第117話「最初の犠牲」
再び、三百年前の記憶が広がる。
死界の門から黒い霧が溢れ、魂導院を覆っていた。
「門を閉じるぞ!」
ヴァルドの声が響く。
十三人のネクロマンサーが門の前へ集まる。
だが、背後には聖王教会。
「全員、武器を捨てろ!」
「今それどころじゃない!」
アシュレイが叫ぶ。
「門を見ろ!」
黒い霧から腕が伸びる。
教会の兵士一人を掴んだ。
「うわぁぁっ!」
「離せ!」
ネクロマンサーの一人が鎖を放つ。
兵士を掴んでいた腕を拘束し、引き離した。
助けられた兵士が呆然とする。
「なぜ……俺を」
「敵だろうが何だろうが、生きてる奴を見捨てるか!」
その言葉に、教会側の動きが止まる。
しかし――。
『……もっと……』
門の奥から声が響いた。
黒い霧が一気に膨れ上がる。
「来るぞ!」
無数の黒い腕が飛び出した。
ヴァルドとアシュレイが死者の力で押さえる。
他のネクロマンサーたちも続いた。
「門を閉じる方法は!?」
「境界監視者が準備している!」
その時。
白い光が走った。
過去の守護者が現れる。
さらに境界監視者たちが門を囲んだ。
「境界を固定する!」
白い光が門を包む。
門の開きが僅かに止まった。
ヴァルドが叫ぶ。
「今だ!」
十三人が一斉に力を流し込む。
死者たちの魂が集まり始める。
少しずつ。
門が閉じていく。
「いける……!」
だが――。
黒い石に触れ、門を開いた男の腕が突然黒く染まった。
「ぐっ……!」
「どうした!」
「離れろ!」
男の身体から黒い霧が噴き出す。
『……お前は……こちら側だ』
「違う!」
男は腕を押さえる。
「俺は……!」
黒い腕が胸を貫いた。
「――っ!」
ヴァルドの顔が変わる。
「おい!」
男が崩れ落ちる。
アシュレイが駆け寄った。
「しっかりしろ!」
「……悪かった」
「喋るな!」
男は門を見る。
「俺が……開けた」
「だから……」
血を吐きながら手を伸ばす。
「最後くらい……俺に閉じさせろ」
「待て!」
男の魂が身体から離れ始める。
レオが記憶の中で息を呑んだ。
「まさか……」
男は自分自身の魂を鎖へ変えた。
その鎖が門へ絡みつく。
「閉じろぉぉぉ!」
轟音。
門が大きく動く。
ヴァルドたちも力を重ねた。
そして――。
バァン!
門の半分が閉じた。
男の身体が倒れる。
動かない。
ヴァルドは拳を握った。
「……馬鹿野郎」
アシュレイも俯く。
十三人。
最初の一人が失われた。
しかし悲しむ時間はなかった。
門は――まだ半分開いている。
『……一人』
黒い目が門の奥に現れる。
『……こちらへ来た』
ヴァルドが顔を上げる。
「違う」
死者の鎖を構える。
「誰も渡さない」
残された十二人が並ぶ。
アシュレイも立ち上がった。
「終わらせるぞ」
だが、その背後。
聖王教会の者たちが何かを運び込んでいた。
巨大な白い器。
中には――。
生きている人間の魂から作られた光が揺れていた。
レオの表情が変わる。
「……これが」
以前聞いた話。
三百年前の封印。
死者だけではなく――。
生者の魂まで使われた。
ヴァルドが教会側を振り返る。
「お前たち……何をするつもりだ?」
教会の男が答えた。
「門を閉じる」
アシュレイが目を見開く。
「それは生者の魂だぞ!」
「他に方法がない」
空気が凍りつく。
そして過去の守護者も、白い器を見つめて動きを止めた。
――第117話・完――




