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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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125/181

第125話「教会への密告」

三百年前。

聖王教会・北方支部。

石造りの廊下を、一人のネクロマンサーが歩いていた。

魂導院に所属する十三人のうちの一人。

後に三人目の裏切り者と呼ばれる男だった。

「こちらへ」

教会の兵士に案内され、男は奥の部屋へ入る。

そこには三人の教会関係者が待っていた。

研究監督官。

聖騎士隊の指揮官。

そして、境界研究を担当する老司祭。

「報告書は読ませてもらった」

研究監督官が口を開く。

「黒い石に触れた者がいるそうだな」

「……はい」

「その者は今どこに?」

「魂導院にいます」

「拘束しているのか?」

男は首を振った。

「いいえ。実験は中止されました」

聖騎士隊の指揮官が眉をひそめる。

「危険な石に触れた者を自由にしているのか?」

「彼は犯罪者ではありません!」

思わず声が大きくなる。

「……失礼しました」

研究監督官が手を上げた。

「構わない。続けてくれ」

男は深く息を吸った。

「黒い石に触れてから、彼の腕に奇妙な紋章が現れました」

「さらに、石から声が聞こえるそうです」

老司祭が顔を上げる。

「声?」

「はい」

「死者の声か?」

「アシュレイは違うと言っています」

老司祭の表情が険しくなった。

「……死者ではない声」

男が頷く。

「それが何なのか分からないんです」

「だから、教会の力を借りたい」

研究監督官が問いかける。

「魂導院の責任者は、この報告を知っているのか?」

「……いいえ」

「なぜ知らせない?」

男は俯いた。

「仲間を疑っていると思われたくなかった」

沈黙が落ちる。

やがて老司祭が口を開いた。

「君は仲間を告発しに来たのではないのだな」

「違います!」

男は顔を上げた。

「誰も捕まえてほしくありません!」

「ただ、黒い石の影響を止めたいんです!」

老司祭は静かに頷いた。

「分かった。調査を提案しよう」

その言葉に男の表情が和らぐ。

「ありがとうございます」

しかし――。

聖騎士隊の指揮官が口を挟んだ。

「調査だけで済むとは限らん」

「……え?」

「境界に関わる異常が発生しているなら、周辺住民の安全を優先する必要がある」

「それは分かっています」

「場合によっては魂導院の封鎖も必要だ」

男の顔が強張った。

「封鎖……?」

研究監督官が答える。

「まだ決定ではない」

「まずは情報を確認する」

老司祭も続けた。

「我々は長年、魂導院と協力してきた」

「その関係を簡単に壊すつもりはない」

男は小さく頷いた。

「……お願いします」

数日後。

魂導院。

ヴァルドは研究室で古い資料を調べていた。

そこへアシュレイが入ってくる。

「黒い石の封印は?」

「異常なしだ」

「本当に?」

「少なくとも外側にはな」

ヴァルドが資料を閉じる。

「だが、気になることがある」

「何だ?」

「石に触れたあいつだ」

アシュレイの表情が変わる。

「また声を聞いたのか?」

「昨夜、部屋の外で一人で喋っていたらしい」

「……」

「本人は何も聞こえていないと言っている」

アシュレイが拳を握る。

「やはり腕の紋章を調べるべきだ」

「俺もそう思う」

ヴァルドは立ち上がった。

「今日、もう一度話してみる」

その頃。

魂導院の中庭。

最初の男と二人目が向かい合っていた。

「お前、最近眠れてないだろ」

「……別に」

「嘘をつくな」

二人目は男の腕を指差した。

「その痕、広がってるんじゃないのか?」

「関係ない」

「あるだろ!」

男が振り返る。

「お前までアシュレイみたいなことを言うのか?」

「心配してるだけだ!」

「だったら俺を信じろ!」

「信じてる!」

二人目が叫んだ。

「だからこそ、これ以上あの石に関わってほしくないんだ!」

最初の男は黙り込む。

やがて、小さく呟いた。

「……俺には聞こえるんだ」

「何が?」

「助けを求める声が」

二人目の表情が変わる。

「まだ聞こえてるのか?」

「ああ」

「だったらヴァルドたちに――」

「言うな!」

男は二人目の腕を掴んだ。

「頼む」

「……」

「もう少しだけ、俺を信じてくれ」

二人目は答えられなかった。

その腕にも、薄い黒線が残っている。

彼自身もまた、完全には石の影響から逃れられていなかった。

聖王教会・北方支部。

研究監督官の机に、新たな報告書が置かれた。

『黒い石により、境界への接触が発生した可能性あり』

『接触者二名に原因不明の紋章』

『死者以外の存在との交信が疑われる』

聖騎士隊の指揮官が報告書を読み終える。

「……危険すぎる」

老司祭が答えた。

「だからこそ慎重に調べる必要がある」

「調査員だけを送って、もし被害が広がったらどうする?」

「武装部隊を送れば魂導院を刺激する」

研究監督官が二人を見た。

「まず境界監視者にも知らせよう」

「彼らなら、この現象を知っているかもしれない」

老司祭が頷く。

「それがいい」

だが聖騎士隊の指揮官は納得していなかった。

「私は警備隊の待機を進言する」

「待機だけだな?」

「……現時点では」

研究監督官は報告書を閉じた。

「魂導院には、まだ知らせるな」

「事実関係が確認できるまで、混乱を避ける」

こうして――。

魂導院の知らないところで、聖王教会による調査が始まった。

現在。

魂導院の地下。

記憶を見終えたレオは、静かに口を開いた。

「……密告っていうより、助けを求めたんだな」

ミナが頷く。

「仲間を守ろうとしていたんですね」

カイは腕を組んだ。

「でも、本人に黙って教会へ行ったのはまずかったんじゃないか?」

「そうだな」

ガイアが答える。

「善意であっても、相手にどう伝わるかは別だ」

レオは死者の男を見る。

「この時、教会が来ることは誰も知らなかったのか?」

『ああ』

「じゃあ、どうして……」

『我々が気づいた時には、もう遅かった』

死者の男は目を伏せる。

『だが教会の調査より先に、別の事件が起きた』

レオの表情が変わる。

「別の事件?」

『黒い石に触れた二人が――』

『再び、禁じられた実験を行ったのだ』

次の記憶が広がる。

夜の魂導院。

封印庫の前に立つ二人。

最初の男が扉へ手を伸ばす。

「……今夜で終わらせる」

二人目が不安そうに尋ねた。

「本当に、声の正体を確かめるだけなんだな?」

「ああ」

だが、最初の男の腕では――。

黒い紋章が、まるで生き物のように動いていた。

――第125話・完――

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