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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第6章「過去のネクロマンサー」
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第111話「三百年前の足跡」

北へ向かう道。


山々の間を抜ける細い街道を、五人は歩いていた。


レオは最後の監視者から受け取った石板を取り出す。


『魂を導く者』


『境界を守る者』


『双方が自らの意思で力を重ねること』


そして――。


『生者、死者』


『いずれかを犠牲とする必要はない』


「……これが本当に使えるなら」


レオが呟く。


「死界の門を閉じられる」


「条件は分かった」


ガイアが答える。


「だが、方法までは書かれていない」


「そこなんだよな」


カイが頭を掻く。


「結局、北に行って調べろってことか」


ミナが地図を広げる。


「最後の監視者が言ってた場所は、この先の山を越えた辺りだと思う」


レオが地図を覗く。


そこには町も村も記されていない。


ただ、小さな印だけが残されていた。


「何もないな」


「三百年前の場所だからね。今の地図には残ってないのかも」


守護者が突然立ち止まった。


「どうした?」


レオが振り返る。


守護者は街道から外れた森を見つめている。


その身体から淡い白い光が漏れた。


ガイアが反応する。


「何か感じている」


レオたちは森へ入った。


しばらく進むと――。


「……これ」


ミナが足を止めた。


苔に覆われた石柱。


ほとんど崩れている。


レオが苔を払う。


そこには、一つの文字が刻まれていた。


『死』


カイが眉をひそめる。


「縁起悪いな」


「待って」


ミナが反対側の苔も落とす。


続きが現れる。


『死者の声を聞け』


レオの表情が変わった。


「ネクロマンサーのための印……?」


守護者が石柱へ触れる。


白い光が流れ込んだ。


ゴゴゴ……。


地面が僅かに動く。


落ち葉の下から、古い石畳が姿を現した。


「道があったのか」


五人は石畳を進む。


森の奥へ。


さらに奥へ。


やがて――。


朽ち果てた集落が現れた。


「ここも廃村?」


ミナが周囲を見る。


だが、北の廃村とは違う。


家屋の造りが古い。


ほとんどが石造りだった。


そして至るところに、鎖を模した印が刻まれている。


レオはその一つに触れた。


「……似てる」


「何に?」


「俺の《死者の鎖》に」


ガイアが周囲を見回す。


「偶然ではないだろう」


レオたちは集落の中央へ進む。


そこには円形の広場があった。


中央に、五つの石碑。


カイが数える。


「五つ?」


レオは最も近い石碑を見る。


名前が刻まれていた。


『ヴァルド』


「……!」


ミナも気づく。


「ヴァルドさんの名前!」


隣の石碑。


『アシュレイ』


さらに三つ。


しかし――。


「削られてる」


残る三つの名前は、何者かによって削り取られていた。


カイが石碑に触れる。


「三百年前のネクロマンサーは、少なくとも五人いたってことか」


レオは頷く。


「ヴァルドとアシュレイ以外にも……」


その時だった。


『……違う』


声。


レオだけが振り返る。


「今の……」


「どうした?」


ミナが尋ねる。


「声がした」


レオは目を閉じる。


意識を集中させる。


「もう一度……」


静寂。


風が吹く。


そして――。


『……五人ではない』


レオの目が開く。


「どこだ!」


死者の鎖が現れる。


淡い光を放ちながら、集落の奥へ伸びていく。


「鎖が勝手に……」


カイが剣に手を添える。


「追うぞ」


五人は鎖を追った。


辿り着いたのは、崩れかけた大きな建物。


入口には文字が残っている。


『魂導院』


ミナが読む。


「こんどう……いん?」


ガイアが答える。


「魂を導く場所、という意味だろう」


レオが扉へ触れる。


ギィィ……。


扉が開いた。


中には大量の机。


本棚。


壊れた器具。


壁には、人間の身体と魂を描いた古い図。


カイが呟く。


「ここ……何なんだ?」


「研究所」


レオが答えた。


「たぶん、ネクロマンサーたちの」


奥へ進む。


壁に大きな絵があった。


十数人の人間。


その中心にヴァルド。


隣にはアシュレイ。


全員が同じ鎖の印を身につけている。


「五人どころじゃない……」


ミナが数える。


「十三人いる」


レオは絵を見つめた。


三百年前。


十三人のネクロマンサー。


その全員が死界の研究に関わっていたのか。


絵の下には文字が刻まれている。


『我らは死者を支配する者ではない』


『我らは魂を導く者』


『死者の声を聞き』


『残された想いを届け』


『最後には眠りへ導く』


レオは静かに読む。


「……魂を導く者」


自分が何度も呼ばれてきた言葉。


それはレオだけを指す呼び名ではなかった。


三百年前のネクロマンサーたちも、同じ言葉を使っていた。


守護者が壁の一角へ近づく。


白い光を放つ。


ガコン。


壁の一部が開いた。


「隠し部屋?」


五人が中へ入る。


小さな部屋だった。


中央に、一冊の古びた本が置かれている。


レオが表紙を見る。


『魂導院記録』


ページを開く。


最初の部分は、死者との対話方法や魂について書かれていた。


しかし途中から内容が変わる。


『境界の裂け目を確認』


『死者の声が増加』


『教会との共同調査を開始』


『境界監視者との接触』


ページをめくる。


『ヴァルド、境界調査へ』


『アシュレイ、黒き石の危険性を警告』


さらに――。


レオの手が止まった。


『十三名のうち、四名が死亡』


『三名が消息不明』


『二名が教会によって拘束』


『残る者たちは――』


その先が破られている。


「またかよ」


カイが顔をしかめる。


「肝心なところだけ無いな」


「誰かが意図的に破ったのかな」


ミナが破れた部分を確認する。


レオは次のページを開く。


そこには一つだけ文章が残されていた。


『我々の中に、裏切り者がいる』


空気が変わった。


カイの表情が険しくなる。


「裏切り者……」


「黒き境界派?」


ミナが尋ねる。


「まだ分からない」


レオは本を閉じない。


決めつけるには早い。


その時。


奥から声が聞こえた。


『……違う』


先ほどと同じ声。


レオが振り返る。


「まただ!」


死者の鎖が伸びる。


部屋の床へ。


鎖が床板の隙間へ入り込んだ。


守護者がその場所へ近づく。


白い光を流す。


ゴゴゴゴゴ……。


床が開いた。


地下へ続く階段。


そこから冷たい風が吹き上がる。


そして――。


『……裏切ったのは……一人ではない』


レオの表情が変わった。


「誰だ?」


返事はない。


代わりに、地下の暗闇で淡い光が灯った。


一つ。


二つ。


三つ。


死者の魂だった。


その数が増えていく。


十。


二十。


さらに増える。


カイが剣を抜く。


「随分いるぞ」


「待って」


レオが前へ出た。


「敵じゃない」


死者たちはレオを見つめていた。


やがて一人の魂が前へ出る。


胸には、鎖の印。


三百年前のネクロマンサーと同じ印だった。


『……魂を導く者』


レオは静かに答える。


「俺はレオ」


死者は僅かに笑った。


『ならばレオ』


『聞いてくれ』


地下にいる魂たちが、一斉に顔を上げる。


『三百年前』


『我々ネクロマンサーに何が起きたのかを』


レオは階段を見下ろした。


ここに残されている。


ヴァルドとアシュレイだけでは語れなかった過去。


三百年前。


死界の門を巡って戦ったネクロマンサーたちの記憶が。


レオは一歩、階段を下りた。


「聞かせてくれ」


「全部」


死者たちは静かに道を開けた。


冥夜の旅団は、三百年前の真実へ足を踏み入れる。


――第111話・完――

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