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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第5章「冥夜の旅団」
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第110話「冥夜の旅団、北へ」

黒い線が激しく震える。


最後の監視者と黒い霧を繋いでいる、たった一本の線。


それさえ切れれば――。


三百年間続いた侵食を終わらせることができる。


『……選べ』


黒い目がレオを見つめる。


『……生者か』


『……死者か』


レオは死者の鎖を握った。


「何度言わせるんだ」


守護者がレオの隣に立つ。


「俺は――どっちも見捨てない」


『……不可能だ』


「それを決めるのは、お前じゃない!」


レオが鎖を放った。


「《死者の鎖・魂連結》!」


無数の鎖が黒い線へ絡みつく。


『……無駄だ』


黒い線から力が流れ込む。


レオの鎖が黒く染まり始めた。


「ぐっ……!」


『……死者の力を使えば』


『……死者が失われる』


レオの周囲にいた魂たちが揺らぐ。


だが――。


一人の魂が前へ出た。


『違う』


黒い目が動く。


『……何?』


『俺たちは奪われていない』


別の魂も続く。


『自分で決めた』


『レオに力を貸すって』


『俺たちの意思だ』


次々と死者たちがレオの周囲へ集まる。


レオは小さく笑った。


「聞こえただろ」


鎖が再び白く輝く。


「俺が死者を使ってるんじゃない」


「一緒に戦ってるんだ!」


守護者が両手を広げる。


白い光が爆発した。


《死者の鎖・境界連結》


二つの力が重なる。


黒い線に亀裂が入った。


バキッ!


『……やめろ』


「まだだ!」


レオは鎖を引く。


「ガイア!」


『分かっている!』


ガイアの力がレオへ流れ込む。


黒い線がさらに細くなる。


外では――。


カイとミナが最後の監視者を守っていた。


黒い霧から次々と腕が伸びてくる。


「させるか!」


カイが飛び込む。


「《裂空斬・弐》!」


斬撃が黒い腕を切り裂く。


「右!」


ミナの声。


カイが身体を沈める。


その頭上を炎の槍が通過した。


「《フレイム・ランス》!」


ドォン!


別の黒い腕が炎に包まれる。


「いい援護!」


「そっちこそ!」


二人の背後では、最後の監視者が膝をついていた。


胸の黒い亀裂は、ほとんど消えている。


老人がその姿を見つめる。


「あと少しだ……」


だが。


最後の監視者が突然、顔を上げた。


「……下がれ」


カイが振り返る。


「何?」


「……来る」


地面が揺れた。


ズズズズズ……。


黒い霧が一点へ集まり始める。


巨大な目。


その周囲に、無数の腕が形成される。


ミナが息を呑む。


「まだこんな力が……!」


老人が叫ぶ。


「監視者から切り離される前に、すべての力を使うつもりだ!」


黒い目が開く。


『……鍵を渡せ』


「誰が渡すか!」


カイが剣を構えた。


『……お前たちではない』


黒い目はカイもミナも見ていなかった。


その視線は――。


最後の監視者の内部にいるレオへ向けられている。


『……魂を導く者』


『……お前はいずれ来る』


『……自ら門を越えて』


黒い空間。


レオにもその声が届く。


「行かない」


『……来る』


「行かないって言ってるだろ」


『……境界の真実を知れば』


『……お前自身が望む』


レオの表情が変わる。


「境界の真実……?」


ガイアが叫ぶ。


『聞くな! 今は切り離すことだけ考えろ!』


レオは一瞬だけ黒い目を見る。


そして――。


「……そうだな」


鎖を強く握った。


「知りたきゃ、自分で調べる」


『……』


「お前に教えてもらう必要はない!」


レオと守護者が同時に力を放つ。


「《死者の鎖・境界解放》!」


白い光が黒い線を包む。


バキィィィン!


黒い線が――。


切れた。


『――――!』


声にならない叫び。


黒い目が大きく歪む。


外の黒い霧も一斉に崩れ始めた。


「今だ!」


カイが走る。


ミナも杖を掲げる。


「一気に押し返す!」


「《裂空斬》!」


「《フレイム・ランス》!」


斬撃と炎。


二つの攻撃が黒い霧を貫いた。


最後の監視者もゆっくりと手を上げる。


胸に残っていた紋章が光る。


「……境界より離れよ」


光が広がった。


黒い目が押し潰されていく。


『……レオ……』


初めて。


その存在がレオの名前を呼んだ。


レオの目が見開かれる。


『……また……会おう』


黒い目が消える。


同時に、村を覆っていた黒い霧も完全に消滅した。


静寂。


風が吹く。


黒く染まっていた地面が、少しずつ元の色へ戻っていく。


「……終わった?」


ミナが呟く。


カイは剣を下ろした。


「たぶんな」


白い光が広がる。


その中からレオと守護者が現れた。


「レオ!」


ミナが駆け寄る。


「大丈夫!?」


「ああ」


レオは肩で息をしながら笑った。


「なんとか」


カイが肩を叩く。


「無茶しすぎだ」


「お前に言われたくない」


「何だと?」


「まあまあ」


ミナが苦笑する。


ガイアの声も響いた。


「全員生きている。それで十分だ」


レオは頷く。


「そうだな」


その時。


最後の監視者が立ち上がった。


巨体を覆っていた石が崩れ落ちていく。


中から現れたのは――。


一人の老人だった。


先ほどまでの巨大な姿ではない。


古びた服を着た、普通の人間ほどの大きさ。


胸には境界監視者の紋章。


黒い亀裂は消えていた。


「……三百年」


老人は自分の手を見る。


「ようやく……終わった」


記録者の老人が近づく。


二人はしばらく無言で見つめ合った。


「長かったな」


「……ああ」


それだけだった。


だが、その言葉には三百年分の重みがあった。


最後の監視者はレオを見る。


「魂を導く者」


「レオでいい」


「……そうか」


老人は僅かに笑った。


「レオ」


そして井戸を指差した。


「約束の記録を渡そう」


井戸の底から、小さな石板が浮かび上がる。


レオが受け取る。


そこには文字が刻まれていた。


『境界を閉じるための条件』


レオたちは石板を見る。


『第一』


『魂を導く者』


『第二』


『境界を守る者』


『第三』


『双方が自らの意思で力を重ねること』


そして最後。


『生者、死者』


『いずれかを犠牲とする必要はない』


レオは目を見開いた。


「やっぱり……」


三百年前には見つけられなかった方法。


犠牲を必要としない方法。


最後の監視者が頷く。


「三百年前、我々は間に合わなかった」


「だが、お前たちは違う」


守護者を見る。


「白き守護者よ」


守護者が静かに頷く。


「お前が待ち続けた意味はあった」


守護者はレオを見る。


レオも守護者を見る。


「……まだ終わってないけどな」


最後の監視者は北を指した。


「ならば進め」


「北へ」


カイが眉を上げる。


「まだ北なのか?」


「この先に何がある?」


最後の監視者は答える。


「三百年前のネクロマンサーたちが残した場所だ」


レオの表情が変わった。


「ネクロマンサー……」


「ヴァルドとアシュレイだけではない」


風が吹く。


「三百年前」


「死界の門を巡り、多くのネクロマンサーが動いていた」


「その過去を知らなければ、お前は先へ進めない」


レオは石板を握る。


第零封印。


黒き境界派。


二人の守護者。


黒い石。


境界を喰らおうとする存在。


そして――。


三百年前のネクロマンサーたち。


「行こう」


レオが歩き出す。


カイが続く。


「やっと旅団らしくなってきたな」


ミナが笑う。


「最初から旅団でしょ?」


ガイアも続く。


「五人揃っているならな」


守護者がレオの隣へ並ぶ。


レオ。


カイ。


ミナ。


ガイア。


守護者。


五人の冥夜の旅団。


彼らは北へ向かう。


三百年前に何が起きたのか。


なぜネクロマンサーたちは死界の門に関わったのか。


そして――。


なぜレオが「鍵」と呼ばれるのか。


その答えを求めて。


冥夜の旅団の最初の旅は終わった。


そして、新たな旅が始まる。


――第110話・完――

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