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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第123話「死者の声ではない」

翌朝。


魂導院の研究室。


アシュレイは一人、黒い石を見つめていた。


触れてはいない。


一定の距離を保ちながら、周囲に漂う魂の流れだけを確認している。


「……やっぱり違う」


背後からヴァルドが入ってくる。


「何がだ?」


「この石から聞こえる声だ」


アシュレイは目を閉じた。


「死者じゃない」


ヴァルドの表情が変わる。


「断言できるのか?」


「ああ」


アシュレイが手をかざす。


周囲には、いくつもの淡い魂が漂っている。


『帰りたい』


『家族に……』


『ありがとう……』


アシュレイが目を開けた。


「死者には想いがある」


「未練、悲しみ、怒り……それぞれ違う」


そして黒い石を見る。


「だが、こいつから聞こえる声にはそれがない」


「なら何だ?」


「分からない」


短い沈黙。


「ただ――」


アシュレイの声が低くなる。


「死者のふりをしている」


その時。


研究室の扉が開いた。


最初に黒い石へ触れた男と、研究に賛同した二人目が入ってくる。


アシュレイはすぐに気づいた。


「その腕を見せろ」


「……何のことだ?」


「隠すな」


ヴァルドも二人を見る。


最初の男が渋々袖を上げる。


黒い痕。


「お前……!」


ヴァルドが近づく。


「石に触れたのか!」


「調べただけだ」


「触るなと言っただろ!」


「何も知らないまま恐れるだけでいいのか?」


アシュレイが男の腕を確認する。


黒い痕が僅かに脈打っている。


「……これは契約じゃない」


「何?」


「死者との繋がりとも違う」


アシュレイが顔を上げる。


「印を付けられたんだ」


男の顔から余裕が消えた。


「印……?」


「向こうからお前を見つけるための印かもしれない」


二人目が口を開く。


「昨日……声を聞いた」


「何て?」


「北へ行けと」


ヴァルドが眉をひそめる。


「北?」


「そこに門があると言った」


アシュレイの表情が変わった。


「……研究は中止だ」


最初の男が反発する。


「待て!」


「待たない」


「門が本当にあるなら――」


「だから危険なんだ!」


研究室に声が響く。


「俺たちが門を探しているんじゃない!」


アシュレイが黒い石を指差す。


「こいつが俺たちを門へ連れて行こうとしてる!」


沈黙が落ちる。


ヴァルドが黒い石を見る。


「封印する」


「ヴァルドまで……」


「未知を調べることと、正体不明の声に従うことは違う」


最初の男が拳を握った。


「……死界を知る機会を捨てるのか」


「違う」


ヴァルドは真っ直ぐ男を見る。


「死者を知るために、生者を危険に晒すなと言ってる」


男は何も答えなかった。


その夜。


黒い石は封印庫へ移された。


何重もの術式。


境界監視者による封印。


魂導院による監視。


だが――。


暗闇の中。


黒い石に目が開く。


『……恐れるな』


その声が届いた先。


最初の男は、自室で目を開いた。


『……お前だけは』


『真実を知ることができる』


男は震えながら耳を塞ぐ。


「黙れ……」


『北へ』


「黙れ!」


『門へ』


男の腕の黒い痕が脈打った。


そして別の部屋。


二人目も眠れずにいた。


彼の腕にも――。


消えたはずの細い黒線が、再び浮かび始めていた。


現在。


レオはその光景を険しい顔で見つめる。


「二人とも繋がれた……」


ガイアが頷く。


「研究を止めても、もう遅かったわけか」


カイが剣の柄を握る。


「だから二人目も後で引きずり込まれた……」


ミナは首を横に振った。


「でも、この時点ならまだ戻れたかもしれない」


死者の男が静かに答えた。


『そうだ』


『だから我々は話し合った』


『十三人全員で』


『黒い石をどうするべきなのかを』


記憶の景色が変わる。


大広間。


十三人のネクロマンサーが集まっている。


中央には封印された黒い石。


そして――。


最初の男が席を立った。


『俺は研究を続けるべきだと思う』


空気が張り詰めた。


――第123話・完――

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