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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第112話「十三人のネクロマンサー」

地下へ続く石段。


レオを先頭に、カイ、ミナ、守護者が続く。


ガイアの気配もレオのすぐそばにあった。


階段の下には、数十もの魂が浮かんでいる。


その中から、鎖の印を胸に持つ男の魂が前へ出た。


『……レオ』


「聞かせてくれ」


レオは男を見つめる。


「三百年前、ここで何があった?」


男は静かに目を閉じた。


『ならば――見てもらおう』


「見る?」


『言葉だけでは伝えられない』


男が右手を上げる。


周囲にいた魂たちが、一斉に光を放った。


守護者がレオの前へ出ようとする。


「大丈夫だ」


レオが制した。


「悪意は感じない」


守護者は少し迷ったあと、一歩下がる。


光がレオたちを包んだ。


次の瞬間――。


景色が変わった。


「……ここは」


ミナが周囲を見回す。


そこには、朽ち果てる前の魂導院があった。


石造りの建物。


行き交う人々。


机には大量の書物。


そして――。


「おい」


カイが前方を指差す。


「ヴァルドじゃねぇか?」


若いヴァルドがいた。


今より遥かに若い姿。


その隣にはアシュレイ。


二人とも、数人の男女と話している。


だが誰もレオたちには気づかない。


ガイアが周囲を見る。


「過去の記憶だ」


レオは頷く。


「俺たちは見ているだけか」


前方から声が聞こえる。


「全員揃ったな」


ヴァルドが大きな机の前に立った。


周囲に集まった者たち。


レオは数える。


「十三人……」


三百年前。


魂導院に所属していた十三人のネクロマンサー。


ヴァルド。


アシュレイ。


そして、まだ名前すら知らない十一人。


「今日から北部での調査を始める」


ヴァルドが地図を広げる。


「最近、死者の声がおかしい」


一人の女性が腕を組んだ。


「おかしいって?」


「死んだ場所から離れた魂が増えている」


アシュレイが答える。


「それだけじゃない」


一冊の記録を机へ置く。


「本来なら眠りにつくはずの魂が、何かに引かれている」


部屋の空気が変わった。


別の男が尋ねる。


「何に?」


アシュレイは首を横に振った。


「まだ分からない」


「だから調べる」


ヴァルドが地図の一点を指差す。


そこには小さな印。


レオの表情が変わる。


「……北の廃村」


カイも気づく。


「俺たちが行った場所か」


記憶の中では、まだ村は存在していた。


ヴァルドが続ける。


「境界監視者から協力要請が来ている」


その言葉に、一部のネクロマンサーがざわつく。


「境界監視者?」


「俺たちと関わりたがらない連中だろ」


「今回は向こうから来た」


ヴァルドが答える。


「それほど異常なことが起きている」


その時。


扉が開いた。


白い法衣を着た者たちが入ってくる。


聖王教会。


その中の一人がヴァルドへ頭を下げた。


「教会も共同調査へ参加する」


カイが小声で呟く。


「この頃は普通に協力してたんだな」


「みたいだね」


ミナも驚いている。


今の教会とネクロマンサーの関係からは想像しにくい光景だった。


ヴァルドは教会の者と握手する。


「死者の異変は、我々だけの問題ではない」


「同意する」


「生者にまで影響が出る前に原因を見つける」


会議が終わる。


十三人がそれぞれ動き始めた。


場面が変わった。


北の村。


まだ多くの人々が生活している。


子供たちが走り回り、家々から煙が上がっていた。


レオはその光景を見つめる。


「ここが……」


あの廃村。


三百年前は、ごく普通の村だった。


村の中央では、境界監視者たちが地面を調査している。


その中に――。


守護者がいた。


「……!」


レオが隣を見る。


現在の守護者も、過去の自分を見つめている。


三百年前とほとんど変わらない姿。


白い光を纏い、村の地下へ手を向けている。


ヴァルドが近づいた。


「どうだ?」


過去の守護者は地面を指差した。


監視者の一人が答える。


「地下に小さな裂け目がある」


「死界への門か?」


「いや」


監視者は首を振った。


「まだ門ではない」


「境界が薄くなっているだけだ」


アシュレイが膝をつき、地面へ触れる。


「死者の声が聞こえる」


ヴァルドも目を閉じた。


しばらくして、顔を上げる。


「……多すぎる」


「この村で死んだ者だけじゃない」


「遠くから集まってきている」


十三人のネクロマンサーが、それぞれ死者の声を聞き始める。


その中の一人が突然立ち上がった。


「待て」


全員が振り返る。


「何か聞こえた」


ヴァルドが尋ねる。


「何だ?」


男は地下を見つめる。


「声だ」


「死者の?」


「……分からない」


男の顔から血の気が引いていく。


「でも……」


「俺の名前を呼んだ」


レオの表情が変わった。


「名前……」


三百年前から。


既に同じことが起きていた。


男は地下を見つめ続ける。


「また聞こえる」


『……こちらへ』


レオの背筋に冷たいものが走る。


同じ言葉。


自分が何度も聞いてきた言葉だった。


過去の守護者が勢いよく振り返る。


白い光が強くなる。


境界監視者たちも一斉に動いた。


「全員、裂け目から離れろ!」


ヴァルドが叫ぶ。


「どうした!」


「何かがこちら側を見ている!」


地面が震える。


ズズズズズ……。


村の地下から黒い霧が漏れ出した。


だが――。


すぐに消えた。


静寂。


何も起こらない。


一人のネクロマンサーが息を吐く。


「……終わった?」


アシュレイは地面を睨んだままだ。


「いや」


「始まったんだ」


景色が揺らぐ。


再び魂導院。


十三人が集まっている。


机の中央には――。


小さな黒い石。


レオたちが何度も見てきたものだった。


ミナが息を呑む。


「黒い石……」


アシュレイは石から距離を取っている。


「触るな」


一人の男が尋ねる。


「これが裂け目から?」


ヴァルドが頷く。


「村の地下で見つかった」


「魔力は?」


「分からない」


「死者の力は?」


「それとも違う」


十三人が黒い石を見つめる。


その中で――。


一人だけ。


石へ近づく者がいた。


「面白い」


若い男だった。


「境界の向こうから来た物質なら、調べる価値がある」


アシュレイが止める。


「やめろ」


「なぜ?」


「嫌な感じがする」


男は笑った。


「ネクロマンサーがそんな曖昧な理由で研究を止めるのか?」


「これは死者じゃない」


アシュレイの表情は険しい。


「だから危険なんだ」


ヴァルドが二人の間に入った。


「触るな」


男がヴァルドを見る。


「お前まで?」


「調査はする」


ヴァルドは黒い石を見る。


「だが、直接触れるのは禁止だ」


男は不満そうだったが、一歩下がった。


レオはその男を見つめる。


「……こいつ」


ガイアが答える。


「覚えておいた方がいい」


場面が変わる。


数日。


数週間。


黒い石の研究が続く。


教会。


境界監視者。


十三人のネクロマンサー。


三者が協力して調査していた。


しかし――。


少しずつ。


十三人の間に違いが生まれていく。


「危険すぎる」


「研究を中止するべきだ」


「いや、死界を知る機会だ」


「向こう側を理解できれば、死者を救えるかもしれない」


「本当に救うためなのか?」


「怖いから逃げるのか?」


言い争いが増える。


ヴァルドは研究継続を認めながらも慎重な立場。


アシュレイは黒い石そのものを封じるべきだと主張する。


そして――。


あの若い男は、黒い石を見つめ続けていた。


夜。


誰もいない魂導院。


男が一人で研究室へ入る。


封印された箱を開ける。


中には黒い石。


「……聞こえる」


男が手を伸ばす。


「ずっと……俺を呼んでいる」


『……こちらへ』


男の指先が黒い石へ触れた。


その瞬間――。


ドクン!


黒い光が研究室を覆った。


男の腕に、黒い模様が浮かび上がる。


レオが目を見開いた。


「……黒い紋章」


しかし。


形が違う。


現在の黒き境界派が使うものとも。


境界監視者の黒い紋章とも。


完全には一致しない。


男は自分の腕を見つめる。


「……見える」


黒い石の中に。


巨大な扉。


無数の魂。


そして――。


黒い目。


『……見つけた』


男は動けない。


『……お前は……こちらを見た』


『……ならば』


黒い目が開く。


『……こちらも、お前を見る』


記憶が激しく乱れた。


「っ!」


レオたちの視界が暗転する。


次の瞬間。


魂導院の地下へ戻っていた。


死者の男がレオの前に立っている。


『ここからだった』


レオは男を見つめる。


「黒い石に触れた奴は誰なんだ?」


男はしばらく黙っていた。


『十三人の一人』


「名前は?」


死者が答えようとする。


しかし――。


黒い霧が突然、その口を覆った。


『……っ!』


「何!?」


レオが鎖を伸ばす。


「《死者の鎖》!」


鎖が黒い霧を引き剥がす。


死者は苦しそうに後退した。


ガイアが叫ぶ。


「まだ何か残っている!」


地下の壁。


そこに刻まれていた十三本の鎖の印。


そのうち――。


三つが黒く染まり始めた。


カイが剣を抜く。


「三つ……?」


ミナも気づく。


「まさか……」


レオは見つけた記録を思い出す。


『我々の中に、裏切り者がいる』


だが。


死者は言った。


『……裏切ったのは……一人ではない』


黒く染まった三つの印。


レオはそれを見つめる。


「……三人」


死者の男がゆっくりと顔を上げた。


『黒い石に最初に触れた者』


『その研究に賛同した者』


『そして――』


三つ目の黒い印が強く輝く。


『誰にも知られず、教会へ情報を渡していた者』


レオの目が細くなる。


三百年前。


十三人のネクロマンサー。


その関係は、既に崩れ始めていた。


――第112話・完――

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