第116話「門を開いた者」
魂たちから受け取った記憶。
レオの視界に、三百年前の光景が広がる。
巨大な死界の門。
その前に十三人のネクロマンサーが集まっていた。
「……ここが、始まりか」
ヴァルドが叫ぶ。
「石から離れろ!」
しかし、黒い石に最初に触れた男は動かなかった。
腕には黒い紋章が広がっている。
「聞こえるんだ」
「何がだ!」
「死者たちの声だ!」
男は門を見上げた。
「死者は向こう側に閉じ込められている!」
アシュレイが首を振る。
「違う!」
「死者は閉じ込められているんじゃない!」
「なら、なぜ境界がある!」
男が黒い石を掲げた。
「生者と死者を分ける必要なんてない!」
ヴァルドが駆け出す。
「やめろ!」
その瞬間――。
『……開け』
黒い石から声が響く。
男の表情が止まった。
『……お前なら……できる』
「……俺なら」
アシュレイが叫ぶ。
「聞くな!」
しかし遅かった。
男が黒い石を門へ押し当てる。
ドクン!
門が脈打った。
バキッ!
中央に亀裂が走る。
「……開いた」
男が笑う。
だが次の瞬間。
亀裂から大量の黒い霧が噴き出した。
「何だ……これ」
『……ありがとう』
男の笑みが消える。
黒い目が門の奥で開いた。
『……これで……繋がる』
「違う……」
男が後退する。
「俺はこんなものを……!」
ヴァルドが男を掴んで引き離した。
「全員、門から離れろ!」
黒い腕が飛び出す。
アシュレイが死者の力を集める。
「閉じるぞ!」
十三人が一斉に動いた。
だが――。
三人目の裏切り者が、その光景を見つめていた。
教会へ情報を渡していた男。
「……止めなければ」
彼は走り出した。
向かった先は門ではない。
聖王教会だった。
記憶が飛ぶ。
教会の兵士たちが魂導院へ押し寄せてくる。
「ネクロマンサーを拘束しろ!」
ヴァルドが振り返った。
「何だと!?」
「死界の門を開いた罪だ!」
「今はそんなことをしている場合じゃない!」
「門を閉じなければ全員死ぬぞ!」
だが混乱は止まらない。
ネクロマンサー。
聖王教会。
境界監視者。
三つの勢力が入り乱れる。
その間にも、門は広がっていく。
ミナが記憶を見ながら呟いた。
「最悪のタイミング……」
カイも顔をしかめる。
「教会は全員が門を開いたと思ってるのか」
ガイアが答える。
「情報が正確に伝わらなかったんだろう」
レオは門を開いた男を見る。
男は膝をついていた。
「俺が……」
「俺が開けた……」
その前にアシュレイが立つ。
「後悔するのは後だ」
男が顔を上げる。
「アシュレイ……」
「自分で開けたなら、自分で閉じろ」
ヴァルドも隣へ立った。
「生き残ってから責任を取れ」
男は震えながら立ち上がる。
「……分かった」
三人が門へ向かう。
その時――。
黒い目がレオの方を見た。
「……え?」
これは過去の記憶。
自分の存在など見えるはずがない。
だが。
確かに黒い目は――レオを見ていた。
『……見つけた』
レオの身体が固まる。
『……未来の鍵』
「お前……!」
記憶の世界が崩れ始めた。
「レオ!」
カイの声。
視界が一気に戻る。
魂導院の地下。
レオは膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
ミナが駆け寄る。
「大丈夫?」
「ああ……」
レオは顔を上げる。
目の前では、黒い人影が崩れ始めていた。
死者たちから記憶を奪えなくなったことで、存在を保てなくなっている。
『……鍵……』
レオは立ち上がった。
「三百年前から俺を見てたのか?」
『……いずれ……分かる』
黒い目に亀裂が入る。
バキッ!
『……お前が……なぜ選ばれたのか……』
黒い人影が消滅した。
静寂が戻る。
カイが剣を下ろす。
「終わったか」
「ここはな」
レオは死者たちを見る。
まだ知るべきことがある。
三百年前。
開いてしまった死界の門。
混乱する聖王教会。
そして門を閉じようとした十三人のネクロマンサー。
レオは拳を握った。
「続きを見せてくれ」
死者の男が頷く。
『次に見るものは――』
表情が険しくなる。
『我々が最も多くの仲間を失った日だ』
――第116話・完――




