第118話「生者の魂」
白い器の中で、淡い光が揺れていた。
ヴァルドが教会の男を睨む。
「今すぐ止めろ」
「門を閉じるためだ」
「だからって生者の魂を使うのか!」
アシュレイも前へ出る。
「死者を救うために、生者を犠牲にする。それのどこが救いだ」
教会の男は表情を変えない。
「このまま門が開けば、さらに多くの命が失われる」
「だから少数を犠牲にする?」
「必要な選択だ」
その言葉に――。
守護者が動いた。
白い器の前へ立つ。
「……」
「退け」
教会の者が命じる。
だが、守護者は動かない。
白い光が器を包んだ。
ガイアが記憶を見ながら呟く。
「これが……」
レオも頷く。
「黒い守護者が拒んだ理由に繋がるのかもしれない」
記憶の中では、門が再び動き始める。
ゴゴゴゴゴ……。
『……開け』
黒い霧が広がる。
「時間がない!」
教会側が白い器へ手を伸ばす。
その瞬間。
バァン!
守護者の光が弾き返した。
「何をする!」
ヴァルドが守護者の隣へ立つ。
「こいつが正しい」
アシュレイも続く。
「別の方法を探す」
「そんな時間はない!」
「それでもだ!」
残されたネクロマンサーたちも次々と並んだ。
だが全員ではない。
数人が迷っている。
「……もし失敗したら?」
一人が呟く。
「この村だけじゃ済まない」
「分かってる」
ヴァルドが答える。
「それでも、生きている人間を材料にはしない」
その時――。
門の奥から巨大な黒い腕が飛び出した。
「来るぞ!」
十二人のネクロマンサーが鎖を放つ。
黒い腕を拘束する。
守護者も白い光で押し返した。
だが、門は閉じない。
むしろ少しずつ開いていく。
「くそっ……!」
アシュレイが歯を食いしばる。
すると教会側から声が上がった。
「封印を実行する!」
「待て!」
白い器が輝く。
中にあった魂の光が門へ向かって飛び始めた。
守護者が振り返る。
白い光を放つ。
しかし――。
間に合わない。
一つの魂が門へ吸い込まれた。
その瞬間。
ドォン!
門が大きく閉じた。
レオの拳が震える。
「……本当に使ったのか」
ミナは何も言えなかった。
カイも険しい顔で見つめている。
教会の男が叫ぶ。
「効果がある! 続けろ!」
「やめろ!」
ヴァルドが教会側へ走る。
アシュレイも続いた。
だが――。
過去の守護者が二人より先に動いた。
白い光が爆発する。
白い器が吹き飛ばされた。
ガシャン!
器が砕ける。
残っていた魂たちが解放された。
教会の者たちが息を呑む。
守護者は彼らの前に立つ。
明確な拒絶。
「……そうか」
レオは守護者を見る。
「お前は、この時から拒んでたんだな」
記憶の中。
ヴァルドが解放された魂たちを見る。
「もう犠牲は出さない」
しかし門はまだ開いている。
アシュレイが問いかける。
「どうする?」
ヴァルドは死者たちを見る。
そして残された仲間たちを見る。
「俺たちの力で閉じる」
「できるのか?」
「やるしかない」
その時。
門を開いた男が残した魂の鎖が輝いた。
まるで――。
仲間たちへ力を貸すように。
ヴァルドがそれを握る。
「……最後まで手伝うつもりか」
アシュレイも鎖へ手を添えた。
「なら、借りるぞ」
残されたネクロマンサーたちが集まる。
死者の魂。
守護者の力。
ネクロマンサーたちの力。
三つが重なり始める。
レオの目が見開かれた。
「これ……」
現在の自分たちが使っている方法に近い。
ガイアも気づく。
「三百年前にも、犠牲を使わず閉じようとしていた者たちがいた」
だが――。
記憶の奥で、別の黒い影が動いていた。
黒い石を手にした一人のネクロマンサー。
研究に賛同していた二人目だった。
「……閉じさせない」
その腕にも、黒い紋章が浮かび始めていた。
――第118話・完――




