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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第5章「冥夜の旅団」
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第107話「黒き監視者」

轟音とともに、巨大な腕が地面を叩きつけた。


ドゴォォォン!


レオたちは四方へ散る。


「危ねぇ!」


カイが転がりながら立ち上がった。


砕けた地面から、無数の石片が飛び散る。


ミナは杖を掲げ、飛んできた石を炎で焼き落とした。


「攻撃が重すぎる……!」


「正面から受けるな!」


レオが叫ぶ。


巨大な監視者はゆっくりと身体を起こした。


全身を覆う石と鎖。


そして胸の中央に刻まれた黒い亀裂。


その亀裂から、黒い霧が漏れている。


「……境界……侵入者……排除」


「待て!」


レオが声を上げる。


「俺たちは、この村を壊しに来たんじゃない!」


巨体は止まらない。


腕が横薙ぎに振られる。


カイが前へ出た。


「だったら、止めるしかねぇ!」


剣を振り抜く。


「《裂空斬》!」


斬撃が巨大な腕へ直撃する。


ガキィン!


しかし――。


弾かれた。


「硬っ……!」


カイの腕が痺れる。


「カイ!」


ミナが杖を向ける。


「《フレイム・ランス》!」


炎の槍が巨体の肩へ突き刺さる。


ボォン!


炎が広がった。


だが、黒い亀裂から霧が噴き出した瞬間、炎が吸い込まれていく。


「嘘……!」


「力を食ってる!」


ガイアが叫ぶ。


「普通の防御じゃない! あいつは攻撃そのものを境界の力へ変換している!」


レオは目を細めた。


「……あの黒い亀裂か」


老人が叫ぶ。


「そうだ!」


「そこに触れるな!」


レオが振り返る。


「知ってるのか!」


「三百年前から、あの亀裂は存在している!」


老人の声には明らかな焦りがあった。


「最後の監視者は、本来あんな姿ではなかった!」


巨大な監視者が動きを止める。


老人を見た。


「……記録者」


老人も巨体を見返す。


「まだ覚えていたか」


「……記録……守る」


「そのために、すべてを敵と認識しているのか」


「……境界……侵す者……排除」


老人が苦しそうに目を閉じる。


「三百年前と同じだ……」


レオが問う。


「何があった?」


老人は答えようとした。


しかし――。


黒い亀裂が突然、大きく開いた。


ズズズズズ……。


黒い霧が一気に溢れ出す。


「っ!」


守護者がレオの前に立った。


白い光が広がる。


黒い霧と白い光がぶつかる。


バチバチバチッ!


守護者の身体が押される。


「守護者!」


レオが鎖を伸ばす。


《死者の鎖・連結》


白い光と鎖が繋がった。


守護者の力が安定する。


「……ありがとう」


守護者が僅かに振り返る。


その瞬間だった。


巨大な監視者が拳を握る。


「……鍵」


レオの身体が止まった。


「……鍵を……確認」


「俺のことか?」


監視者の胸の亀裂が光る。


「……魂を導く者」


レオの背筋に寒気が走った。


その言葉は、今まで何度も聞いてきたものだった。


「……白き守護者」


監視者の視線が守護者へ移る。


「……二つの力……確認」


ガイアが低く呟いた。


「レオ……気をつけろ」


「分かってる」


「違う」


ガイアの声が険しくなる。


「こいつは、お前たちを敵として認識しているんじゃない」


「じゃあ何だ?」


「試している」


巨大な監視者が両腕を広げた。


地面に無数の紋章が浮かび上がる。


村全体が白く輝いた。


老人が叫ぶ。


「まずい!」


「何が起きる!」


「監視者の本来の機能だ!」


「本来の機能?」


「侵入者を殺すんじゃない!」


老人が指を震わせる。


「境界を越える資格があるか……それを試すんだ!」


次の瞬間。


地面から無数の黒い鎖が伸びた。


カイが飛び退く。


「なんだこれ!」


鎖が足元を追ってくる。


ミナも走る。


「速い!」


レオは動かなかった。


「レオ!」


カイが叫ぶ。


レオは鎖を見つめていた。


死者の鎖とは違う。


これは――。


「……死者の力じゃない」


ガイアが答える。


「境界そのものだ」


黒い鎖がレオの身体へ絡みつく。


ガシャン!


レオは拘束された。


「レオ!」


ミナが駆け寄ろうとする。


「来るな!」


レオが叫ぶ。


「これは俺だけを狙ってる!」


黒い鎖が胸元へ集まる。


そして、レオの中にある力を探るように動いた。


「……魂を導く者」


「……境界を守る者」


「……二つの力」


監視者がゆっくりと近づいてくる。


「……門へ進む資格を問う」


レオは歯を食いしばる。


「俺たちは門を開けに来たんじゃない」


「……ならば示せ」


「何を?」


「……死者を捨てないこと」


レオの目が見開かれた。


監視者の身体から、無数の声が響き始める。


『苦しい』


『助けて』


『ここから出して』


『忘れないで』


村に残された死者たちの声だった。


ミナが震える。


「この声……」


老人が俯く。


「三百年前……この村で死んだ者たちだ」


カイが拳を握る。


「ずっと閉じ込められてたのかよ……」


「違う」


レオが答えた。


「閉じ込められているんじゃない」


黒い鎖の先を見つめる。


「この監視者が……守ってる」


監視者は動かない。


レオは鎖を握った。


「お前は、こいつらを閉じ込めたいわけじゃない」


「……」


「死者が外へ出れば、境界が壊れる」


「……」


「だから……ここに留めてるんだな」


巨大な監視者の胸の亀裂が揺れた。


初めて、その動きが止まった。


「……正解」


ガイアが驚く。


「レオ……」


「こいつは敵じゃない」


レオは静かに言った。


「三百年間、ずっとここを守ってたんだ」


しかし――。


黒い亀裂から、別の声が響いた。


『……違う』


レオの顔が強張る。


『……守っているのではない』


黒い霧が広がる。


監視者の身体が大きく揺れた。


『……縛っている』


老人が叫ぶ。


「その声は……!」


レオが振り返る。


黒い亀裂の奥に、一瞬だけ巨大な黒い目が浮かんだ。


「……また……お前か」


目がレオを見つめる。


『……鍵』


『……まだ……こちらへ来ないのか』


守護者が前へ出る。


白い光が爆発した。


黒い目が消える。


巨大な監視者も膝をついた。


「……境界……異常」


レオは鎖を握り直す。


「やっぱり……こいつ自身じゃない」


ガイアが頷く。


「黒い亀裂に、何かが入り込んでいる」


老人が震える声で呟いた。


「三百年前も……同じだった」


「何?」


「最後の監視者は……あの声に触れられてから、変わった」


レオの視線が黒い亀裂へ向く。


「なら、やることは決まった」


カイが剣を構える。


「壊すのか?」


「違う」


レオは首を振った。


「監視者を助ける」


ミナも杖を構える。


「じゃあ、あの黒い亀裂を取り除く?」


「ああ」


守護者がレオの隣に立つ。


ガイアが笑う。


「相変わらず無茶を言うな」


レオも僅かに笑った。


「いつものことだろ」


巨大な監視者が立ち上がる。


黒い亀裂から、再び黒い霧が噴き出した。


そして――。


その奥から、あの声が響いた。


『……ならば……試してみろ』


黒い亀裂が大きく開く。


「来るぞ!」


カイが叫ぶ。


レオは死者の鎖を構えた。


「今度は……俺たちが、お前を助ける!」


黒い霧と白い光が、再び激突した。


三百年間続いた監視者の苦しみ。


その正体が、ついに明らかになろうとしていた。


――第107話・完――

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