ここにきて、ズンドウ?!
はっ、やばっ……私、やっちゃった?
パニックから我にかえる。
目の前にうつ伏せの状態で、ぷかぷか浮かんでいる大きな男性を目にして、サーッと血の気を引かせた。
ヤバい、このままじゃ、この人死んじゃう!
「チビー、ちょっと手伝ってー!」
大声で叫ぶと既にチビーは側に来ていて、私とぷかぷか気絶して浮いている大柄な男性を交互に見比べ、呆れたように深いため息を吐いた。
「お前、バカだな」
「へっ?」
チビーが、喋った?!
私がポカンと口を開いていると、チビーはじゃぶじゃぶと湯に入り、浮いている男性をひょいっと軽々しく肩に担ぎ、そのまま歩いていく。
へっ?チビーなのに、力持ち?!
次々と起こることに、私の思考が追い付いていかない。
そんな唖然としている私を無視して、チビーは、男性を運んで地べたに寝せた。チビーは、男性の様子を見て、人工呼吸のように胸を圧迫し始める。
私はようやく我にかえると、慌ててチビーのもとへじゃぶじゃぶ近づいていった。
チビーが、男性の胸を両手で繰り返し押していると、男性の口から飲んだであろうお湯が出てきた。チビーは、男性の胸に耳を当てて確認してから、口にも軽く耳を近づけて息をしているか見ているみたいだ。
スゴい、レスキューチビー?
チビーって、何者?
私がポカンと口を大きく開いて、チビーのてきぱきとした一連の動きを眺めていると、チビーは、何に気づいたのか急に温泉の反対側へと走りだした。
「チビー、どうしたの?」
慌てて私が声をかけると、チビーは直ぐに戻ってきた。その手には、何やら服らしきものや剣みたいなものを持っている。
チビーは、裸の男性に上着をかけ、マントらしきものもかけた。側にはおそらくは男性の持ちものであろう、剣を置いている。
「チビー、スゴい!」
思わず声をかけると、チビーは可哀想な子を見るかのように視線を私に向けてきて、やれやれと面倒臭そうに肩を竦めた。
「ズンドウが、どんくさいだけだろ。……ったく、世話のやける……」
「へっ?」
ズンドウ?
一瞬、思考が停止する。
「今、何て……?」
「何、ボケッとしてるんだ、ズンドウ。いつまでズンドウ姿でいる?」
スゴい聞き覚えのある声だ……。まさか……チビーが、あのズンドウ犯猿?!
「あ、あんたが、ズンドウ、ズンドウ言ってたヤツかぁー!」
ぷるぷると怒りで震えながら、ピシッとチビーを指差すと、チビーは、ニヤリと笑った。
「やっと気づいたのか、ズンドウ。いつまで裸でいる。早く服を着ろ」
くぅー、まさかに、チビーがズンドウ犯猿だったなんてー!
「……って、まさか、ずっと無言で喋らなかったのって!」
「ズンドウが、いつ気づくのかって、わざと黙っていた」
「うぐぐぐぎ……」
可愛いチビーだと思っていたのに、完全に騙されたー!
「それで、コイツ、どうする?」
チビーは、倒れたままの男性を指差して私を見た。
私は、ズンドウ犯猿の件ですっかり忘れていた裸の男性のことを思い出した。
「えぇっと、このままにしていたら、不味いかな?起きるまで待っていた方がいいと思う?」
私は、体を拭いて服を着込みながらチビーに尋ねた。
チビーは私に視線を向けると軽く首を振る。
「別にこのまま放って置いても問題ないと思うな。コイツ、かなり強そうだし。温泉はトンアが苦手としてるから、危険はないと思うぞ。そのうち、すぐ目覚めるさ」
「そう?大丈夫なら、このまま行こうかな?」
ほら、男性の大事な所、思いっきり蹴っちゃったから、顔合わせづらいのよね。
思い出して思わず、顔が赤くなる。
「よし、この人が安全だというなら、チビー、このまま私たちは、出発しよう!」
ちょっと罪悪感を感じながら、チラッと未だ目覚めない気を失ったままの男性を見て、心の中で『ごめんなさい』と謝った。
それからふと思い付いて、ポケットから赤い魔石を取り出して一つ側に置く。
「確か、どんな病気も怪我も呪いまで祓っちゃう万能石だから、お詫びになるよね?」
我ながらいい仕事をしたと思い、私はチビーと一緒に温泉を後にすることにした。
私が思いつきで置いていった赤い魔石が、後でどんな波紋を起こすのかを知らずに……。




