの黒い腕をこちらへ出させなかった」

守護者が静かに頷いた。

その時、死者の男が口を開く。

『だが、実験の影響は残った』

「影響?」

『境界監視者が異常を感知したのだ』

再び記憶が広がる。

魂導院から離れた山中。

古い石柱の前に、数人の境界監視者が立っていた。

石柱には三つの円と一本の縦線。

境界監視者の紋章。

その中央に――。

黒い亀裂が走っていた。

「……まさか」

一人が呟く。

「向こう側から、こちらを探している」

別の監視者が振り返る。

「魂導院へ知らせろ!」

「黒い石の研究を、今すぐ完全に止めさせるんだ!」

そして石柱の奥。

誰もいない暗闇で。

黒い目が、ゆっくりと開いた。

――第126話・完――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。