第115話「死者を守る戦い」
黒い人影が死者たちへ腕を伸ばす。
『……記録を……消す』
「させるか!」
レオが《死者の鎖》を放った。
鎖が黒い腕へ巻きつく。
だが――。
ジュッ……。
「また吸収してる!」
ミナが叫ぶ。
黒い人影は鎖から力を奪い、身体を大きくしていく。
ガイアが警告する。
「レオ、普通に力をぶつけるな!」
「分かってる!」
レオは鎖を切り離した。
その横をカイが駆け抜ける。
「だったら俺が!」
「《裂空斬》!」
斬撃が黒い人影の肩を切り裂いた。
しかし、傷口から黒い霧が溢れ、すぐに塞がっていく。
「面倒な奴だな……!」
黒い人影の胸にある目が開いた。
『……死者は……記録を持つ』
『……記録は……残してはならない』
「どうしてそこまで三百年前のことを隠したいんだ?」
レオが問いかける。
返事はない。
黒い腕が一気に伸びる。
狙いは――。
十三人の過去を見せてくれた死者。
「危ない!」
ミナが炎を放つ。
「《フレイム・ランス》!」
炎の槍が腕の軌道を逸らす。
その間に守護者が死者たちの前へ立った。
白い光が壁となる。
ドンッ!
黒い腕が激突した。
守護者の身体が僅かに下がる。
「守護者!」
レオが駆け寄る。
守護者は首を横に振った。
まだ戦える。
ガイアが黒い人影を見つめる。
「妙だ」
「何が?」
「あいつは俺たちを倒そうとしていない」
レオも気づく。
黒い人影は何度攻撃されても、死者だけを狙っている。
「……目的は本当に記録だけか」
『……消す』
再び黒い人影が動いた。
今度は身体そのものが霧へ変わる。
「散った!?」
黒い霧が守護者の防壁を回り込む。
「まずい!」
レオは死者たちへ叫ぶ。
「俺に力を貸してくれ!」
死者たちが頷く。
『もちろんだ』
『我々の過去を……消させるな』
魂の光がレオへ集まる。
「《死者の鎖・魂連結》!」
今度の鎖は黒い霧に吸収されない。
一本。
二本。
さらに増える。
無数の鎖が霧を囲んだ。
「閉じろ!」
鎖が一気に収縮する。
黒い霧が再び人の姿へ戻された。
『……なぜ……』
「借りてるだけだからだ」
レオが鎖を握る。
「死者自身が、お前に消されたくないって言ってる!」
守護者が白い光を放つ。
黒い人影の動きが止まった。
「カイ!」
「待ってました!」
カイが踏み込む。
「《裂空斬・弐》!」
斬撃が胸の黒い目へ直撃した。
バキッ!
『……!』
目に亀裂が入る。
「ミナ!」
「任せて!」
杖の先に炎が集まる。
「《フレイム・ランス》!」
炎が亀裂へ突き刺さった。
ドォン!
黒い人影が吹き飛ぶ。
胸の目がさらに砕けた。
だが――。
『……まだ……』
人影は消えない。
壁へ黒い霧を伸ばす。
残された記録を巻き込もうとする。
「まだ記録を消すつもりか!」
レオが鎖を伸ばした。
その瞬間。
死者の男がレオの前へ出る。
『レオ』
「何だ?」
『我々を守ることだけを考えるな』
レオが目を見開く。
『記録を受け取れ』
「受け取る?」
男が胸に手を当てる。
『消される前に』
『我々の記憶を、お前へ渡す』
周囲の死者たちも光り始める。
レオの周囲を無数の光が包んだ。
「待て!」
『安心しろ』
死者の男は笑う。
『消えるわけではない』
『ただ、我々が知っている過去をお前にも見せる』
レオはゆっくりと手を伸ばした。
「……分かった」
魂の光がレオの手へ触れる。
その瞬間――。
大量の光景が流れ込んできた。
十三人のネクロマンサー。
黒い石。
聖王教会。
境界監視者。
そして――。
巨大な死界の門。
その前に立つヴァルドとアシュレイ。
さらに、黒い紋章を持つ三人。
レオの目が見開かれる。
「……これは」
その中の一人が、巨大な門へ手を伸ばしていた。
そして声が聞こえる。
『開け』
『死者と生者を隔てるものなど――』
『必要ない』
レオは拳を握った。
「……三百年前の門が開く瞬間」
黒い人影が激しく暴れ始める。
『……見るな!』
レオは顔を上げた。
「遅い」
死者の鎖が強く輝く。
「もう受け取った」
黒い人影の胸の目に、さらに亀裂が走った。
――第115話・完――




