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半妖精戦記 〜不吉の子と亡命の姫と女神の剣〜  作者: 近藤銀竹
第二十四章  帰還戦争

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第百五十四話 『市街戦へ』

 翌朝。

 日が昇る前に行われた作戦会議において、最初に(もたら)されたのは凶報であった。


「約十五日後に、ジオの独立遊撃軍が到着する、と?」

「は」


 リーシの確認に斥候が恐縮した。

 静まる謁見室。


「数は?」

「およそ五千」


 どよめきが起こった。


「到着すれば、危機的状況に……」

「もとから危機的状況よ! ……ですわ」


 リーシの沈んだ声に、セラーナが努めて明るい声を重ねた。余りに世慣れた口調に左右の者がぎょっとした視線を送る。セラーナはそれに気付き、品格を装いかけて、あきらめた。


「……ああ、やめやめ! 王女ぶっても戦況は好転しないわ!」


 セラーナは首を振ると、立ち上がった。


「みんな、あたしたちは今まで何回も危機的状況を乗り切ってきた。今回も乗り切るよ!」


 言葉に反応して重鎮達の顔から陰鬱な陰が消え去る。一同は頭を下げた。

 セラーナが再び口を開く。


「いい話があるわ。魔獣軍の空中部隊は壊滅した」


 それは喜びよりも驚きをもって応じられた。


「まさか!」

「そのまさかよ! ワイバーン七体と青いドラゴンの計八体、ここにいるフィスィアーダが倒してくれた」

(われ)が倒したのは六体。一体は既に倒されていた。もう一体はセラーナが倒した」


 フィスィアーダが訂正すると。謁見室はさらに驚きに包まれた。


「イルグナッシュの対侵入結界に綻びがある以上、そこから侵入してくる航空戦力がなくなったのはいい情報でしょ?」


 重鎮達は詰め寄らんばかりに驚いた。


「殿下! なんという無茶を!」

「殿下! もう少しお立場というものを!」

「殿下!」

「殿下!」


 肩を並べて戦ったリーシすら、片手で顔を押さえて天を仰いだ。


「はいはい気をつけまーす」


 セラーナは、この話は終わりだとばかりに手を振って一同を静粛にさせる。


「リーシ。北門は、あとどれくらい持ちそう?」

「持って今日いっぱいでしょう」

「じゃあ、門前広場の防護柵に、防御に秀でたアルフリス隊を並べて、周囲の高い建物にロベルク隊を伏せて迎撃するのはどうかしら」

「北門の兵力は我が隊の七倍。七倍の兵力ならイルグネで体験しております。一日程度なら、持ちこたえて見せますが……」


 アルフリスの返答に、セラーナは小さく息を吐く。


「命を明日に繋ぐとして、そのあとでどうするか、よね」


 ロベルクが挙手する。


「イルグネと言えば、また氷の壁を立てて敵軍を引き延ばすのはどうだろうか。道をくねらせれば、壁の上に伏せた僕の隊は複数回攻撃を加えることができる」

「待ってくれロベルク殿」


 財務官が口を挟む。


「それでは北街区が戦場になってしまう。損失は甚大だ」

「おっしゃるとおりです。命……国の命運と復興の費用とを天秤に掛けて、比較的価値がある方を言いました」

「ぬう……」


 こう言われては財務官も黙らざるを得ない。


「北街区は放棄しましょう。住民だけでなく、支援の民間人も退避を」


 セラーナのひと声で、作戦の方向性は決まった。


「日の出まで半刻……ロベルク、一刻でできる?」

「雪のひとひらを溶かすより容易いよ」


 会議は散会となった。





 日の出をともに、ジオ軍は再びイルグナッシュの城壁に肉薄した。

 やや数は減ったとは言え、オーク軍の猛攻は衰えを知らない。

 オーク軍の破城鎚が何度も市門に打ち付けらる。死を恐れぬオーク軍は、破城鎚を打つ者と壊れた破城鎚を片付ける者、死体をどかす者に分かれて、ひっきりなしに市門に打撃を加え続ける。


 昼前、ついに市門は粉砕された。

 オーク軍が北街区に雪崩れ込む。

 彼らが見たのは氷の壁で囲まれた門前広場と、そこから延々と続く氷の回廊であった。門前広場には氷でできた上り坂が広がっている。オーク軍からはその先に竿状武器の穂先が見えていた。

 敵の姿を認めたオーク軍は、我先にと氷の坂へと殺到する。しかし、そこを駆け上ろうとした途端、ほぼ全員が足を滑らせて無様に倒れ伏した。


「放て」


 壁の上に身を潜めていたロベルクが非常な命令を下す。

 将棋倒しになったオーク兵の頭上から、矢と魔法が降り注いだ。


「罠だ! 戻れ!」

「進め! 坂の向こうに敵がいる!」


 オーク軍は壊乱状態に陥った。右往左往している内に、頭上からの攻撃を受けてひとり、またひとりと倒れていく。

 そのうち倒れたオーク兵の死骸を踏むことで、滑らずに氷の坂を登り切った者が現れ始めた。

 次々と坂の登頂に成功するオーク兵。だがその先にはアルフリス隊が盾と槍衾を構えて陣取っていた。数は千。東と南の守備兵が薄く見えないように半数を残してきた。


「敵は少ないぞ! 突っ込め!」


 第一の関門を突破したオーク兵は、士気を上げてアルフリス隊へと向かう。だが彼らは足下が氷の上り坂から氷の下り坂になったことに意識が向かなかった。足を滑らせ、今度は腹を晒した格好で敵の目の前に滑り落ちていったオーク兵は、アルフリス隊の恰好の餌食となっていった。

 二段、三段に張り巡らされた罠に、進軍の速度を緩めるオーク軍。

 そのとき、ジオ軍の陣から太鼓の音が響いた。撤退の合図だ。

 その音を聞いたオーク軍は、完全に前に進む意思を失った。いつ攻撃を仕掛けてくるか分からない敵に背を向け、全速力で市門から出て行く。

 ロベルク隊は本日何回目になるか分からない遠隔攻撃の斉射で、追い打ちを掛けた。


 この短い戦いだけで、オーク軍は約五百八十の兵を失い、総兵力としても当初の七割程度になっていた。

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