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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第5章「冥夜の旅団」
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第108話「二つの紋章」

黒い霧が村を覆っていた。


最後の監視者の胸に刻まれた黒い亀裂。


そこから溢れ出す力は、まるで意思を持っているかのように周囲へ広がっていく。


レオは死者の鎖を構えた。


「……あの黒い亀裂を消す」


カイが剣を握り直す。


「どうやってだ?」


「中に入る」


「は?」


ミナが目を丸くした。


「中って……あの監視者の中に?」


「そうだ」


ガイアがため息をつく。


「やっぱりそうなるか」


「何か方法があるのか?」


「ある」


ガイアが監視者の胸を見る。


「ただし、普通に入ればお前まで境界に取り込まれる」


「なら、守護者の力を借りる」


レオの隣に守護者が立つ。


白い光が静かに揺れている。


老人が口を開いた。


「……その方法を使うなら、二つの紋章が必要になる」


レオが振り返る。


「二つ?」


老人は自分の胸元を指した。


境界監視者の紋章。


そして、監視者の胸に刻まれた黒い紋章。


「白き紋章と黒き紋章」


「この二つは、もともと一つだった」


カイが眉をひそめる。


「一つ?」


「三百年前、境界監視者は一つの組織だった」


老人はゆっくりと語り始める。


「境界を閉じる者」


「境界を観測する者」


「二つの役目を、一つの紋章に刻んでいた」


ミナが尋ねる。


「じゃあ、どうして分かれたの?」


老人は目を伏せた。


「三百年前の事件だ」


その言葉と同時に、監視者の身体が大きく震えた。


「……来るぞ!」


カイが叫ぶ。


黒い霧が地面を這う。


「《裂空斬》!」


斬撃が霧を切り裂く。


しかし、切られた霧は二つに分かれただけだった。


「くそっ!」


「攻撃するほど増える!」


ミナが叫ぶ。


「じゃあ、俺が止める!」


レオが鎖を伸ばした。


「《死者の鎖・群縛》!」


無数の鎖が黒い霧を絡め取る。


しかし――。


ズズズズズ……。


鎖が黒く染まっていく。


「レオ!」


ガイアが叫ぶ。


「その力は吸収される!」


「分かってる!」


レオは鎖を切り離した。


「だから、死者の力だけで押さえ込まない」


レオは守護者を見る。


守護者が頷いた。


白い光が広がる。


「今だ!」


レオが鎖を再び伸ばす。


《死者の鎖・境界連結》


白い光と死者の鎖が重なる。


黒い霧が押し返された。


「よし!」


カイが走る。


「道ができた!」


ミナも続く。


「私も行く!」


「カイ、ミナ!」


レオが振り返る。


「外を頼む!」


「分かった!」


カイが剣を振る。


「任せろ!」


ミナも杖を構える。


「絶対に戻ってきてよ!」


レオは頷いた。


「必ず戻る」


そして守護者とともに、最後の監視者の胸へ飛び込んだ。


白い光が二人を包む。


視界が暗転する。


次の瞬間――。


そこには、巨大な空間が広がっていた。


地面もない。


空もない。


ただ、無数の鎖が浮かんでいる。


そして、その中央に巨大な黒い球体があった。


「……ここが」


レオが辺りを見る。


「監視者の中?」


ガイアの声が遠くから響く。


『正確には、境界に触れた部分だ』


レオは黒い球体を見る。


「……あれか」


球体の表面には、一つの紋章が刻まれていた。


黒い円。


その中央に、縦線。


「黒き紋章……」


守護者が一歩前へ出る。


白い紋章が光る。


すると黒い球体も反応した。


ドクン。


ドクン。


まるで心臓のように脈打つ。


「二つが反応してる」


レオが呟く。


その瞬間。


無数の鎖が動き始めた。


ガシャン!


レオの腕に絡みつく。


「くっ!」


守護者が白い光を放つ。


しかし鎖は消えない。


黒い球体から声が響く。


『……二つの紋章』


レオは顔を上げた。


「お前は……」


『……白き守護者』


『……魂を導く者』


『……三百年前と同じだ』


レオの表情が変わる。


「三百年前……?」


『……あの時も』


『……二つの力がここへ来た』


「誰だ?」


沈黙。


そして――。


黒い球体の表面に映像が浮かび上がった。


三百年前の村。


若い監視者たち。


その中に、まだ人間だった最後の監視者がいる。


隣には――。


もう一人。


黒い紋章を持った人物。


二人は向かい合っていた。


『境界を閉じるべきだ』


『まだ早い』


『裂け目は広がっている』


『だからこそ、向こうを調べる必要がある』


二人の意見は食い違っていた。


そして、その中央に黒い石が置かれる。


映像の中の黒い石から、声が響いた。


『……開ければいい』


レオが息を呑む。


「……あの声」


ガイアが低く呟く。


『同じだ』


映像の中の二人が振り返る。


黒い石の奥に、巨大な黒い目が浮かんでいた。


『……境界など必要ない』


『……すべてを一つにすればいい』


映像が途切れる。


レオは拳を握る。


「こいつが……三百年前から」


黒い球体が脈打つ。


『……違う』


「何?」


『……我々が呼んだのではない』


『……向こうから……見つけられた』


レオは黙った。


これまでの出来事が繋がり始める。


黒い石。


裂け目。


黒き紋章。


そして、こちら側を見つめる存在。


「じゃあ……黒き紋章を持った奴が呼んだわけじゃないのか」


『……黒き紋章は……境界を監視するために生まれた』


「監視するため?」


『……だが……力に触れた』


『……そして、黒く染まった』


守護者が黒い紋章を見つめる。


レオは気づいた。


「この紋章……黒き境界派が使っていたものとは違う」


ガイアが答える。


『ああ』


『似ているが、根本が違う』


黒い球体の周囲に、無数の文字が浮かぶ。


『白き紋章――境界を閉じる』


『黒き紋章――境界を観測する』


『二つが揃えば――』


文字が途中で途切れた。


「続きは?」


レオが問いかける。


黒い球体は答えない。


その代わり――。


巨大な黒い目が開いた。


『……お前には……まだ早い』


「またそれか!」


レオが鎖を構える。


「俺はもう逃げない!」


『……ならば……来い』


黒い腕が球体から伸びてきた。


守護者が前へ出る。


白い光と黒い腕が衝突する。


バァン!


守護者が押し返される。


「守護者!」


レオは鎖を伸ばした。


《死者の鎖・魂連結》


無数の死者の声が響く。


『レオ……』


『力を貸す……』


『一緒に戦う……』


鎖が白く輝く。


黒い腕を拘束する。


「これが……俺の力だ!」


レオが鎖を引く。


「死者は誰かの道具じゃない!」


黒い腕が砕ける。


だが、その奥からさらに黒い腕が伸びる。


一本。


二本。


三本。


「まだ来るのかよ!」


ガイアが叫ぶ。


『レオ、長くは持たない!』


「分かってる!」


レオは守護者を見る。


白い光。


そして黒い紋章。


「二つの力が揃えば、境界を閉じられる」


レオは呟く。


「だったら……」


守護者が白い光を強める。


レオも鎖を握り直した。


「この力で、お前を監視者から引き剥がす!」


二つの力が重なる。


白と黒。


相反する二つの紋章が、同時に輝き始めた。


そして――。


黒い球体の奥で、何かが叫んだ。


『……まだ……その力を使うな!』


レオは目を見開いた。


初めて聞いた。


あの存在が、明確に動揺した声を。


「……やっぱり」


レオは笑う。


「この力は、お前にとって都合が悪いんだな」


黒い目が大きく開く。


『……やめろ』


レオは鎖を引いた。


「断る!」


白い光が爆発する。


その瞬間、黒い球体に大きな亀裂が走った。


外では――。


最後の監視者の胸にも、同じ亀裂が走っていた。


カイが叫ぶ。


「おい! 何か変わったぞ!」


ミナが監視者を見る。


「黒い部分が……!」


最後の監視者が膝をつく。


そして、胸の黒い紋章がゆっくりと浮かび上がった。


三百年間、隠されていた二つの紋章。


その本当の役割が、ついに明らかになろうとしていた。


――第108話・完――

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