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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第5章「冥夜の旅団」
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第109話「閉じるための条件」

黒い空間に亀裂が走った。


バキッ……!


巨大な黒い球体。


その表面を覆っていた亀裂が、少しずつ広がっていく。


レオは死者の鎖を握り締めた。


「……効いてる」


目の前には、黒い目。


これまで何度もレオたちを見つめてきた存在。


だが、今は明らかに様子が違う。


『……やめろ』


「嫌だね」


レオは鎖を引いた。


「お前が何なのか、まだ分からない」


「だけど――」


守護者が隣に立つ。


白い光が強くなる。


「こいつを苦しめているなら、俺は止める」


『……愚かな……』


黒い腕が伸びてくる。


レオは鎖を放つ。


「《死者の鎖・境界連結》!」


鎖と白い光が絡み合う。


黒い腕を縛り上げた。


「今だ!」


守護者が前へ出る。


白い光が黒い球体へ突き刺さった。


バァァン!


球体の亀裂がさらに広がる。


『……二つの力……』


『……揃えるな……』


「やっぱり、これが弱点なんだな!」


レオが鎖を引く。


しかし――。


黒い球体から、無数の黒い鎖が飛び出した。


ガシャン!


レオの両腕に絡みつく。


「ぐっ!」


さらに足にも絡みつく。


「レオ!」


ガイアの声が響く。


『その鎖は力を奪う!』


「分かってる!」


レオは歯を食いしばった。


黒い鎖がレオの中へ入り込もうとする。


その瞬間――。


『レオ……』


死者たちの声が聞こえた。


『俺たちがいる』


『一人じゃない』


『力を貸す』


レオの身体から、淡い光が溢れる。


「……そうだ」


レオは顔を上げた。


「俺は一人じゃない」


死者の鎖が一気に輝く。


黒い鎖を押し返した。


「《死者の鎖・魂連結》!」


無数の死者の力が繋がる。


黒い球体が大きく揺れた。


『……なぜ……』


「俺が命令してるんじゃない」


レオは叫ぶ。


「こいつら自身が力を貸してくれてる!」


守護者の白い光が重なる。


二つの力が一つになった。


外側では――。


最後の監視者の胸から黒い亀裂が広がっていた。


カイが監視者を見上げる。


「おい……大丈夫なのか?」


ミナも杖を下ろさない。


「身体が崩れてる……」


老人が叫ぶ。


「まだだ!」


「え?」


「黒い亀裂だけを壊せば、監視者そのものも壊れる!」


カイが目を見開く。


「じゃあレオは……」


「中にいる!」


ミナの顔が青ざめる。


「レオまで巻き込まれるんじゃ……」


老人は首を振る。


「違う」


「では何?」


「最後の監視者を救うには、黒い力だけを切り離す必要がある」


「そんなことできるの?」


老人は守護者を見る。


「三百年前にはできなかった」


「だが……」


「今なら可能かもしれん」


その時。


監視者がゆっくりと顔を上げた。


「……白き守護者」


守護者が振り返る。


「……魂を導く者」


監視者の声が震える。


「……二つの力を……重ねろ」


カイが驚く。


「こいつ、喋り方が変わったぞ」


ミナも頷く。


「黒い力が弱まってる……!」


老人は拳を握った。


「今だ……」


「何をすればいい?」


カイが聞く。


老人は監視者の胸を指した。


「黒い亀裂を攻撃するな」


「じゃあどうする?」


「白い紋章を守れ」


カイは一瞬、意味が分からなかった。


「守る?」


「そうだ」


「黒い力を壊そうとすれば、境界まで壊れる」


「ならば、境界を守る力を強くする」


ミナが理解した。


「そうすれば、黒い力だけが外へ押し出される……?」


「その通りだ」


カイは剣を握る。


「だったらやるしかねぇ!」


ミナも杖を構える。


「私も!」


二人が監視者の左右に立った。


「《裂空斬・弐》!」


カイの斬撃が地面へ走る。


黒い霧が押し返される。


「《フレイム・サークル》!」


ミナの炎が監視者を包む。


黒い霧がさらに縮んだ。


老人が叫ぶ。


「今だ!」


守護者の白い光が強まる。


監視者の胸から、黒い霧が噴き出した。


「出てきた!」


カイが叫ぶ。


だが――。


黒い霧の中に、巨大な目が浮かぶ。


『……邪魔をするな』


ミナが杖を向ける。


「あなたが邪魔してるんでしょう!」


炎が黒い目を包む。


黒い目が揺らぐ。


『……愚かな……』


『……境界を守れば……いずれ……すべて失う』


「それでも!」


ミナが叫ぶ。


「誰かを犠牲にして終わらせるなんて、私は嫌!」


カイも続く。


「俺もだ!」


黒い目が消えかける。


『……三百年前も……そう言った者がいた』


その言葉に、老人が反応した。


「……あの二人か」


レオのいる黒い空間でも、その言葉は聞こえていた。


「三百年前の二人……」


黒い球体の奥に、再び映像が浮かぶ。


若い最後の監視者。


そして黒い紋章を持つ監視者。


二人は、裂け目の前に立っていた。


『このままでは境界が崩れる』


『だから閉じる』


『だが、そのためには生者の魂が必要だ』


『……それしか方法がないのか?』


『当時は、それしかなかった』


映像が途切れる。


レオは目を見開く。


「……生者の魂を使った」


ガイアが答える。


『三百年前の封印には、生きている人間の魂も使われた』


レオは拳を握る。


「だから黒い守護者は拒んだのか」


『そういうことだ』


レオは守護者を見る。


「でも……」


白い光がレオの身体を包む。


「今は違う」


守護者が頷く。


レオは黒い球体へ向き直る。


「死者の魂も、生者の魂も犠牲にしない」


『……不可能だ』


「やってみなきゃ分からない」


『……お前一人では……』


「一人じゃない!」


レオの周囲に、無数の死者たちが現れる。


さらに白い光が広がる。


守護者。


カイ。


ミナ。


ガイア。


そして――。


「冥夜の旅団だ」


レオは叫ぶ。


「俺たちならできる!」


黒い球体に、巨大な亀裂が走った。


バキィィン!


『……っ!』


初めて、黒い目が明確に苦しんだ。


「今だ!」


レオが鎖を放つ。


《死者の鎖・境界解放》


守護者の白い光が重なる。


外では監視者の胸から、黒い霧が一気に噴き出した。


「うおおおおっ!」


カイが剣を振り抜く。


ミナも炎を叩き込む。


老人は両手を広げた。


「三百年……!」


「ようやく……!」


黒い霧が監視者から離れていく。


しかし、完全には離れない。


一本の黒い線だけが、監視者と黒い霧を繋いでいる。


老人の顔が青ざめた。


「まだだ……!」


「何が足りない!」


「最後の条件がある!」


その瞬間、監視者が口を開いた。


「……門を閉じるには」


「……境界を守る者」


「……魂を導く者」


「……そして――」


声が途切れる。


レオの目の前に、一つの文字が浮かんだ。


『選択』


レオはその文字を見つめる。


「……選択?」


黒い目が再び笑う。


『……そうだ』


『……最後には……必ず選ばなければならない』


レオは拳を握る。


「違う」


『……何?』


「三百年前とは違う」


レオは鎖を握り直す。


「俺は、どちらも選ぶ」


その瞬間――。


黒い線が大きく震えた。


そして、最後の監視者の身体から完全に切り離され始める。


――第109話・完――

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