第113話「三人の裏切り者」
地下の壁に刻まれた十三本の印。
そのうち三つだけが、黒く染まっていた。
レオは死者の男を見る。
「この三人が裏切ったのか?」
『……そうだ』
「何をした?」
死者が手を伸ばす。
再び過去の記憶が広がった。
三百年前の魂導院。
十三人のネクロマンサーが集まっている。
机の中央には黒い石。
アシュレイが口を開く。
「これ以上の研究は危険だ」
「まだ何も分かっていない」
反論したのは、黒い石に触れた若い男だった。
「だから調べるんだ」
ヴァルドが二人の間に入る。
「研究を続けるとしても、石への接触は禁止する」
「……分かった」
男はそう答えた。
だが、その夜。
男は二人のネクロマンサーと密かに会っていた。
「石の中を見た」
「何があった?」
「死界だ」
二人の表情が変わる。
「本当に?」
「ああ」
男は腕に浮かぶ黒い模様を見る。
「俺たちは、死者の声を聞くだけで終わる必要はない」
「境界の向こうを知れば、もっと多くのことが分かる」
一人が尋ねる。
「ヴァルドには?」
「言わない」
もう一人は黙っていた。
その男だけは、二人と別れた後――。
聖王教会の人間と接触した。
「黒い石の研究が続けられています」
教会の男が尋ねる。
「ヴァルドの指示か?」
「違います」
「一部の者が勝手に動いている」
レオたちは記憶を見つめる。
カイが眉をひそめた。
「同じ三人でも、全員目的が違うのか」
ガイアが答える。
「一人は黒い石を研究したい」
「一人はそれに賛同した」
「もう一人は教会へ情報を流した」
ミナが呟く。
「単純な裏切りじゃないんだ……」
記憶が進む。
数日後。
魂導院の地下。
黒い石に触れた男と、研究に賛同した仲間が立っていた。
「始めるぞ」
「本当に大丈夫なのか?」
「少しだけ境界へ触れる」
黒い石が光る。
その瞬間――。
バキッ!
空間に小さな亀裂が生まれた。
『……見つけた』
あの声。
二人の顔が強張る。
「閉じろ!」
「分かってる!」
だが、亀裂が広がっていく。
そこへヴァルドとアシュレイが駆け込んだ。
「何をした!」
ヴァルドが叫ぶ。
「閉じるぞ!」
アシュレイが死者の力を集める。
だが――。
亀裂の奥から黒い腕が伸びた。
ドンッ!
全員が吹き飛ばされる。
『……もっと……開けろ』
黒い石に触れた男が、自分の腕を見る。
黒い模様がさらに広がっていた。
「俺は……」
「こんなものを呼ぶつもりじゃ……」
記憶が途切れた。
地下へ戻る。
死者の男が俯いている。
『これが最初の亀裂だった』
レオは三つの黒い印を見る。
「教会に情報を渡していた奴は?」
死者は顔を上げる。
『その者の行動が――』
『さらに大きな悲劇を生む』
突然。
三つ目の印が強く光った。
守護者がレオの前へ出る。
黒い霧が壁から漏れ出す。
そして――。
『……記録を……見るな……』
低い声が地下に響いた。
レオは死者の鎖を出す。
「また邪魔する気か」
黒い霧の奥で、何かが動いた。
三百年前の真実を隠そうとするように。
――第113話・完――




