第114話「消される記録」
黒い霧が地下室へ広がる。
『……記録を……見るな……』
「そう言われると、余計に見たくなるな」
レオが《死者の鎖》を放った。
鎖が黒い霧を貫く。
しかし――。
霧は壁へ逃げるように広がり、十三本の印を覆い始めた。
「レオ! 印が!」
ミナが叫ぶ。
黒い霧に触れた印が、一つずつ消えていく。
「記録を消してるのか!」
カイが剣を抜く。
「《裂空斬》!」
斬撃が霧を切り裂く。
その間に守護者が壁へ手を当てた。
白い光が広がり、残った印を包む。
ガイアが声を上げる。
「守護者が記録を守っている! 今のうちだ!」
レオは死者の男を見る。
「続きを見せてくれ!」
『……分かった』
死者が手を伸ばす。
景色が変わった。
三百年前。
聖王教会の一室。
ネクロマンサーの一人が、教会の者たちと向かい合っていた。
「黒い石への接触実験が行われました」
「誰が?」
「仲間です」
教会の者たちの表情が険しくなる。
「ヴァルドは知っているのか?」
「今は知っています」
「だが、止められなかった」
教会の男が立ち上がる。
「ならば魂導院を調査する」
ネクロマンサーが目を見開く。
「待ってください」
「私は仲間を捕らえてほしくて伝えたわけではない」
「被害を防ぐためです」
「判断するのは教会だ」
男は言葉を失った。
場面が変わる。
魂導院。
武装した教会の者たちが押し寄せていた。
「黒い石を引き渡せ!」
アシュレイが前へ出る。
「渡す。それでいい」
だがヴァルドは教会側を見る。
「その代わり、ここにいる全員を犯罪者として扱うな」
「既に境界を開こうとした者がいる」
「全員ではない!」
十三人の関係だけではない。
ネクロマンサーと教会の関係まで崩れ始めていた。
そして――。
黒い石に触れた男が、遠くからその様子を見ていた。
腕には黒い紋章。
「……俺のせいだ」
その背後から声が聞こえる。
『……違う』
男が振り返る。
誰もいない。
『……お前は間違っていない』
『……もっと知ればいい』
男の表情が揺れる。
『……こちらへ』
記憶が突然乱れた。
バチン!
レオたちは地下室へ戻される。
「くっ……!」
壁を守っていた白い光が崩れ始めていた。
黒い霧がさらに増えている。
ミナが叫ぶ。
「もう半分くらい消えてる!」
「させるか!」
レオが守護者の横へ立つ。
「《死者の鎖・境界連結》!」
鎖と白い光が重なる。
黒い霧が押し返された。
すると――。
壁の奥から文字が浮かび上がった。
『記録を消した者を信じるな』
続いて、もう一文。
『教会でもない』
レオの目が細くなる。
「……教会じゃない?」
さらに文字が現れる。
『魂導院でもない』
カイが眉をひそめた。
「じゃあ誰だよ」
最後の文字が浮かび上がる。
『境界の向こうから来た力が、記録を喰らっている』
その瞬間。
黒い霧が一つの塊となった。
人の形へ変わっていく。
顔はない。
ただ胸の中央に、黒い目だけが開いている。
『……知らなくていい』
レオは鎖を構えた。
「だったら力ずくでも見る」
守護者が隣に並ぶ。
カイとミナも武器を構えた。
ガイアの声が響く。
「来るぞ!」
黒い人影が腕を伸ばした。
狙っているのはレオたちではない。
三百年前の記録を持つ――死者たちだった。
――第114話・完――




