第119話「二人目の裏切り」
死界の門を前に、ヴァルドたちが力を集めていた。
死者の魂。
守護者の白い光。
ネクロマンサーたちの鎖。
三つの力が重なる。
「押せ!」
ヴァルドが叫ぶ。
巨大な門が少しずつ閉じていく。
「いける!」
アシュレイが声を上げる。
だが、その背後。
一人のネクロマンサーが黒い石を握っていた。
黒い石の研究に賛同していた男。
「……閉じるな」
その声にヴァルドが振り返る。
「何?」
男の腕には黒い紋章が浮かんでいた。
「まだ向こう側を何も知らない」
「今それを言ってる場合か!」
「今だからだ!」
男は黒い石を掲げる。
「この門を閉じたら、二度と死界を調べられないかもしれない!」
アシュレイが睨む。
「仲間が死んだんだぞ!」
「だからこそだ!」
「何のために死んだのか、知らなければ意味がない!」
ヴァルドが鎖を構える。
「石を置け」
「断る」
黒い石が光った。
ドクン!
門が再び動き始める。
「やめろ!」
ヴァルドが鎖を放つ。
男も黒い力を放った。
二つの鎖が激突する。
ガキィン!
「俺は死者を救いたい!」
男が叫ぶ。
「死界を理解できれば、死そのものを変えられるかもしれない!」
「それは救うことじゃない!」
ヴァルドが押し返す。
「死者の意思を無視して、自分の答えを押しつけてるだけだ!」
男の表情が歪む。
その瞬間――。
黒い石から声が響いた。
『……もっと……』
男の身体が止まる。
『……知りたいのだろう』
「……ああ」
『……ならば開け』
黒い紋章が腕から胸へ広がる。
アシュレイが叫ぶ。
「そいつの声を聞くな!」
だが遅かった。
男が門へ黒い力を放つ。
ドォン!
閉じかけていた門が止まった。
さらに――。
僅かに開く。
「くそっ!」
ヴァルドたちの力が押し戻される。
男自身も苦しみ始めた。
「ぐっ……!」
「お前、利用されてるぞ!」
「違う……!」
黒い霧が男の身体を包む。
『……こちらへ』
男の顔に恐怖が浮かぶ。
「待て……」
『……お前は知りたかったのだろう』
「違う!」
黒い腕が門から伸びる。
男の身体を掴んだ。
「助け――」
ヴァルドが鎖を伸ばす。
「掴まれ!」
男が手を伸ばす。
二人の手が届きかける。
だが――。
黒い腕が男を門の中へ引きずり込んだ。
「――っ!」
門の向こうへ消える。
黒い石だけが地面へ落ちた。
静寂。
アシュレイが拳を握る。
「……二人目」
最初の一人は、自らの魂を使って門を閉じようとした。
二人目は――。
死界の向こうへ連れ去られた。
レオはその光景を見つめる。
「死んだわけじゃない……?」
ガイアが答える。
「少なくとも、この記憶だけでは分からない」
その言葉にレオは門を見つめた。
三百年前に連れ去られたネクロマンサー。
もし魂すら戻っていないのなら――。
その行方は、まだ分からない。
記憶の中でヴァルドが黒い石を拾う。
「もう誰にも触らせない」
アシュレイが頷く。
「封印する」
だが、その時。
聖王教会の方から怒号が響いた。
「ネクロマンサーを拘束しろ!」
ヴァルドが振り返る。
教会の兵士たちが再び迫っていた。
その先頭には――。
三人目。
教会へ情報を流していたネクロマンサーが立っていた。
その顔には後悔が浮かんでいる。
「ヴァルド……」
「逃げろ」
ヴァルドの目が細くなる。
「何?」
「教会は……」
男が震える。
「お前たち全員を捕らえるつもりだ」
――第119話・完――




