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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第124話「深まる亀裂」

三百年前。

魂導院の大広間。

十三人のネクロマンサーが円卓を囲んでいた。

中央には、厳重に封印された黒い石。

最初に石へ触れた男が立ち上がる。

「俺は研究を続けるべきだと思う」

その言葉に、広間がざわついた。

「正気か?」

「危険なのは分かっている」

「だったらなぜ続ける!」

男は拳を握った。

「俺たちは死者の声を聞ける。魂を導くこともできる」

「だが、死界そのものについては何も知らない」

一人の女性ネクロマンサーが口を開く。

「知らなくても、死者を救うことはできるわ」

「本当にそうか?」

男は彼女を見た。

「死界の向こうで苦しんでいる魂がいたら?」

「……」

「俺たちが知らないだけで、助けを求めている者がいるかもしれない!」

アシュレイが立ち上がった。

「だからといって、あの声に従う理由にはならない」

「お前は何でも危険だと言って止める!」

「違う!」

アシュレイの声が響く。

「研究するなとは言っていない!」

「だが、あの石は俺たちを利用している!」

二人の視線がぶつかる。

ヴァルドが間に入った。

「落ち着け」

「ヴァルド、お前はどう思う?」

「研究は一時中止だ」

最初の男が顔をしかめる。

「……お前まで」

「まず腕の痕を調べる」

ヴァルドは男を見つめた。

「お前自身が危険に晒されてるんだぞ」

「俺は平気だ」

「平気な奴の腕に、正体不明の紋章が広がるか!」

男は言葉を失った。

その時、二人目のネクロマンサーが立ち上がる。

「俺も研究を続けたい」

アシュレイが振り返る。

「お前まで何を言ってる」

「ただし、あの声には従わない」

「……?」

「黒い石を直接使う実験は中止する。その上で、過去の記録や境界監視者の資料から調べるんだ」

ヴァルドが腕を組む。

「それなら話は別だ」

しかし最初の男は納得しなかった。

「それじゃ何年かかるか分からない!」

「何年かかってもいいだろ!」

二人目が言い返す。

「俺たちは死者を救うために研究してるんだ!」

「仲間を危険に晒してまで急ぐ必要があるのか!」

広間が静まり返る。

最初の男は目を伏せた。

「……お前まで俺を否定するのか」

「否定してない」

二人目は首を振る。

「だから一緒に研究してきたんだろ」

「……」

「でも、昨日のあれは違う」

自分の腕を押さえる。

「俺も怖かった」

その言葉に、最初の男は何も返せなかった。

やがて、十三人による採決が始まった。

結果は――。

黒い石を使った実験の無期限停止。

ただし、石そのものを破壊するかどうかは保留となった。

ヴァルドが告げる。

「今後、封印庫への立ち入りは複数人の許可を必要とする」

アシュレイも続ける。

「境界監視者と協力して、石の影響を調べる」

最初の男は黙って席を立った。

「……分かったよ」

その背中を、二人目が見つめていた。

「待て」

男は振り返らない。

「まだ俺たちは仲間だろ?」

しばらく沈黙が続く。

「……ああ」

それだけ答えて、男は広間を出ていった。

現在。

魂導院の地下。

記憶を見ていたミナが小さく息を吐いた。

「誰も最初から仲間を裏切ろうとしてたわけじゃないんですね」

「そうだな」

カイが腕を組む。

「でも、あいつだけは納得してなかった」

ガイアが頷く。

「問題はそこだ。仲間の言葉より、石から聞こえる声を信じ始めている」

レオは黙っていた。

その隣で、守護者が静かに記憶を見つめている。

「……お前も、この話し合いを知ってたのか?」

守護者はゆっくりと頷いた。

死者の男が口を開く。

『我々は、話し合えば分かり合えると思っていた』

『実際、まだ間に合うはずだった』

「でも……そうならなかった」

『ああ』

死者の表情が曇る。

『その夜から、魂導院の中で奇妙なことが起こり始めた』

再び記憶が動く。

夜の魂導院。

最初の男は自室にいた。

机には、死界に関する古い資料が広げられている。

「……何年も待てるか」

男は呟いた。

「死者は今も苦しんでいるかもしれないんだぞ」

その時。

『……お前は正しい』

声が響いた。

男が顔を上げる。

「またお前か……」

『……仲間は恐れている』

「黙れ」

『……お前だけが真実を求めている』

「黙れと言ってる!」

男は机を叩いた。

しかし声は止まらない。

『……北へ』

『……門は待っている』

男は震える腕を見つめた。

黒い紋章が、以前より広がっていた。

「……俺は間違ってない」

その言葉が、自分自身に向けたものなのか。

それとも声に答えたものなのか。

男にも分からなくなっていた。

一方、魂導院の別室。

三人目のネクロマンサーが、一通の手紙を書いていた。

宛先は――。

聖王教会・研究監督部。

『魂導院にて、危険な境界接触実験が行われた』

『現在は中止されているが、黒い石の影響が残っている』

男は筆を止める。

「……これでいいのか」

仲間の顔が浮かぶ。

ヴァルド。

アシュレイ。

そして黒い石に触れた二人。

「誰かが止めないと……」

男は再び筆を取った。

『ただし、魂導院の全員が実験に関与したわけではない』

『調査と治療への協力を求める』

手紙を書き終える。

男は深く息を吐いた。

「頼む……」

「誰も傷つけないでくれ」

しかし――。

その手紙が、魂導院の運命を大きく変えることになる。

――第124話・完――

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